第21話 兵士と稽古
私の出来ることなんて限られてる。限られてる中で出来ることを掴まなければいけない。
腹の痛みはまだ鈍痛がするがそれでも私は横に駆ける。
真正面から突っ込めば間違いなくカウンターを食らう未来しか見えないのだからとにかく横へ走るが、ゲイジーさんも私に合わせて構えてるため結局正面という構図が続く。
それなら全力の一歩を横で蹴り飛び。着地も勢いを殺さずに蹴り飛ぶ。もう一度繰り返して態勢を崩してるように見えるゲイジーさんに飛びかかれば一打当てれるはずと思ったが3歩目で横にすっ転んでしまう。
「おい!?大丈夫か?」
「はいぃ…大丈夫です」
私の所に来てくれて手を差し伸べてくれる。どうして上手くいかないのだろうかと思うがこれも実戦が足りてない証拠か、実践なのか実戦なのか…
「んー?なんかリアラちゃんおかしくねぇか?」
「なにがです?」
「その人並み超えた速さ持ってるのに使いこなせてないところがだよ」
私ってそんなに速いんだ?とは思ったけど、ただ使いこなせてないと言われてるし鍛錬不足なんじゃないだろうか?
「ダズ!お前から見てどうだった?」
「ばけもんすね」
「だろ?」
なにが、だろ?なのかは分からない。私が首を傾げてるとなんか説明しようと頑張ってくれてるがよく分からない…
「あー、なんていうか、こう、動けるのに動けないみたいなやろうとしてるのにやれないみたいな?」
「私もいつも思ってます…」
なんだろうか、ディズさんとも似たようなやり取りをした記憶がある気がする。あの時はなんて言われたんだったか?やる気ある?とかだっけ?
ただ一応転んでしまってはいるが私としては大まじめなわけで、ゲイジーさんの言いたいところは私も言いたいところだから同じように悩んでくれるのはどことなく嬉しい。
「ゲイジー、その子は教えても無駄だと思うっすけど…」
「もったいねぇだろ!」
「まぁ、もったいないっすね…」
ダズさんは気だるそうに喋りながら無駄と言ってきた。ショックではあるが…そこまで言われると私じゃだめなのかと思ってると。
ダズさんがこちらに来て槍を構えてきた。
「えっと…?」
「受けるんで、とにかく攻めてきていいっすよ…」
「はい?」
「あと、ゲイジーは邪魔なんで夜警代わって…」
そう言うとゲイジーが「わりぃ、たのむわ」と言って選手交代?みたいだ。
ゲイジーさんと違ってダズさんは体格も大きく。圧がすごいのだが、それを差し置いても『受けるんで』と言ってたってことは攻めてこないということだろうか?反撃されたら痛いんだろうなって思いつつ。
私は構えて飛びかかろうとすると。
「あ、それは無しで普通に殴ってきてもらっていいすか…?」
前のめりになりながら止まって。普通ってなんだ?と思いつつ、とりあえず殴りつける。
殴りつけるのだが槍で私の腕を払い、それならと思い左腕で殴りこむと今度はこれをダズさんが右手で払いのける。
「勢い無いっすね、飛びかからないとあの攻撃できないんすか…?」
「えと。助走つけて威力を出すみたいな感じでやってたんですけど」
「違うっすね。それなら地面を蹴り込んでるのは助走なしでも威力出てるんで、その場でもばけもんみたいな怪力出せるはずっすよ…」
そう言われると、出来そうな出来なさそうな?
