第17話 激闘
東門にいた人たちはもう避難できてるだろうか。人の気配がない暗くなった街は鼻をくすぶる臭いを除いてすごく不思議で、不気味だった。
ふと弱くなる気持ちになりそうなときは周りを見れば落ち着ける。強い眼光を放ってる私なんかよりも遥か高みの歴戦の冒険者や兵士の人。
「リアラさん、その籠手でゴブリンをどうやって倒しましたか?」
「えと。倒すっていうか、みんなの援護でゴブリンの気を反らす感じのことやってました。足とか殴ろうかなって」
「なるほど、いつも持ってた短剣はもう無いみたいですし。それじゃあ、誰かの援護をするときはそれでもいいですが、一人で戦うときは首を狙ってください。ゴブリンならば前か後ろから首元を狙えばリアラさんの腕力でも数発は必要でしょうけど仕留めれると思います」
首…そんな上手く狙えるか自信なんてないが、ウィーネさんは私のことをちゃんと戦力で見ていてくれることを嬉しく思いつつ、真面目に聞く。
ウィーネさんの武器は私が持ってた短剣より短い?物を持っている。それも2本、二刀流なのだろうか予備なのかは分からないけど、腕を見ても私と腕力そんなに違わないんじゃないのかなと思うが、技術でその分カバーしてるのかもしれない。
ピタタタ、と裸足で何か駆け回るような音が聞こえてきて西を見ればゴブリンが3匹走ってきてるのが見える。
「俺とダライダ、ヤンガであいつらを受け持つ、援護できそうならしてくれ、極力すぐ仕留めたい」
リーダーの人…グルブさんがすぐに指示して。ダライダさんが剣を、ヤンガさんはこん棒を片手に一匹ずつ対応するべく3人並んで構える。
位置的に真ん中がグルブさんなので、私は左のダライダさんか右のヤンガさんのフォローに回るのがいいんだけど、私ができるのは気を反らすことがメインなんだ。他の刃持ちの冒険者にヤンガさんの援護をしてもらいたいので左に寄っておく。
ゴブリンは本当に知性なんかあるのか分からないくらい私たちを見ると真っすぐに突っ込んでくる。
ダライダさんが斬りかかった後はダライダさんの左方向から近づき、私以外にもダライダさんの援護をする人は右方向から援護に回る。運悪くかダライダさんが斬りつけたゴブリンの右腕、私側の腕を斬りつけたことで右側によろけたので、私は大回りして援護しようとしたが。反対側の援護が間に合い、戦いは即座に片付いた。
グルブさん、ヤンガさんの方を見れば、そちらも終わってるようで、緊張していた息をホッと吐く。
「リアラ。位置的に援護が厳しいときは俺がやられたときに前線を代われる準備でいい。そこまで大回りしようとしたら体力が消耗するし、俺が倒れたら君が一人になる」
ダライダさんは私が孤立してることを指摘してきて、実際援護しなくてはと考えすぎていたためが横や後ろを見ると私だけダライダさんと並ぶくらい前進しすぎていた
「はい!すいません気を付けます!」
「気負いすぎるな。俺は西の守護者「もうここ東っすよ!」…守護者ダライダだ!そう崩れはせん!」
茶々を入れられても守護者という言葉が気に入ってるのか、二つ名なのか自称なのかは分からないけど、私からしたら相当頼りにしてる。
すると第二陣が来たのか足音が聞こえ、今度は暗くて数は完全に把握はできないが5匹以上は確認できる
「ディランダ!エン!お前らも前線に出ろ、その棒切れで耐えきれるところまで耐えてみせろ」
「うし!」
「はいぃ…」
陣形がまた変わり、私としては剣持ちが前線張ってくれた方がとは思うが。指示されたことを考えてみれば援護の手で仕留めきれた方がいいに決まってる。本来なら私も盾役として前線に出る役回りなのかもしれない。
暗闇の中ではあるがダライダさんの迫ってるゴブリンを注視して見れば、かつてディズさんが私に対して稽古と言う名のゆっくりとした攻撃から早くなる攻撃を避ける練習のときのような違和感。
