第14話 人の優しさ
ほとんど冒険者は来なくなって、依頼を持ってくる人の内容を見てみるととても勉強になった。
『東門近くにある食堂と周辺の清掃 銅貨10枚』
『緊急任務発生に伴って武具商品の宣伝 銅貨20枚』
『緊急任務発生と聞いて携帯食料の宣伝 銅貨10枚』
『呪われたツボをどうにかしてほしい 銀貨20枚』
『料理ができる人調理場作業の手伝い まかない有り 銅貨15枚』
緊急任務発生の情報をどこで聞きつけて、即座に依頼行動に移したのかはわからないけど、内容がよくわからなかったので裏手のおじさんに聞きに行ったら、受付担当が受ける依頼らしい。
こういう感じで受付対応する人は楽に稼げる内容があるらしい。冒険者というよりは組合そのものを依頼者として扱うような。
とはいえ商品に関して詳しくないので、あとでウィーネさん行きかな。お金は欲しいが商品PRできるほど冒険者に響く宣伝文句が思い浮かばない。
あることないこと言っていいなら良いが、脳筋と信用だけは高い組合がそれをしたら駄目だろうし。
組合は儲かってないと聞いたけど、実際は結構儲かって、冒険者側からはそういう一面が全く素振りが見えないってことだったのかもしれない。
むしろこのまま組合に勧誘されて、秘密を知ったからには…みたいな展開とか想像したら、脳筋具合から否定しづらいので少し恐々としてしまう。
依頼が出されるだけで組合に銅貨1枚は安すぎるとは思ったが、慈善団体のわりにスタッフが仕事で食べていけるのはちゃんとした理由があるんだなぁ。
ちなみに緊急任務で出払ってる人達が多いと伝えると依頼を取り下げる人達も中にはいた。
『宿屋の掃除 銅貨2枚』
『馬車の護衛 実力者のみでパーティ単位でも報酬変動無し食事は有り 往復 銀貨2枚』
『冒険譚がある方 主にダンジョン経験者 銅貨50枚』
馬車の護衛!見たことないような依頼で少しわくわくしたが、組合の受付担当と解体場担当の責任者が認めてる人のみに声をかけるので掲示板には貼らないようだ。
冒険譚がある方についてはなんのため?と思ったが、その依頼を持ってこようとしてた人は多分楽器っぽいものを背負っていたから大型のリュックで見えづらかったが、リュックが丈夫そうだったので売っていたところを聞きたいのをぐっと堪えつつ、吟遊詩人かな?と予想した。
街にそもそもそんなにうろついてないから見たことなかっただけで、正午とかに街の中央にいるともしかしたら吟遊詩人はわりとポピュラーな感じでいるのかもしれない、それとも酒場かな?
そんなこんなでウィーネさんが戻ってきた。屋台で売ってた1本銅貨2枚もする串肉を2本もくれた!
さすがに高くて見てるだけで済ましていたが、まさかここで食べれるなんて組合最高!
「そんなに喜んでもらえるなんて思いませんでした、リアラさん本当に金欠なんですね…」
「あ、これは。いや、金欠は…はい…事実ですが…」
恥ずかしかったが串肉はとてもジューシーで美味しかった、肉の塊が口の中で脂の旨みが何の肉か気にするとか考えることもできないくらいに満足だった。
食べながら、組合宛ての依頼っぽいものをウィーネさんに渡すとニコニコしていたので、彼女のお給金になるのだろう。
「武具の宣伝とかウィーネさん詳しいんですか?」
「これは解体場宛てですね。あちらの方に狩猟や魔物討伐を主にしてる冒険者がいますから、ただ緊急任務発生時なので、解体場は忙しくなるのでこちらの受付に回ってきたんでしょう。詳しくなくても解体ナイフや、魔物発生依頼は武具の消費が激しいので弓矢の補充等、そういう案内をすればいいくらいです」
宣伝と言うよりかは、消耗品の在庫があることを伝えるだけでもいいのか。
「この街にも鍛冶屋がありますからね。普段はそこでいいでしょうけど、行商から買う方が安く済みます、とはいえ質が安定してないのが欠点なんですよねぇ」
いつか鍛冶屋行ってみたいとは思ってたけど高そうとは思ってたが実際に高いらしい。
露店とか開いてる物はある意味ガチャなのかな?遠くの品から持ってきた物と思ったらむしろ高そうなイメージあるけど、有名どころから仕入れてでもない限りは信用に欠ける一品とか。
私の短剣も銀貨1枚だったしゲンボウさんがサービスしまくってくれたのかと思ったけど、わりと世知辛い理由があったみたい。
とはいえ折れた木剣が銀貨35枚だったのはそれこそ有名なところから仕入れたのかな?