言われた通りにとにかく力いっぱい殴ろうと思って大振りをするが、また払いのけられる。
「ダズ!俺も何言ってるかわからんぞー!」
「おかしいんすよ。速いってことはその分、力があるってことっす。馬の蹴りとか痛いじゃないっすか?」
「あー?おー?」
「蹴られたことないんすね、じゃ別にいいっす…」
二人の会話を聞きながらも殴り掛かってるがほとんど払いのけられる。というより、よそ見しながら払いのけられたりされるのだが、私のことをばけもんて言ったわりにダズさんの方がばけもんだろう。
「これじゃ埒が明かないっすね…なんなんすか?」
「わたしの方が!聞きたい!です!」
馬の話も出てたからか蹴りを入れようとしたところでダズさんは鎧を着てる。つまりそれが当たるが、すごく痛い…
「それもおかしいんすよね、もっと本来なら俺を吹き飛ばせるくらいできるはずなんすよ」
「それ出来たら私ばけものじゃないですか!」
「ばけもんすよ…」
なんだろう馬鹿にされてるわけじゃないのに馬鹿にされてる気がするのは。ただ横でゲイジーさんが「そうだけどそうじゃねぇんだよなぁ」と言ってるあたりダズさんが本気で私に何か伝えようとしてるのはたしかで…
再度殴りかかるが当然のように振り払われる。しばらくそうしてると急にダズさんが私の胸倉を掴んで投げ飛ばした。
びっくりした私は地面にぶつかると思って足で着地をしつつ勢いを殺しきれずに転んでしまう。
「それっす。転がるのは違うっすけど…出来てるのに、出来てないのは、出来てる部分と出来てない部分が半分て感じっすか?」
「おー!俺の言いたいことはそれだダズ!」
「うっさいっすよ…」
私からしたらなんのことか分からない。なんだろう出来てるのに出来てないというと、着地しようとしてできなかったこと?いや出来てるのに出来てないだから着地できるのにできなかったこと?
頭が混乱しそうな矛盾が思考されるが、結果的にすごくどうでもいいことを考えてしまった。
「受けるだけかと思ってました…」
散々悩んで出た言葉が不満だと、印象悪くさせてしまったかと思ったが、ダズさんは初めて笑っていた。苦笑だが。
「いきなりはなんとかっすから」
ゲイジーさんとのやりとりちゃんと聞いてたのかそう返してくるダズさんはどことなく楽しそうだった。この人もしかしてSなのかな。
「とにかく、なんすかね、リアラ?は本気なんだと思うっすけど、余力残しまくって真面目にみえないっす」
「余力ですか…?」
これも前に言われた気がする。私の態度から本気だとは思ってくれてるみたいで、みたいというか本気なのだけど。
「ま、まさか私に隠された力が…!?」
「なんすかそれ?」
マジレスはきつい。だけど、多分ニュアンスはそうだと思うんだけどな。
全力でやろうとすると転んでしまうから一応今出せる本気のはずなんだけど、ん?今出せる本気か…
「その、私さっきゲイジーさんと戦ってた時転んでたじゃないですか?」
「あぁ、そうっすね」
「全力を出しすぎるとバランスが保てなくて転んじゃうから転ばないようにしてるんですよ、それをなんとかしようと思ったのが全力で一歩飛んで殴り掛かることなんですけど」
「じゃあそれっすね、そもそも人間は少しずつ強くなるっす、リアラの場合は体はできるのにやり方が分からないから転ぶんすよ」
体はできるなら私もできるんじゃないの?やり方というと技術的ななにかだろうか?
「分かってなさそうっすね。そもそもゲイジーは手加減とか言ってたっすけど、リアラは普段から手加減して過ごしてるから、いざ全力を出そうとすると無意識に手加減してバランス悪くなるんじゃないっすか?」
「俺が悪いみたいじゃねぇか!」
「稽古つけるんなら保身より相手のことみてあげるべきっすね…」
「ぐっ…!」
大体わかってきたかもしれない。たしかにディズさんから体力だけが取り柄と言われてたし、もしかしたら私は全力じゃなかった?いや全力だと思い込んでいたみたいなものだろうか?
