第15話 崩壊の兆し

 ディズさんからの預かってるものと言われて用意されたという布をゲンボウさんが開いていくとそこには細い、私の腕のサイズに合わせてくれたのだろう、それでも丈夫な革で出来てそうな部分と拳の所は金属が使われており拳で戦えと言わんばかりの籠手があった。金属が使われてるならガントレットとでも言うのだろうか?


「あはは…もう手遅れでしたか…借金生活ですね…」

「リアラ嬢への贈り物だそうだよ。全然顔出してこないから本当に短い期間で稼いでくるんじゃって焦ってもいたねぇ」

「よく見つけてきましたね…」

「見つけた…まぁそうだね。良く用意できたものだよねぇ」


 私が瞳のハイライト消えるくらいの絶望を感じつつもちょっと着けてみたいなっていう欲望もあるあたり、実は打算的に期待してたんじゃないのかなって思う自分に自己嫌悪する。


「それと、これは私からだよ」


 そう言って籠手に目が行ってしまっていたが、横に置いてある布を広げて見せてくれたら、綺麗な黒を基調とした服だった。


「さすがにディズ君だけが贈り物だと私の立つ瀬がないしねぇ」

「いやいやいや、私何もしてないですよ!?なんなら雇用してくれるの蹴っちゃいましたし!」

「いいのさ。むしろ今もボロボロの服を着てるリアラ嬢を見ていると心苦しいしねぇ」


 もしかしてやり手の商人的に言えば汚い姿で周りをうろつかれたら困る的な…!なわけない。明らかな善意としか思えない。

 ゲンボウさんと話してると子供好きなのかななんて思うが、そうだとしてもこんな善意を気軽にするとか、申し訳ないぃ…


「少し退席するよ、良かったら着て見せてくれないかな?」

「あ、はい。私で良ければ?」


 笑いながら部屋を出て行って、私は着替える。膝くらいまである裾はあれかな?商品をそのまま持ってきてくれたのかな?と思いつつもただ、肩幅はわりとフィットしてるからそうでもないのかもしれない、仕立て直してくれた手間暇はあるんだろうなぁ。


「ゲンボウさん!着替えましたよ!」


 私はゲンボウさんが入ってきたのを確認して、くるりと周って見せた。


「良く似合ってるね。あとは靴なんだけど、それはディズ君に止められたんだよねぇ」

「いやいや、もらいすぎてさすがに怖くなっちゃいますって。けど、どうしてディズさん?」

「リアラ嬢は恐らく足も武器になるような物を付けるべきだと言われてしまってねぇ」


 足?私武術の心得とか何も持ってないけどなんでだろう。いやそもそも籠手の時点で格闘しろって言いたいのかな。

 というか私は剣を使いたいって言ってたのを忘れたんだろうかあの人は。


「それを探してたあたりで今日の警戒態勢さ」

「え?ていうことはディズさん緊急任務に行っちゃったんですか?」

「そうだよ、もしかしたらリアラ嬢がいるかもしれないと心配もしていたねぇ」


 本当これ以上私の上がらない頭をどれだけ下げさせようというのか。

 ゲンボウさんにもすいませんすいませんと頭を下げてるのに、ディズさんが戻ってきたらディズさんにも頭をたくさん下げなくてはいけない。


「あの、本当にいつかお金返しますから!」

「それじゃあ将来、私の宿屋に泊まってくれるようになったら返ってくるさ」


 この人は、と思いジトっと見てると苦笑された。


「実際組合の方を通して渡した後、出立しようとしてたわけだから、こうして渡して着ているところを見せてくれただけでも十分なお返しだよ。きっとディズ君もね」


 組合の人もいきなりこんな物をぱっと見小娘に渡してくる、やり手の商人と信用を持ってそうな冒険者の護衛からだと言われたらなにかよからぬことを私がしているとか思われるのでは

 深読みしすぎか…


 ただ、可愛い服が欲しかったわけではないが、単純に農民スタイルから町人スタイルに変わった服装はすごく嬉しい、ジョブチェンジってやつだ進化した!


「もう外も暗いし、よかったらこの宿で泊まるかい?」

「私がもうお世話になりすぎで死んじゃいます…元の宿に戻りますよ!せっかく宿のお姉さんとも仲良くなれましたし!」

「羨ましい限りだよ」


 普段小銭袋と大袋(中にシャツ一枚)と大袋に包んでる短剣だったので、両手いっぱいに物を持つようになってしまうとさすがに歩きづらい。


「背負い袋用意しようか?」

「いえ…あの、安いもの買うってところでどうかお願いしたくはおもいます」


 籠手を着けたとしても。短剣を腰にぶら下げる紐みたいなのも欲しいなぁって思うと、どうせ明日露店で買い物するくらいなら少しでもここで買い物してゲンボウさんに返した方がいいかと思い聞く。