このことをウィーネさんに伝えてみて何か分かるかな?と思って、ゲンボウさんの名前を出したらウィーネさんも知ってる人らしい。
「ゲンボウさんですか、この街にまだいらっしゃったんですね、中央にある高級宿屋はゲンボウさんが経営してらっしゃいますし、顔は広いと思いますよ」
え、もしかして一緒の宿屋泊まる?って聞いてくれたのは無料か割引で泊めてくれるって意味だったのかな…もったいないことをしたかもしれない、せめてお金少し出して…泊まらせてもらうべきだったかも
いや、そしたら今の宿のお姉さんと仲良くなれなかったし、やっぱり頼り切りはだめだろう。
「短剣が安かったのは恐らく盗賊から押収したものかもしれませんね、顔が広い商人は信用のない武具を二束三文で売るらしいですよ」
盗賊が元々持っていたかもと話されると、なんか嫌というか汚いのかなとも思ったが、その中でもちゃんとまともな物を押収したと思いたい。
しかし私の持ってる短剣がもしかしたら人を殺してきた短剣かと思うと我儘は言えないにしても思うところはある。
盗賊が持ってた物ということで、もしかしたら良いものもあるかもしれないし粗悪品があるかもしれないしと、本当にガチャみたいだなぁと思う。
軽い談笑をしながら外が夕焼け色に変わると依頼者も特に来ることはなくなり、清掃などを終えたなどの報酬の受け渡しをするくらいになってきた頃には暇と思える時間が続いた。
「本当なら依頼終わりにお酒頼んできたりしてきて普段は賑やかなんですけどね」
そう言ってウィーネさんは少し寂しそうにしていた。
異世界産のお酒に興味が少しあったが、冷たいお酒が出るわけでもなさそうだし、浪費もあまりできないことを考えると生活安定したときにお祝いで少し飲もうかな。
お酒は嫌いではなかったがあまり好んで飲んでいた記憶はないし、気分の問題的に。
「リアラさんは明日はどうされますか?今日はお手伝いしてもらいましたけど、明日からは多分暇になりますよ」
「そう、ですね」
聞かれるということは受付のお手伝いは今日までってことかな?
そうなると清掃か、ツボの人と雑談コースの二つかな、ほかに何かあるかな。
いや、依頼より先にしなきゃいけないことがあるか。
私はそろそろディズさんに会わなくちゃいけない理由がある…
絶対に銀貨50枚用意できない!もしかしたらローンとか分割払いみたいなシステムでお人好ししてくれるんじゃなんて淡い期待もしなくもないが、それは個人的にしたくないからできれば、もうさっさと断ってしまったほうがいい。
「明日はお休みにします!」
「あ、今回の報酬で少しは余裕出ましたか?ふふ。休むのも大事なことです」
たしかに生活面では余裕が出たから休んで会おうと思うくらいになったのかななんて思ってしまう
どこか無意識に切羽詰まりすぎていたのかな。
「もう依頼達成でもいいですけど」
「いいんですか?もし、まだやることあるなら私戻ってきますよ」
「大丈夫ですよ、こちら報酬です。それと首飾りは返してもらいますね」
この街に来て一番の稼ぎが出てしまった。しかも昼食までもらったし、これなら夜食べなくてもいい気がする。
「ウィーネさん!今日は一日お世話になりました」
「こちらこそお世話になりました冒険者さん」
組合を出た後。まだ夕日は出てるし、いつもは暗い街の中心に向かうと、ざわざわと不安そうな声や、はたまた屋台の賑わいもあり、なんとも言えない。殺伐としてる人もいればいつも通りの空気を出してる人もいる
街が警戒態勢に入ることはわりと近くに森があるしよくありそうなものだと思ってたけど違うのかな?
それとも今不安そうにしてる人は他所から来た人とか?
美味しそうな良い匂いも交じって、欲望に負けそうな気がしつつ、どうせ中心まで来たのだからゲンボウさんの宿に寄っていこう。
以前来たのはほぼ冷やかしで値段聞いて帰ったから少し気まずいけど、今回は用件があるわけだし大丈夫だよね。
そうしてドアを開けると、受付のお兄さんが「いらっしゃいませ」と丁寧なお辞儀をしてくる。
「あ、えと、ゲンボウさんの護衛の人に会いたいんですけど、ディズさんて言う」
「申し訳ありませんが、ディズ様は出かけておりますね。失礼ですがリアラ様でしょうか?」
「はい、リアラですが」
「それならオーナーが会いたがってましたので良かったらご案内しますがお会いになられますか?」
オーナー!ウィーネさんの話を疑ってた訳ではないけど、正直幸薄そうな行商人のゲンボウさんが!いや奥さんもいるし、人は別に見た目に寄らないんだけどさ、今までお世話になってた人がすごい人だったと実感するとこう胸に来るものがある。
「それなら良かったらお願いします」
階段上るのかなぁと思ったら、カウンターの中へ入ってその奥に部屋があり、なんというか応接間?みたいな部屋に案内された。
そうすると「お掛けになってお待ちください」と言われ、お兄さんがどこかに行く。
てっきり私がゲンボウさんの所に行くのかと思ったけど、向こうから来てくれるようだ。
椅子に座って部屋の中を見てると、高そうなものが置いてあるわけでもないが、骨董品?調度品か、壺みたいなものとかあると、基本この世界に来てからは木製以外の調度品なんて初めて見たかもしれない。
そして、よく見てみるとガラス製の何かがある!その近くには鏡?さすがオーナーだ、なんか文明が進んだ光景みたいでこの応接室一つわくわくしてしまう。
鏡を見てみると、クリーム色の髪と金色に光る瞳…私こんな目してたんだ、ただ髪がシャンプーしてるわけでもないし水浴びで汚れは落としてるけどどうにも傷んでる気がする。
お風呂入りたいなぁ…鏡を見てると欲求が高まるので壺をじろじろ見てるとドアがガチャリと開きゲンボウさんが笑顔で現れた。
「こんにちは!ゲンボウさん!」
「あはは。てっきりもう会う気がないんじゃないかと思ってたよ、こんにちはリアラ嬢」
そこまで恩知らずではないが。そうか、ゲンボウさん的に言えばディズさんとの約束があったから私が銀貨50枚用意するまでここで移動しないで待っていてくれたのかもしれない、わりと大言壮語ですぐに用意するとか言っちゃったし。
「その様子をみると、お金の工面は困難してそうだねぇ」
「そんな顔してますか私…?」
「そりゃあもう。ここまで来るときはいつも表情豊かだったリアラ嬢が真面目な顔をしてるもんだから苦労してるだろうなぁってねぇ」
人は三日会わなければ別人に見えるみたいな諺があるくらいだし…まぁ食生活も少しは影響してるかもしれないが。
「まぁ。その、ディズさん!ディズさんにできれば武具についてキャンセルしたくて!せっかく探してくれるって話だったの申し訳ないんですけど!」
「まぁまぁ、落ち着いて。とりあえず座って。もう少ししたら紅茶が来るからゆっくり話したいな」
「あ、はい」
勝手に応接室の物を色々と物色してたことと言いたいことが纏まらなかったことが気恥ずかしく思い、椅子に座る。今まで組合で何をしてたかと聞かれたので
ホーンラビットを1匹倒したのが運良くすっぽ抜けた短剣が刺さったこと。今の宿屋ですごく良くしてくれるお姉さんがいたこと。組合の人が、門兵さんが良い人だったことを話すとゲンボウさんは相槌しつつ聞き上手なのか今まであったことをペラペラ話した。
話途中で用意してもらった紅茶を飲んだら甘いコーヒー派だった私的には美味しさがよく分からなかったけど、香りがとてもよかった。
「それで今日一日すごく勉強になりました!組合の受付ってやってみるものですね」
「短い間に随分と充実した体験があったんだねぇ」
こんな話はもしかしたら聞きなれてるかもしれないのに最後まで聞いてくれた。
「まったく強くなれてないですけど。もう少し生活が安定したらもう一度狩りとか行こうと思います!」
「そうか、そうだよねぇ。そこは変わらないんだねぇ」
ん?なんか変なことを言ってしまったのか、ゲンボウさんは困った顔をしていた。
「リアラ嬢が良ければね、私のところで働くのはどうかなぁと思っていたんだけど」
まさかのスカウトだった。確かに金欠で困りはしてるが。
「気立ては良いし、口調も丁寧だ、子供とは思えないくらいにねぇ。それなら私の方で多少は手助けすればリアラ嬢は生きていける。そんな道もあるんだよ」
べた褒めされすぎて顔が熱いが、私としてはせっかく決めた目標というか、まだ強くなるなんて漠然としたことを諦めてない。
ただこの話がすごくおいしい話だとは思う。
組合員が知ってるくらい顔が広くて、宿屋の経営までして、安定してる商人な上に、なにより優しいのだ。
ホワイト企業だろう、真っ白すぎるほど。
息を整えて、私は瞼を閉じる、そうすると今でも鮮明に思い出せる私の英雄の背中。
「ゲンボウさん。きっと私にはすごく勿体ない話なんですが…ごめんなさい」
「そうか、ディズ君もそうだけど、冒険者というのはやはり商人には計り知れない意思があるんだろうねぇ」
「ディズさんですか?」
「ディズ君は私が贔屓にしてる信用してる冒険者なわけだけど、もう専属で雇われないかと誘ったことがあるんだよ、そしたら断られちゃったのさ、あくまで組合を通して依頼してほしいってね」
ディズさんもディズさんで以前ダンジョンの冒険譚を話してくれた様な、なにか冒険者のこだわりみたいなものがあるのかもしれない。
私は別に冒険者とかにはこだわりはないのだけど、あくまで早く強くなることが目的なわけで…あれ?それなら働きながらでもいいのでは?
早計だったかもしれないと思ったが(違うだろう)と私の何かが思う。
あくまで私が追いかけてる姿は理想の冒険者だ。この世界からしたら普通の冒険者はその日暮らしの飲んだくれで、だらしないようなお人好しがいたり、かと言えば今日みたいに街が危険だと分かれば自分たちが戦いに行く…
ディズさんも何か私と同じように。かつてダンジョンに出向いたときのような冒険者としての理想があるのかもしれない。
「あはは。ディズさんに言っておいてください、そろそろ引退してもいいと思いますって私が言ってたって」
「それはいい、私が言っても聞かないがリアラ嬢の言葉なら頷くかもしれないねぇ」
私は追いかける。どこまでも。だから万に一つの可能性でもまだ生きていてください…
「それじゃ、リアラ嬢、ディズ君から預かってるものを渡しておくよ」
ディズさんから?何だろうと思ってると、ドア越しにずっと話を聞いてスタンバイしてたのか受付のお兄さんが布に包んだ物をテーブルの上に置いて頭を下げてまた出て行った。
盗み聞きしてるなら別にこの場所にいてくれてもとは思うが、真顔でずっと隣にいたらさすがに緊張しちゃうか。
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