彼女の冒険

第19話 道中と疑念

 勢いでどうにかなるものではなく、入念に持ち物を考えつつ行動しなければいけない。

 今までとは違って私は一人なのだから、頼ろうにも頼るあては消えてしまった。


「食料よし!服汚いよし!靴よし!着替えもよし!水不安!よーし!」


 よしとは言ったものの干し肉って消費期限みたいなのあるのだろうか?長持ちするとは思うのだけどこれから向かう先も魔物に蹂躙されてるとしたら食料も水の確保もかなり心配になる。


 とはいえ行先が変更することはない、私は失った日数も体力だけが取り柄の体で東へ向かう。


 たしかウィーネさんの話では冒険者の手に負えない事態になった際には領主から討伐隊が出るはずだけど、その討伐隊も魔導を扱うとなれば話は別だろう。

 仮に領主が魔導に対抗する何かを持っていたとしても、どれほどの犠牲が出るか分からない。


 追いかける以外に道はなく、それまでに出来ることを考えておく。


 そもそも追いかけたところで倒せはできないだろう。最悪の場合殺されるのがオチである。

 出来るとしたら侵攻を遅くするためにちょっかいをかけるか、はたまた魔導師の気を引いてこの街に戻ってきてもらうように生き残りアピールでもするか。


 また街が破壊されるかもとは思うが、それでも半壊してるこの街に戻ってくるならその分被害も減る可能性がある。


 なにはともあれ走る、道中の魔物は必ず殺す。


 私の攻撃は必殺になりえない攻撃力だからそれを補うために策を考えても思い浮かばなければひたすらに筋力に頼って力業だろう。


 この街の…そういえば名前なんていうのだろう?と思いつつ大陸の中央、なんとか王国があるところに避難者が向かってるのだとしたら都会なのだから難民受け入れくらいは恐らく大丈夫なはずだろう。

 かといって、領主がどの範囲まで管轄なのか分からないので連絡網として地方が変わってさらに混乱して大災害なんていう事態も想像すると、マイナス思考はどこまでも下がってしまうばかりだ。


「地図くらいまともに普及してほしいなぁ」


 魔物について考えると、今思えばなんでこの街を襲ってきたのだろうか?名もなき村と言われるくらいしか周りには無いようなところで、唯一と言っていいのは東からくる行商人たちくらいだろう。

 南西から攻めてきたというと、そちら側に魔物たちの拠点か何かがあって攻めてきた?仮に攻めたとしてもこの街の冒険者は魔物狩りを積極的に行ってきたかと言えばそうではないだろう。組合の掲示板にあった依頼書には割に合わない報酬の仕事くらいしかなかった。


 そうなると別の要因で東へ侵攻している。


 それに今回攻めてきたのは魔人と呼ばれるゴブリンを主体として中にはオークも交じっていた。オークが魔導を使った?いやそもそも爆発は途中からしなくなっていたはずだ、私たちが最後の防衛戦をしていたときには爆発音があまりしてなかったから…それに人間を見つけたら爆発させるって思考の持ち主なら最後の彼らを置いてきた後ろから爆発音が聞こえても不思議ではない。


 私が想像できるのはあくまでここまで、おそらくもう一種類ゴブリンでもオークでもない魔人が混じってるのだろう。それ以上かもしれないが少なくとも爆発の頻度を考えると魔導を扱うだろう魔人が一種類交じってそれが多分魔物たちを指揮してるボス。


「考えれば考えるほど絶望的な想像…」


 夜も走って、ただ進み続ける。

 周囲を見ても誰かがいるわけでもなく、ただ何もない道を進み、魔物たちはもっと先にいる?


 ただ避難者の犠牲が出てないからもっと先なのだろう。ただ私は休まずに走ってるとはいえ魔物たちも休まず進むだろうか?


 もし仮に休憩いらずで進むんだとしたらどこかで避難者とぶつかり合うだろう。


 空を見上げ、ふと思ってしまう。あの襲撃の日はやたら暗く感じたその月明かりがどこか憎らしいような

 今日は明るく、夜空は、綺麗だった。


 もっと早く走りつつ、干し肉をかじりながら進んでいる。


 村も見当たらず。どこまで進めば人がいるところに当たるかなと考えてたら朝日は昇り、また沈む。


 1日ずっと走りっぱなしで体力が尽きないこの体に感謝をしつつも、少し違和感というか、おかしい気もする。

 基本的に異世界だからとかでなんとなく済ましてるけど、街で出会った人達も、冒険者の人達は若干人間離れしてた能力をもっていたがそれでもまだ常識の範囲だろう。


 別に魔法の力がどうってわけでもなく、それぞれが出来ることをした結果、敗北して街は壊された。


 魔物も、魔石があるからと言ってそんな常識の範囲を逸脱するようなことはなかったはずだ。


 考えても仕方ない…かな、それでも何か引っかかるのだ。私は体力が取り柄だけど、体力が取り柄でもこんな一日走り続けるなんて、24時間マラソンして平気な人なんてそんないるものか?仮にいたとしてたまたま私だった?


 どうして?と考えるがそこに至るまでの要素が足りない、何か私が思いつかない何かがあるんだろう。


 また1日経ちそれでも走り続ける、眠気は大丈夫なのだろうか。


 また1日経ち、小さな村が見え始める。ここまで魔物と出会うことはなく見えたということはそういうことなのだろうと、悲惨な光景を想像しながら向かう。



 村は夜も沈んでいたこともあって月明かりがあり人工的な明かりは無く、人も見当たらない。農場も育ちすぎてるであろう野菜等があり、若干萎びてるといった感じだろうか?


 村全体は小さな柵で囲まれており、家の中を失礼と思いつつも開けて確認するとつい最近まで生活してたように、別に何か物が壊れてるわけでもない。


「なにも壊れてない?」


 それはおかしいだろう。街は半壊されたし、その後もゴブリンが家の中を荒らして生き残りがいないように殺して回っていたはずだ。


 この村を経由してるなら荒らされた形跡がのこっているはずなんだ。


 となるとわざわざ村を通らずに東へ向かった?それとも私が見逃していただけで通り過ぎた…なんてことはありえないはずだ。大群がいたのにそれに気づかなかったなんて私が見落としても魔物が私を見れば生き残りと思い攻撃してくるだろう。


 謎が深まるばかりで、ただある意味避難した人達が無事であるかもしれないと希望的に見える部分もある。


 とにかく人を探していなかったら、腐ってなさそうな作物などを申し訳ないが拝借して頂こう。

 水もどこかに保管されてるはずでそれも探さないといけない。


 そうして服なども少しもらい。休憩をして。食事をする。適当に食べれるものを生野菜などをかじるくらいだが、腹が膨れた感覚はなく、味も質素で干し肉も同時に食べたくなるが野菜は日持ちしないだろうから持ってきた干し肉もそんなに多くないので贅沢はできない。


「炭酸水飲みたいなぁ」


 ずっと走りっぱなしで身体は疲れてなくてもこれだけ走り続けていたら、爽やかなのどごしの飲み物が恋しい。


 再度、東へ向かうのだが、探しきれてないだけで生き残りがいないか確認するために村の中央に向かい大きく息を吸う。


「まだ!この村に生きてる誰かいませんかー!」


 1秒が10秒が長く感じながら待ってみても返事はない。


 気持ちを切り替えて東へ向かおう。



 それからも私の身体について考えてみるがどうにも答えは見つからず、魔物についても考えてみる。


 あの村に立ち寄ってないとなるとあの街に何かあって襲撃した?なんのために?

 単純に人間を襲うだけなら他に何かあるだろう、それ以上の理由があるはずだ。


 これに関してはおそらくだが、魔導を使ってくる魔人とやらが関係してそうなのだけど、実はゴブリンメイジがいただけって話ならどうだろうか?

 ゴブリンは見た目こそ変わらないが個体差があったのは間違いない。走る速度が速い個体に私はゴブリンとまともにやりあってないから分かりにくいが筋力や強さみたいなものも個体差で分かれてるはず。


 だがゴブリンメイジがあんな街の外壁を爆発させるほど危険なら冒険者組合でゴブリンの報酬が少なく軽視されていたのはおかしいだろう。


 私についても分からなければ、魔物についても分からない。


 じゃあ他のことはどうだろう。南西側から魔物たちが大移動しなければならない理由みたいなものとか。

 

 そこでまた思考が止まる。


「それならなんでさっきの村はスルーされたんだ?」


 街が単純に邪魔で破壊して、そのあとはどうでもよかったから別の目的に向かった…仮定の話で行くならこんな感じだろうか。


 それと同時に走りながら思ったのだが、ディズさんからも指摘されてたことではあるが私はもっと全力を出せる気がしてきた。


 今までは転ぶのが嫌で、痛い思いをしたくなかったから出来る限りの全力で走っていたが、今はもう少し全力で走っても大丈夫な気がして、少しずつ速く走る。


 ある程度速くすると体のバランスが悪くなるが、それでも以前までと違って明らかに速い。


 時速何キロなのかは分からないが普通の自転車を思いっきり漕ぐよりも早いのではないだろうか、それでも身体は疲れるよりも、バランスが悪く感じるだけの不自由で済んでる。


 試しにその態勢のまま右拳を空を切るように振りかぶる。よろめきながらだが、これくらい助走をつけて攻撃できれば、ゴブリンと一対一ならやりあえるかもしれないと思える。


 ただ殴った後のことを考えないといけない、もし耐えられて反撃でもされたら私は鎧も付けてないし、痛みに慣れてないから恐らく当たり所が悪ければ再起不能になってしまいそうだ。


 何もかもままならないなぁ…ただ。少しは何かに役立ちそうな戦闘方法が思いついただけでも良しとしよう。


「あれ?街中とかだと助走は無理なんじゃ?」


 場所は選びそう、そう考えるとこの速度を維持して助走をつけるって前提なら森の中も木々が邪魔して全力で走るのには不向きだろう。


 何か場所を選ばない戦い方が必要になるときがいつか来るだろう。それに向けて色々考えてみるが。


『俺らよりも援護速すぎっすね』


 ふと速度について考えると、以前に援護が速いと言われたことを思い出して走っていた足を止める。


 そもそも私は街中で急いで援護しようしようとやっていたじゃないか、もしかしてと思って急いでいる道中ではあるけど試してみたいと思う。それで戦う手段が増えるなら。



 やることはシンプルで、最初に敵がいると想定してそこまで至るまでの道筋。


 ホーンラビットを狩るとき私は相手の先を進むように無理やり態勢を変えて転んでしまったが、あれは逃げられると思ったから咄嗟にやったことで、実際戦闘になると相手は逃げない。


 それなら私は一歩、本気で地面を蹴り、その一歩で相手を殴れる位置に行って着地する勢いも含めて大振りする。


 そのあとは安定のよろめきで転んでしまうが、これは捨て身の攻撃だ、捨て身ではあるが。


『突きは武器が相手に渡ってしまう』


 武器を突き刺すわけではないのだ。当たりさえすれば私が転ばなければ有用な攻撃になるのではないだろうか。

 とはいえもちろん防御されることも考えないといけないけど、私は今出せる本気で踏み込んだのであって、まだ息が上がってるわけでもなく、汗が出たわけでもない。


 もう一度、もう一度と繰り返してみるが、どうしても空振りしたあと勢いを殺しきれてない。

 それで試しに左手でもやってみると、転ばなかった。利き腕だと力が入りすぎてた?


 もう少しだけ試してみようと踏み込みを地面に集中させて、右の拳を前方に飛ぶように殴り込みその後は左腕を後ろに伸ばしてもう一度地面を蹴るように着地する。


 若干不格好ではあるが、実践してみないとわからないがそれなりに威力があるだろうその攻撃はなんとなく自分で満足できるものだった。


 ふぅ、と一息入れてナップサックから防水っぽい布に包んだ水を飲もうと思ったらナップサック内の物が散乱してごちゃごちゃしてた。


 練習するのと移動は同時にするものではない、仮に何かするときはナップサックを降ろしてからするように気を付けよう。


 それからも眠ることなく走り続けて4日程。たまにナップサックを降ろして感覚を忘れないように殴り込みを練習することを繰り返す。


 そうしていると私にしては珍しく、空腹を感じた気がして干し肉をかじるとなにか変な味がするので吐き出した。


 よく見れば白い何か粉みたいなものがあって、これはカビ?腐ったのかなと思って他の干し肉を見て、大丈夫そうなのを食べて、半分くらいはカビていた。


 たしかカビって湿気とかで起きるんだっけ?私がナップサック内ごちゃごちゃにしたせいでもしかしたら水が少し漏れていて湿気たのかもしれない。


 食料も水と同じくらいに心もとなくなってきたなぁと思って進んでいくと、夜だったからあまり全貌は把握できないが、外壁のない町?村と言うには発展してそうなそれが見えた。


 ここまで来るのに誰ともすれ違わなかったことで少し町がどうなってるか心配ではあるが、向かわなければならないだろう。

 仮に人がいるなら魔物が来なかったか聞きたいのと、避難した人たちがどこへ向かったのか聞きたいことはたくさんある。


 近くに行くと、どうやら人がいるようで私が近くに来ていることに警戒してるように槍を向けてくる。


「また難民?」

「子供じゃないか」


 この人たちは元々この町に住んでいた人なのか私が来たことをあまり歓迎はしてなさそうな雰囲気だけは伝わる。


「あの、聞きたいことがあるんですが」

「こちらも聞きたいことがあるのだが、避難に出遅れたのか?大量の魔物が迫ってると聞いていたんだが」

「それも含めてお話が出来たらなと思います、私は冒険者のリアラ、この先で魔物を食い止めていた…止めることは出来ませんでしたがその一人です」


 私がそう言うと少し訝しまれるような間があったが武器を降ろしてもらえた。


「我々も何が起こってるのか分かってないのだ…すまない、ここまで長かったろう、詰め所まで来てもらえたら水と食事くらいは出そう、あまり多くは出せないがな」


 久々に人と話せたことで緊張の糸が解れるように疲れが来る、さて、何から話せばいいかな。

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