もしかしてなのだが、このゴブリンさっき仕留めたやつより速いのではないだろうかと思った。なんとなくだが。
「ぬぉおおおおおおお!」
リーダーのグルブさんが掛け声と同時に剣を横薙ぎに大振りする。今まで鍔迫り合いというか肉薄した戦いとは違って、私達はその光景を、腕も、体も横一閃に振られ両断されるゴブリンへの攻撃にほんの一瞬見惚れるのと同時に高揚する。
とても切れ味が良いとは言えない肉を潰しきった音を糧にダライダさんが「あいつ嘘だろ」とつぶやきながら目の前のゴブリンを抑える。
私は左から周り、右利きのため背後を取ろうと思ったが、それではさっきの二の舞で駄目だろうと思い。あまり力が込めづらいが、右腕を体の左にねじるようにタメて裏拳をゴブリンの右太ももめがけ打ち込む。
実際、そんなにダメージを負ってないのか多少身じろぎしたくらいで。改めて構えなおして横腹を殴ろうと思ったが、ダライダさんは身じろいだ隙を逃さず右手に剣を持ったまま左手でゴブリンの顎を殴りぬいた。その後は近くに寄っていたフィンさんが倒れ込んだゴブリンを蹴り、ダライダさんが首目掛け、止めの一撃を振るう。
すぐに周りを確認すると他のみんなも無事で、右陣営がラスト1匹を相手取ってたが、危なげなく仕留めきっていた。
一息と思ったがグルブさんが「次が来る」と声を上げて見てみると、先ほどと同じような数が迫ってきているのを確認できる。
「全体、少し引くぞ!」
このまま迎え打つのではなく全体後退か、何かあるのかなと思うが取り残されないように私も急いで後退して全体が反転し身構えるのと同じように私も身構える。
さっきの戦い方を反省しつつ次を見る。先ほどのゴブリンと同じくらいの速度、それに対して私は裏拳を当てたがそれはダライダさんがむしろ私の身を案じてアッパーをしたのかと考える。
特に私の攻撃は堪えた様子もなくダライダさんが押さえてるとはいえゴブリンが反撃しないとも限らないんだ、私がゴブリンの体勢を崩す役割をしなくては。
全体がゴブリンと対峙したときに私は再度前回と同じように前に駆ける。やり方は同じだ、右腕を体の左にねじるようにタメて裏拳を放つ、ただそれを同じ身長ということを考えて極力姿勢を低くして太ももではなく、膝裏か太ももよりは効きそうなふくらはぎのどちらかに当たるように裏拳を打ち込む。
今度はどうだろうかと上を見上げ手応えを確認しようとすると、ゴブリンは右足から倒れ込むように、私の上に被さるように倒れる。
急いでゴブリンを退かして態勢を立て直したり、援護をしなければと思っていたが。
その後はダライダさんが仕留めたのか体の上でゴブリンが暴れようとしてた素振りからビクンと身じろぎし痙攣してるであろう感触が背中に伝わる。
「ありがたいが、捨て身にもほどがあるぞ!」
叱咤をもらいつつダライダさんが蹴りゴブリンをどかしてくれる。
「すいません、次はもっとうまくやります!」
「つか、リアラちゃんあれっす。俺らよりも援護が早すぎっすね」
フォーンさんから指摘されたことはよくわからなかったが、もう少しテンポを落とせみたいなことだろうか。
できればもっと詳しく改善点を聞きたいと思ったところで時間が限られてることをグルブさんから告げられる。
「次が来る、一旦後退して再度迎え撃つ!」
起き上がって、後退しつつさっきの戦闘を考える。私はてっきりゴブリンは膝をつくように倒れ込むと思ったが、そうではなく私の方に倒れ込んできた。ということは態勢を崩すのはちゃんとできてるんだから、そのあとゴブリンを押さえるか、もしくは私がすぐに後退しないといけない。
あとはフォーンさんの言葉だけど、援護を3人で1組として考えたらどうだろうか、ダライダさんの援護をしてるのは私とフォーンさんフィンさんの3人でゴブリンを囲めば4人1組。いや、どちらかと言えばさっきより数が多くなったときのために人数が割かれてる気がしないでもない。