試しに正拳突きを本気でしてみるが、多分これじゃない、もっと強く、それこそ飛びかかる一歩の威力で素振りをしてみるが、どうにもうまくいかない
「ちょっと走ってもらっていいっすか?」
「はい?はい」
多分全力で走れってことだと思うので全力で走ってみる、ただそれも転ばないようにの全力なわけで適当な位置まで走ると、ダズさんの所に戻る。
「んー…やっぱおかしいんすよねぇ」
私の足をじろじろ見ながら言われると、私の足がおかしいみたいに言われてる気分になる。
こう見えて綺麗な足してると思うんだけど…
「ゲイジー、鎧の余りってないっす?」
「鎧?リアラちゃんに着せるにしてもサイズが合わないだろう?」
「上半身だけでいいっす、着せてあげてほしいっすね」
そう言われてゲイジーさんは町の奥の方に行って二人だけの気まずい空気が流れる。
ただダズさんはそうでもないのか気だるそうにしている。
「えと、ありがとうございます」
「ただの興味本位っす」
ばっさりと言われてしまう。本当に興味本位なのか善意なのか微妙に分かりづらい。
そのあとは特に会話を交わすこともなくゲイジーさんが戻ってくるまで静かに待っていた。
「おーい持ってきたぞ」
あぁ、ダズさんには申し訳ないけど気まずすぎて死ぬかと思ってた。ゲイジーさんありがとう。
そして着せてもらうのだが…重たい。一気に体重が重くなったし、サイズも合ってないせいか今の私の見た目は相当似合ってないことだろう
「着せたけど、どうするんだ?」
「籠手も着けてもらっていいっすか?」
まだ重たくさせるらしい、籠手の方はサイズが合ってるが、この兵士の鎧と籠手の見た目は合ってないのでちぐはぐな恰好の完成である。
「えと、着けました…」
「じゃ走ってもらっていいっすか?」
言われた通り走ってみると重たいのもあって走りずらいし、なによりサイズが合ってない鎧が地面を駆けるたびに浮き上がったものが肩に当たってすごく痛い。
さっき走ったように適当なところで、ダズさんのところに戻ると満足気な顔をしてらっしゃる。
「どうっすか?」
「え…?なにがでしょう?」
「鎧着てるのに同じ速度で走ってたってことは、そういうことっすよ」
言われてる意味がまた分からなくなってしまった。ゲイジーさんを見てみると「そういうことか」と頷いてる。
「多分っすけど、身体が軽すぎるんすね、だから本来は踏ん張れる動きもすっ飛ぶんすよ」
つまり着込めということだろうか?試しにこの状態で正拳突きをまた素振りしてみるが、特に何か変わった感じはないし。
「もっと勢いつけていいっすよ」
言われる通りに転んでしまうだろう威力で素振りをすると、いつもよりよろめかない?
「おー…!おお!ダズさんすごい!」
「それができるのばけもんすよ」
一言余計だが。私も何故できるか分からないから言われても仕方ない。しかし体が軽すぎるというのはなんだろう、言われてみれば転ぶなら転ばないくらいに重たくすればいいのかと思ったがそう簡単に上手くいくものでもない。
自分の姿をちゃんと見たのはゲンボウさんの宿屋にお邪魔したときに鏡で見たきりだけどあの時は我ながら可愛い見た目してるなぁといった印象だし。
着替えをしてるときも子供体系だとはおもったが、身体は細くくびれもあるようなスリムボディだったのだ、これから太るならその分食べなくちゃいけないけど食料がそもそもあり余ってるわけではない。
「ただそれは応急措置みたいなもんすね、重くすればっていっても身体の使い方を覚えるために試しただけっすから」
「んー?というとなんでしょう?」
「全力を出しやすくなったってだけで、鎧無くなったら転げるなら意味ないっす、木剣と真剣の違いみたいなもんすかねぇ?」
なるほど?なるほど、木剣と真剣で言うなら自転車でいう補助輪みたいなものか?
たしかにそれなら補助輪なくても動けるだろうし。待てよ、そもそも私のことをおかしいおかしいって言うのはあれだろうか?本来は車なのに10キロ20キロで車を運転してるようなもの?みたいな。
この身体がなんで本気を出せれてないのかと考えたら。私、つまり本来のスペックを運転してるのが私のせいで、元の身体の持ち主のものだから扱えてない?
「あいたっ!」
何故かゲイジーさんに頭を叩かれて現実に戻された
「考え込むのはいいけど、休憩しようぜ?さすがに疲れたわ」
「そうっすね」
気づけばもう夜明けで、太陽が昇ってきていた。
「私まだいけますけど?」
「俺らは眠いんだわ、他の奴らと組手するか?」
「んー…そうですね、お願いしたいです」
「まじかよ」
やっぱばけもんすねってダズさんが呟きながら、ゲイジーさんも呆れながら私を見てくる。
「冗談に決まってるだろ?それにリアラちゃんの情報だと魔物の大群は来ないらしいし、それを町のやつらにも伝えないといけないから。やるなら一人で走り込んで来いよ」
まぁ、たしかに身体慣らすなら別に一人でもできるのか、と納得して私は早速走ろうとしたら頭を掴まれた。
「その前にみんなに顔合わせくらいしとけ?」
「はい…」
「ばけもんすね…」
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