第16話 人の繋がり
悲鳴と共に人が入り乱れて東門に向かってた人が北門にも殺到しだして。
馬車に轢かれたのか倒れてる人もいて。
「リアラさん!しっかりしてください!」
「なんだ、これ…」
私はまだ現実離れしたような光景に慣れないまま、ウィーネさんが何か言ってくれてたが、私がぼーっと東門に歩きはじめると、その時、涙は零れていたが微笑んでくれた。
だって昨日まであんなに平和で、だって昨日までみんなと一緒にいて、だってだってだって―――
南側から再度大きな爆発音がして歩みが止まりかけたが、それでも後ろに押されながらも進む。
大通りとは言っても主に馬車で移動しようとしてる人のせいか、詰まってしまってるっぽい。
御者で操舵してる人に罵倒をぶつけてる人もいれば蹴り返されている人もいる。
「馬車に乗ってる奴は今すぐ降りて歩け!荷物も捨てろ!この先で馬車が横転して徒歩じゃないともう進めん!」
まだ遠いが、ブンダさんが周りの目を覚まさせるくらいの大きな声で叫んでいた。
その言葉のおかげか乗り捨てられた馬車は邪魔だったが、進みが早くなった気がした。
その中、馬車に繋がれた馬に乗って逃げようとするものがいたりしてまた少し歩みが遅くなったり。
あぁこんな人もいるんだなぁ、なんて思って。
「なにやってんだ!そんなことしてる場合か!」「この街を離れても生きていけるか分からないじゃないか!」「だれか、だれかエリンを知りませんか!?」「どけっ!」「あぁぁぁ!」
罵声、怒声、泣き声入り乱れるのが頭に残らないまま耳に届く。
騒ぎが一定に大きくなるたびにブンダさんが大きく叫び「とにかく門外へ出ろ!」と言ってる。
『私の責任でもあります』
私はウィーネさんの震えた声と頬を伝う涙が今見ている光景よりも離れない。
『昨日の夜の時点で違和感があったんです』
ウィーネさんの自責の念を吐露していただけの言葉、私を責めてるわけでもないのにどこか私に突き刺さって離れない言葉。
私は何をしていたかって楽しかった…ゲンボウさんと久しぶりに話して、明日は何しようって。
きっとずっと組合でみんなが戦ってる間、家にも帰らずに残ってたんだろう。そうじゃないとウィーネさんからあんな苦痛に満ちた後悔は零れない。
もし私もまだ残っていたら?少しでも違和感を感じていたと思っていたのならその背中を押してあげて何かできていたんじゃ?
後悔ばかりの人生なんて、生きてるとは言えない。
ただそれでももうすぐ門を抜けれるだろう、そこを抜けてしまえば私はきっとまた後悔を生む。
「なにやってんだろ私」
役に立つはずない。今更引き返そうとしたって時間がかかるだろう。それでも拳を握れば練習してた籠手が昨日の出来事を思い出し、一人で組合のカウンターに立っていたであろうウィーネさんの姿を妄想したら止まることなんてできない。
ここで死ぬとしても構わない、死んだとしても構うものか。それでも私は生きるんだ。生きて良かったと後悔なんてないんだって言えるように。
「どいてください!」
「なっ!なんだ!邪魔だ!」「おい嬢ちゃん!そっちは逆だ」「なに!この子!」
「どいて、ください!」
私のせいでまた小さな混乱が起きてしまうかと不安にもなったが人波に揉まれながらだと思ったより進めない。端の方も人がいるし、それならと捨てられた馬車に乗り込み荷物を踏みながら後ろに向かい、また人波がありながらも戻る。
きっと私のやってることは馬鹿な事だって冷静な私は告げるし、周りの目を見れば、驚いた顔を見れば頭のおかしい子供が出口とは逆方向に行ってるんだ。その途中私の肩を掴んで止めようとする優しい人達の善意を振り払いながらも進む。
段々と人波も穏やかになってきたところで人の間を縫いこむように走る。
「ウィーネさん!いますか!?」
戻ってきたはずの中心地は馬か人に踏まれボロボロの人や、焦げる臭いくらいしかない。
となると南の方かと思い進んでみれば横にある家の中から物音がしたりもする。
もしかしたら避難より隠れることを選んでる人達もいるのかもしれない。
道を進めば鉄臭く、解体場で嗅いだことのある臭いと、明らかな異臭が入り混じってきてその先でようやく戦闘音が聞こえ始めた。
ウィーネさんがいるか確認したかったがそれらしい人はいなく。まだ街の中に残ってただろう革鎧を着込んでる冒険者と兵士が戦っていた。
その矛先には私と同じ身長をしてる緑色の人型、ゴブリンというやつだろう、イメージ通りな色とイメージしていたゴブリンとは裏腹にそこそこに盛り上がってる筋肉は鍛えられてるのだろう。木製のこん棒を振って冒険者たちが防御すると鈍い音が出ている。
私が横やりすれば邪魔になるかもしれないと不安にもなる。連携した戦闘なんてしたことない。それどころか喧嘩したことなんてないのだ。
「後ろから失礼します!」
一応声をかけて短剣を割り込むようにゴブリンめがけて頭を狙い振り切る。ゴブリンからは冒険者の後ろに子供がいたなんて戦闘に意識を割いていたら死角のはずと思って攻撃するが、そもそも皮膚が想像してたより固く傷が浅い。
私のことを邪魔だと思ったのか片腕を振り払うように私の肩に当たり相当痛いが、邪魔した甲斐もあってか冒険者の剣がゴブリンの腕を斬り飛ばし、首を切断してみせてくれた。
「助かった!右のやつを援護頼めるか?」
「はい!」
私の籠手を見て、一般人じゃないと判断したのか、切羽詰まってるのかとにかく今近くにいる人の援護をすることだけに集中する。
「横失礼します!」
そう言うと兵士の人が私に合わせてくれたのか、ゴブリンの注意を引くように右回りに動いてくれて私が背中から挟撃する形になったところでゴブリンが離れようとするが。さっきの皮膚の固さは身に染みて分かってるので短剣ではなく籠手を握りしめて金属の部分を体めがけて殴り抜く。
兵士の人は戦い慣れてるのか離れようとしたゴブリンを足払いしてみせて、倒れたゴブリンの首に刃を食い込ませる。
剣で斬りあって戦い合えてる時点であの固い皮膚を切り裂くほどの腕力なのか、すごいなと圧巻するのも束の間で目に見える範囲で一対一でやりあってるところへ割り込むことを繰り返す。
「冒険者か…まだ若いんだから今なら走れば逃げれるだろう?」
「やり残したことあるんで!」
戦況が劇的に好転してるわけではないが足手まといなら、邪険に扱われるだろうし少しは役に立ってると思いたい。
「ここにいるのは突っ込んできた間抜けどもだ!奥に行けば魔導を扱ってくるやつもいる、子供の冒険者!聞きたいが街の中心は避難は済んでたか?」
「はい!多くはもう東門の大通りで詰まってました」
「中心まで撤退する。西からも魔物が来ているらしいから挟まれないため戻るぞ」
兵士の人がリーダー格なのか、指示を出して他の冒険者もそれに頷いている。
この奥にもきっと戦ってる人がいるのだろう。ただ爆発音は南側からしか聞こえてなかったから西の侵攻を抑えるための決死隊と言った感じなのかもしれない。
ただ私からしたら西からも来てるという話を聞いたときに、ここにいないのなら奥に行くとも限らないしウィーネさんは西の方に向かったのかもと思いついて行く。
ここにいるメンバーは6人。到底抑えきれるわけはないだろうというのは分かりきってる。それでも全員を見渡せば誰一人として死んだ目をしてない。
中心まで戻ると、西から押し込まれてるのかゴブリンと争ってる人の姿が見える。
その中にウィーネさんは見当たらない時点で絶望感が胸を押し寄せてくるが。
「冒険者は手前側の援護に回れ!前線は俺たちが出る!」
指示に従い、争いの渦中に割込み、先ほどの戦いで攻撃的に私は役に立たないのは十分と分かったのでゴブリンの太ももめがけ殴りこむ。
「首!お願いします!」
「悪い!剣がもう潰れてるから無理だ!」
「じゃあとにかく殴ります!」
私は殴り、冒険者もゴブリンの顔めがけ殴った後にゴブリンの落としたこん棒を拾って頭を粉砕して見せた。
剣てそんな切れ味なくなるのかと思うとゴブリンの反撃も防げて籠手のありがたみを痛感する。
「これ良かったら使ってください」
そう言って短剣を手渡し、他の援護と思ったが、私たちが止めを刺したのが一番最後だったみたいだ。
「すいません、知ってたらでいいですけどウィーネさん、組合の受付してた人を見かけませんでしたか?」
「あぁ…西の大通りで見かけたよ」
「本当ですか!」
「ただ、今はもう変な希望を抱くべきじゃないな」
「そう、ですか」
西には魔導師がいないからまだ諦めるべきではないはずだ。今から向かうべきか、一対一だと私はどうしても決め手に欠けてしまうから道中に抜けてきたゴブリン相手に敵わないだろう…
それよりはウィーネさんが後退してここで合流できればまだなんとかなりそうな気はする。
リーダーの人はここで敵を迎え撃つと言っていたし、今見渡す限りだと、14人…私を入れても15人しかいない。
「俺たちの目的は東に向かう魔物の足止めだ、それ以外は捨てる!」
考えろ、考えるんだ。今ここでやりあうとしても私に出来ること。
―ドゴォン
一定周期で南側から聞こえる爆発音、そして爆発音が終わった後の静けさの中、誰かの唾を飲み込む音が聞こえた、気がする。
南側では黒い煙があちこちから遠目に見え、その煙が見えるということはその位置まで近づいてるということで、夕日は沈み夜の帳が落ちてくる光景はとても現実とは思えない。
「西から何か来るぞ!」
南へ向けていた視線を西へ向けると身長的にゴブリンではない、人間が走ってる!それも複数人だ。
「西はもう無理です!広場で戦闘するより東の通りで迎え撃ちましょう!」
冒険者を連れてウィーネさんが指揮してみせていた。
リーダーの人もウィーネさんの言葉を聞いて東に向けて全員で歩みはじめたところでウィーネさんが私に気づいて目をこすって再度見開いて見てきた。
「リアラさん…?」
「えへへ、来ちゃいました」
「貴方は…!馬鹿なんですか!!」
まぁ、怒られるだろうとは思っていた…
「騒ぐのはいいが歩みは止めるな」
リーダーの人は呆れ交じりに言ってたけど、どこか微笑ましそうに見て、すぐ真顔になり先導していく。
「もう…本当に…馬鹿…」
「私もそう思います。何ができるわけでもないのに、生きたいなんて思ってて」
「じゃあそれこそ、逃げるべきだったじゃないですか」
「そうですね。けどそしたらきっと私死んじゃうんですよ、後悔ばかりして何のために生きてるか分からなくて、前を向いて生きていけなくなったらそれって。生きてるって言えるのかなって」
「死んだら何も残りませんよ、後悔もできないです」
まったくその通りで、周りの人も私たちの会話を静かに聞いている。
だから格好つけよう、生きれるかは分からないけれど。
「そのおかげで、ウィーネさんとまた会えました」
「なんですかそれ…馬鹿ですね」
泣いてる姿ではなく、呆れて笑ってる私の、きっと大事な友達。
出会って短いながらも話して、一緒に仕事して一日だけだったけど受付嬢もいいかなぁなんて思ったりして。宿屋の人。ゲンボウさん。きっと会えないディズさん…それにガスダさんも。朝組の人達も…名前聞いておけば良かったな…
「皆さん!私の名前はリアラって言います!よろしくお願いします!」
「良い名前だな、俺はグルブ」リーダーの人
「おれおれ!俺はビジー!」冒険者の人
「なんかこういうの良いな、フェズだよろしく」
「名前を知ってると戦友って感じするもんな、ダーズだ」
「ここまできて何言ってんのよ、ライラよ」
「えー俺は西の守護者、ダライダ」
「門がもう壊れてるから壊れた守護者だなぁおいダライダさんよ、ゼーフィス、よろしく」
「そう語れることないなぁ、エンです」
「みんなふっつーの名前っすね、俺は鉄のフォーンっす」
「ここまで被ってないんだからセーフでしょ。ディスタ」
「悪い…ビジーだ」
「あらまディスタさんが変なこと言うから気まずくなってません?ティーダです」
「ヤンガです」
「後から名乗ると被ってなければ安心だね、フィンだよ」
「知ってる人が多いと思いますけど組合受付のウィーネです」
「ディランダだ、これが終わったら一杯奢ってやるよ」
「一杯ってケチですか…グゼです」
「酔い潰して一人置いとけばいいんじゃね?ウダンダ」
「名乗るタイミング見計らったら最後ですか…ピウイです」
名乗り終わると、なぜか私の方を見られたので発端は確かに私だけど最後の締めまで私なのか
「コホン…えー、再度リアラです!よろしくお願いします!」
「もう一回繰り返す気か?」なんてリーダーに突っ込まれて。ここが死地とは思えないくらいに皆各々で覚悟を決めた顔をして馬車が置き去りにされてある地点を無いよりはマシな防波堤として、それぞれが中心地に向けて向きを変える
「リアラさんてもしかしたら大物になるかもしれませんね」
ウィーネさんが近くに来て茶化してきた!さっきの流れは予想外で、ただ朝組の人達のことを思い出したらちょっと、もう少し周りの人に関心向けるべきだったかなって思っただけで…!
「恥ずかしいじゃないですか、そんな風に言われると」
「本当に思ってますよ」
うん、本当に思ってくれてるんだろうなって、そんな真剣な眼差しで見られたら嘘だなんて思えない。
今日何も食べてないなぁなんて思ってふと口に零す
「なにかご飯、食べればよかったです」
「終わったら私が作ってあげますよ」
そんなやりとりが、とても暖かい気持ちにしてくれた
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