前線組が構えるとそれより後退して構え。今度は先ほどよりも多い…それよりも私の気のせいじゃないはずだこれは…さっきのゴブリンよりも更に移動が、走る速度が速い。
目を凝らしてみるが見た目は特に変わりないはずなのに個体差が激しいんだろうか。鍛え方というやつか、人間と同じようにゴブリンも訓練とかしてるのかもしれない。
「ぬぉおおおおお!」
前回やって見せたようにグルブさんが大振りで一番先行してきたゴブリンに対して横薙ぎをするが今度はこん棒に遮られながらも腕を持っていくが仕留めきれてはいなかった。
それでもその姿は私たちの士気を上げてくれる。終わりのないようなこの戦いがもしかしたら終わるんじゃないかとどこか期待させてくれる。
今度はワンテンポ、フォーンさんフィンさんを確認しながらダライダさんが対峙したと同時に動こうと意識してみる。が、フィンさんはダライダさんの背後へ回るように動きだし、フォーンさんはダライダさん越しでどういう動きをするか分からなくなるため、私は同じように裏拳に力を込め、姿勢を低くし膝裏に放つ。
すぐ後退できるように身構えてもいたからか、威力がそこまで出てなかったようで、ゴブリンはよろめく程度だったが。そのあとはダライダさんが左回りに、私の視線を遮るように動いて、フォーンさんの動きが見える。
こん棒を大きく振りかぶり、それはゴブリンの後頭部めがけ振り落とされ顔面から崩れ落ちていく、ダライダさんはその後、首に剣を一閃して止めを刺した後にフィンさんがいつの間にか前線に出ていて後続していたであろうゴブリンの足止めをしている。
しまった。様子見してる場合じゃなかった。さっきより数は多いのだからもっと集中しなければ。
「代われ!」
ダライダさんとフィンさんの位置が代わり、その間に私も同じように裏拳を打とうとするが、ゴブリンは私を見ていた。対峙してるダライダさんにも意識は向いてるだろうが私を見ている。
そのことに動きが出遅れてしまったが、フォーンさんが反対側からゴブリンの左腕にこん棒をめり込ませてすかさずダライダさんは右腕を斬り捨て、再度構えなおしたフォーンさんが頭を打ち砕いた。
先ほどのゴブリンの眼光に私は思わず身をすくめてしまったが、みんなは特に危なげなく第三陣も倒し、周りも戦闘を終えていた。
「全体後退だ!」
グルブさんが指示し後退を繰り返していく
「リアラ、さっきのでいい、同じことを繰り返せなどと無理は言わないが動きの速いお前をとにかくゴブリンに意識させておけ」
ダライダさんは武骨に言うが、芯のある強い語調は安心する。さっきのが正解だったとは思えないが、注意を引けたというのが良いというのならそうなのだろう。
ゴブリン1匹2匹に最低でも2人以上で立ち向かいなんとか凌いでる現状を思うと次はもしかしたらと不安なことを思っていると。
「あぁ、ダーズさんやられちゃったんで余裕ありそうなところこっち側に回ってほしいです…」
は?一瞬意味が分からなくて暗闇の中、人数確認をしてなかったと周りを見てみると確かに一人少ない。
「私が行きます」
そう言ってウィーネさんがエンさんの方に陣取り前線組が再度構える。
私としては悲しむ時間すらないこの現状で、ダーズさんのことを思い返す。特に接点が今まであったわけではない、ただ、さっきまでいた人が死んでいた。それに気づけずに後退していた私がいることに勝手に虚無感を感じて勝手に苛立っていた。それだけだ…だから絶対に忘れないダーズさん。
「グルブさん、また一撃でかいのお見舞いできる?」
「冒険者を元気づけようとしたに過ぎん。が、もう一撃くらい見せてやるさ」
さっきまでは口数がとことんなかったグルブさんや他の人達が少しの談笑。
「リアラさーん、きっとあなたのことです。ダーズさんのこと気にしてるんでしょう?だからグルブさんの一撃、少しでも見ていてください!」