「短剣を腰に下げるような紐ってあったりもしますか?」

「あはは。これから先のことを考えるとまだ安い先行投資だったかなぁ」


 軽口を言う感じで言われたけど、本当にそうなれたらいいな。お得意先がいるってのは純粋に露店でガチャをするより確実だろうし。

 いつかは露店巡りしてみたいけどね。


 そうしばらくして用意してもらった物は紐の背負い袋。重たいものを入れたら紐が食い込んで痛いだろうけど軽いものなら大丈夫だろうナップサックみたいな感じの物と。短剣に関しては鞘と腰に巻き付けた紐をくっつけるらしく、やり方を教えてもらった。


「おぉ!ゲンボウさん!私冒険者っぽくないですか?」

「冒険者っぽくはないけど似合ってるよ」


 やっぱり冒険者と言えばカビた革鎧なのだろうか?


 そのあとはまさかの銅貨30枚で良いと言われたが、今日の稼ぎ全部渡しても良いと思ったので50枚渡そうとすると10枚だけ返されてしまった。


「どうせこの辺りじゃ売れないものだからねぇ」


 なんか毎回そう言って私に売ってないかこの人

 でもお金を払ったという事実が罪悪感が薄ったので良しとしよう。


「それじゃあリアラ嬢、恐らく警戒態勢が解かれた三日後くらいかな。それくらいのときには出立するからディズ君がいるときによかったらまた顔を出してくれると嬉しいよ」

「はい!そしたらウィーネさん、組合の人曰く2日くらいで一旦落ち着く予定らしいのでそしたら顔を出しますね!」


 あれ?私、籠手もらわないために来たのに至れり尽くせりだった?

 仕方ないのだ…借金としか言えないが、しちゃったものはもうなんだか行くとこまでいっちゃえーって…むしろ開き直って私は宿のお姉さんの所に帰る。



 扉を開けると、お姉さんが口をぽかんと開けて私を見ていた。


「井戸の人ってこれじゃあもう言えないですね。冒険者さん」

「あ、井戸はそのまま使わせてください」

「あはは。こんな立派な防具のために私のところを通ってくれていたんだなって思うと鼻が高いです」


 実は借金してますとは言えないし、貰い物ですとも言えないので空笑いしか返せない。


「お姉さん、今日はご飯無しでお願いします」

「お祝いで食事代込みで銅貨10枚でもいいですよ?」


 どこの人も優しすぎて永住させる気なのかとも思ってしまう。

 ただ、どうしてもお祝いしますって勢いでそれならと食事付きで10枚支払った。


 リットーゲッカを食べながら少し今日の出来事、朝昼は忙しくてそのあとは優しさのオンパレードだったことを思い出して涙しながら食べたから少ししょっぱかった。



 朝だ!昨日お金なんだかんだ収支0と言う名の物資がプラスなので全然マイナスになった気分になれないのだ。


 ただ起きる時間がいつも通り夜明け前で、組合に行くわけでもないからパジャマ代わりに農民スタイルの服を使ってるが、どうしたものか時間を持て余す。

 特にすることもないので筋トレをしてると外も明るくなってきて、町民スタイルで籠手はさすがに厳つい恰好だなと思いナップサックに入れて街を出歩く。


 適当にうろうろしてると、もう屋台の人達が活動し始めてるのか、たまに「お嬢ちゃん買ってかない?」って言われるのをぐっと堪える。さすがにまだ食費は節制しないと…でもいつか屋台巡りもしてみたいなぁ。


 露店の商品も昨日のことがあったからそんな欲しい!って言うものも特にないし、アクセサリーが並んでるなぁと思っても指輪やピアス、イヤリングみたいなものは無い。

 ほとんどネックレスばかりで紐の先に石をぶら下げる感じだったり。


 短剣やナイフの類なんかも売ってあるけど、ショートソードくらいのちょうど良いのは銀貨数十枚…

 しかもウィーネさんが言ってたように盗賊からの押収品なのか鞘無しだったりで抜身のまま売ってたりする、それでも銀貨数十枚なのだ。


 巡っていて思ったけど、防具はあまり無い。あまりって言うのは鎧とかがなくてブーツとかはあるけどそれも金属は使われてるわけでもないし。ディズさん私にもしかして防具屋とかで買おうとしてるのかと思ったら、露店のブーツ一つでさえ銀貨5枚なのに金属製だと価格暴騰するんじゃないだろうか。


 特に見るものが無くなってもまだお昼になる前で、案外露店巡りも早めに終わってしまった。

 私的には呪いのアイテム~とかゲームでいう魔法の品々みたいなものとかを期待してたけどそう言うのは特になかった。


 街中は昨日と同じでざわざわしたり、わいわいしたり…一人でいるのも仕方ないし、宿屋にある井戸のところまで行って、籠手を着けて使用感を試してみる。


 やり方は分からないけど、正拳突きとかだろうか?シャドーボクシングみたいなことをしてみるが、このやり方でいいのか分からないままパンチしている。

 ボクシングスタイルがいいのか、空手みたいにもっと足腰?を踏みしめてパンチするのがいいのか。


 ディズさんが戻ってきたら聞いてみるか、もしくはそろそろ仲良くなれたかもしれないし朝組の人達に手ほどきしてもらうのはどうだろう?


「あー…早く緊急任務終わらないかなぁ」


 明日は清掃とかやってその日銭稼いだらまた、なんちゃってシャドーボクシングと正拳突きかな。足も使うならキックすることになるけど、農民ズボンを使いまわしてるけど綺麗な服越しに下半身だけ農民スタイルが見えたらと思うとなんだか恥ずかしくなってきた…


 お金に余裕出来たらナップサックもあるし、衣服をもう少し揃えようかな。この街に来たときにゲンボウさんにおすすめされた服屋に結局行ってなかったし。


 しばらく練習してると、宿のお姉さんがこちらに気づいて走って来ていた。


「ここにいたんですね!」


 探してたのだろうか?息を荒げて私の肩を掴んできた。


「お姉さん?どうしたんですか?」

「逃げましょう!」


 ん?逃げる?何を言ってるんだろう急に。


「冒険者の人がリアラって子を探してるって言われて明るい綺麗な髪をしてるって言われて井戸の人ってすぐに気づいて。今はもうとにかく。リアラちゃん、行きましょう!」

「ま、待ってください。さっぱり分からないです?」

「走りながら説明しますから!」


 そう言って移動するにしてもお姉さんは息切れだったのを宿に入った後大きい背負い袋をしょってきてこれじゃあ走るのは無理なんじゃと思いながら小走りでついて行く。


 空を見ると夕暮れに近いのか太陽が赤く綺麗だなーなんて思えるくらいには私的にはゆっくり小走りなんだけど、お姉さんが息を切らしながら動いてるから説明も聞くに聞けない。


 大通りから一旦街の中心に向かうのか。中心地に向かうと、それはもう大騒ぎだった


「はぁ…はぁ…リアラちゃん…私の後ろ付いてきてくださいね」

「えっと、はい」


 人込みの中をお姉さんが混ざるように押し込んでいって、向かってるのは東門かな?とはいえ、みんなも東門に向かってるようで中々進みが遅い。


 途中で聞きなれた声が微かに聞こえた気がして。よく見てみると、広場の中心でウィーネさんが誘導しようとしていた。


「お姉さん!組合の知り合いがいたから手伝おうと思います!」

「え、だめ!」


 ちょっと歩みを止めたらお姉さんが人込みに飲まれて行くのを見送って、人とぶつかりながらウィーネさんに近づいていく。


「ウィーネさん!ウィーネさん!」

「リアラさん…?」


 呼びかけると少しきょろきょろして、私が手を頑張って振りながら近づくと、まるで今すぐにでも泣きそうな顔をされた。


「リアラさん…いえ、そうね、もうこんなことするより早く避難したほうがいいのかもしれない…」

「あの、待ってくださいウィーネさん。私大騒ぎになってるのさっき教えてもらって、全然状況がわかってないんです」

「正午の報告で魔物…いえ、魔人が襲ってきているんです」

「魔人てたしかゴブリンですよね?」


 すると首を振りながら涙をこぼしている。


「魔人がゴブリンなのは合ってるんです、事実ゴブリンも襲ってきてますし。ただ他にも魔導を扱う魔人が現れたらしいです」


 魔導というとたしか国家機密の?使える魔人が襲ってきてる…


「それも大規模で襲っているようなので、この街ではだめでしょう」

「だめ…だめ…」


 オウム返ししかできない。なんだろう、戦争を仕掛けられてるということ?というより魔物の群れが来てるって感じだとモンスタースタンビートみたいなものだろうか


「でも、この街って大きい壁がありますよね!」

「魔物対策としては十分すぎるくらいです。それでも魔導師がいるのなら冒険者じゃ手に負えませんし、今からじゃ領主へ援軍要請しても間に合いません。リアラさん、私はまだやることがあるので付いていけませんが、みんなが向かってる東門から街道沿いにそのまま進んでいってください」


 残るってそんな、それってさっきの言い方だと死ぬってことなんじゃ


「ウィーネさんも一緒に…」

「私の責任でもあります…昨日の夜の時点で違和感はあったんです。誰も解体場に魔獣を寄こさないから苦戦する状況かもしれないって疑問を今日の正午まで放置してしまいました」


 だからってウィーネさんがここに残る理由にはならない、私が手を軽く引っ張っても動く気配はなく周りの喧騒がどこか遠いものに感じる。


「ウィーネさん!私…!わたし…」

「行ってくださいリアラさん、私も少しは戦えるんですよ」


 そんなこと、こんなこと突然言われても、何もかもが突然すぎる。

―ドゴォン

 街の中心地だとしても見える南の大きい壁が壊れてる赤い夕陽のように燃えながら

「は…?」

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