月明かりと暗闇でウィーネさんがこちらに向けて手を振りながら話しかけてくる。
私がダーズさんがやられてしまっていたことに、死んでしまったことにショックを受けてるのだと気づいて声をかけてくれる。
「はい!グルブさんの怪力すごいですもんね!」
声は震えてないだろうか、そんなことを心配しながら声を張る。
そうして前線組が構え、グルブさんがやや前進気味に前へ出るが、それは先ほどのみんなの言葉に答えたことを有言実行しようとしてるのだろうと悟る。
「お前らに一応言っておくが、次はこんなやり方はしないからな?お前らの分も含めてよく見てろ」
そう言い。剣を両手で右後ろに構え、大技を繰り出すかのような、いや事実一刀両断するなんて相当な大技だ。
私もこれから迫るゴブリンたちに身構えながらもその背中を見る。私にとって人の生死はこんなに軽いものではない。ダーズさんが死んだと聞いて、エンさんが軽く『やられちゃった』なんて言えるようなものではない。
そんなことこの世界の人にとってもしかしたら日常茶飯事でいつ死ぬかなんて戦いに身を置くなら普通の出来事なんじゃなんてとも思った。
だけど違うんだと、あの背中がそう語ってるように見える。
先ほどより…それどころか、魔物の本陣が迫ってるのだろう20以上は迫ってくるゴブリンに後ずさることなく構えを解かないグルブさんが陣形を無視するかのように前進し、大振りの横薙ぎ。
命を懸けて戦う者にとってきっと、これが正しいと思われる。弔いの一撃が潰れてる刃の剣とは思えないようにゴブリンを斬り捨てて見せた。
「援護に拘るな!仕留めれるなら仕留めきれ!」
グルブさんの掛け声か、はたまた一撃で再度開かれた戦端はゴブリンの数も相まって事実陣形なんてあってないようなものに変わる。
ダライダさんに2匹3匹と迫るゴブリンに私はどいつに攻撃を仕掛けるかと悩むより、より近くのゴブリンに対して姿勢を低くした打撃を繰り出す。
私たちの即席連携をしたところで、ゴブリンも私がヒットアウェイを二度繰り返そうとすれば邪魔が入り、振りかぶられたこん棒が左肩に痺れるような痛みを走らせる。
「ダライダ!下がれ!」
フォーンさんが入れ替わり大振りの打撃を繰り出し1匹は吹き飛ばすが2匹目に止められたその攻撃は反撃に合いフォーンさんが倒れていく。
名前を呼ぼうとするも、こちらに近づくゴブリンに気づき。そのゴブリンの合間にフィンさんが立ちふさがってくれ助かると感じ、私も援護するように横をすり抜けゴブリンの足に滑り込むように裏拳を放つ。
その後はフィンさんが首目掛けてこん棒を振るい鈍い音を立ててゴブリンは痙攣する。
互いに何を言うでもなくすぐにダライダさんの方へ駆けて。2匹のうち1匹のゴブリンをフィンさんが押さえこみ、私はダライダさんが対峙するゴブリンの足を右拳を放つ。
あとはダライダさんが仕留めてくれればと思ったが、ゴブリンは姿勢を崩してるようには見えず上を見上げればダライダさんの左腕に噛みついてダライダさんは反撃を放てそうになかった。
私は姿勢をすぐさま整えてゴブリンの後ろに回り首目掛けて殴り。噛み解かれたダライダさんは距離を少し開けてゴブリンの首の骨を剣で折る。もう切れ味が無いのだろう。切断には至らずとも止めはさせたと思いダライダさんがフィンさんの援護に向かい、私も行こうとしたところで気づく。
今回のが第四陣だとして、もうすぐそこまで第五陣のゴブリンたちが迫ってることに。
いや。ゴブリンだけじゃない、猪?のような、しかし猪とは違ってそれは二足歩行で走り迫ってるそれは、私がなんとなく知ってる姿、豚なのかと思っていた存在。されどその姿は猪であるオーク
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます