第13話 受付嬢とは?

 今日も今日とて太陽が出る前に組合の方に行くと朝組の人達がいたので「おはようございます」と言うと少し間があった状態から「律儀だな」と笑われた。

 受付嬢さんが来てから、今日は最初に依頼を選ぶわけでもなかったけど


「リアラさんは東門の方がもし朝組にいたら優先してほしいと言われたので、今日も受けますか?」


 そんな風に言われた。社交辞令とかではなく、そうがんのブンダさんは本当に気に入ってくれたのか誇らしく思う。


「へー嬢ちゃんそんなに気に入られたのか、珍しいこともあるもんだな」

「受付したときから私はリアラさんは真面目で信用をすぐとれる人だと思ってましたけどね!」


 なんてやりとりを聞きつつ、この受付嬢さん解体場教えてくれなかったんだよなぁと突っ込むべきか喉まで出かかった言葉を抑えて。


「せっかくなので受けたいです。報酬は前回と同じですか?」

「いえ、今回は銅貨30枚ですね。昨日よりは下がってますね、苦情を出しましょうか?」

「え?いや、大丈夫です!受けますし、別に妥当な金額なんですよね?」


 依頼者に苦情とか言えるんだ組合って、いや、この場合指名してきたから?なのかな。

 やることは昨日と同じだろうし、ちらっと依頼書を見てもそんな高額な依頼とかも無いからむしろラッキーだろう。


「それじゃあ今日もみなさん頑張ってくださいね」


 朝の静けさを感じながら東門に向かうと、ぱっと見、鎧のせいでブンダさんだと思ってたら違う人だった。


「お、あんたがリアラちゃんで合ってるかな?」

「はい!私は冒険者リアラです」


 この人も二つ名を持ってるのかなと少し期待して自己紹介をしたけど、冒険者をあえて付けたことに苦笑されてしまった。


「ブンダのやつが昨日自慢してきてよ。俺はイズラ、よろしくな」

「よろしくお願いします。自慢ですか?」

「そうそう可愛い子が一生懸命、馬車が来ましたよーなんて言ってきて一日癒されたとかな!」


 それは恥ずかしいのだが、恥ずかしいのだが!?そんな変なこと言ってなかったと思ったけど、あれかな冒険者が粗暴そうな人が多いから花が欲しい的なやつかな。

 あんまり女性扱いみたいな対応をされてこなかったから、自分のことを可愛いと言われたりそんな風に扱われると前世もちらついて妙な罪悪感があるというか。


「それじゃ開門しよう。昨日と同じようにやってくれたらいいからな」

「はい!」


 だいたい昨日と変わらず、馬車が何台来たかとか、昨日見かけたダチョウみたいなのが一匹森の方にいるとか、暗くなるまでやったらブンダさんと同じように「やりやすかったよ。ありがとうな」と喜んでもらえた。


 私としても目の前で実際に喜んでもらえたということが嬉しいのでうぃんうぃんと言うやつかもしれない。


 組合に戻ると報酬を受け取り、そのまま宿屋の方へと向かいリットーゲッカをお願いして食事も済ます。


 明日もこんな一日かなぁと、食後に井戸で水浴びをして今後について考えたら胃がキリキリ痛む。

 借金が…いや正確に言えば借金ではないのだけど、というか必要経費というかまともな武器を持ってないから強くなるための下地を整えてる段階なのだけど…


 先は長いなぁ。明日も東西南北、どこかの門兵の見張り依頼があれば銅貨30枚としても宿屋で一日一食生活して収支はプラス15枚。

 初日の幸先の悪さと比べたら15倍なのだけど、いくらなんでも厳しい。


 私も何か雑貨品を作って屋台に混ざろうかとも考えたけど、そもそも雑貨品を集める段階で頓挫しそうだ。私のイメージではリュックとか肩に重量負担しやすい形状の袋とか売れそうな気はするけど、裁縫とかやったことないし。


 茶器、料理、何か一気に稼ぐ方法はないかな。アルバイトみたいな雇用してくれるところとかも多分賃金は相当に低いだろうし。この宿屋とか私以外の客を見たことない。

 たしか部屋数は206号室まであったはずだから一階にも106号室まであると考えても12~人から銅貨10枚。

 経営的にあまり儲かってるとは考えにくい、食物の仕入れとかを考えたり、維持するだけでも大変だと思う。


 儲かってるところにバイトかなぁ…そうなってくるとゲンボウさんを頼ることが一番に思い浮かばれる。


『人を見て信用したら頼りなさい』


 たしかそう言ってた…私のくだらないプライドみたいなものであまり頼りすぎてる人には頼りたくない気持ちを捨てるか、それとも別の…組合に直接聞いてみようか?受付嬢さんとか詳しそうだし朝組の後なら時間も暇してるかもしれない。



 気づいたら眠っていた!木製の窓を開けるとまだ暗かったので安心したけど、久しぶりに深く眠ったきがしたので体が少し軽い。


 月を見るともう少しで太陽が出るだろうし、急いで組合に行こう。みんなも空を見て時間を計ってるのかな?


 物静かな街をパタパタ進むと組合前でいつもたむろってる朝組の人がいないからもう中に入ってるかな?とドアを開けると中では一斉にみんなが私を見てきて少し剣呑とした空気が流れてる気がする。


「リアラさん、いらっしゃい。今日はどんな依頼にされますか?」

「え?いやみんなの後で大丈夫ですよ」

「いえ、今日はみなさん別の用事がありまして…なのでどれでも先に選んじゃって大丈夫ですよ」


 別の用事とな、しかもみんな全員?

 私が返答に困ってるとガスダさんもいるので思わずなにか聞けないかなってじっと見てたら、小さくため息をして前に出てきた。


「嬢ちゃんは本当に嬢ちゃんてわけじゃないんだろ?それなら冒険者扱いしてやったらいいんじゃねえかな」

「おいガスダ」

「まだリアラさんは入ったばかりですから…」


 周りの人が一斉に抗議し始めた…なんだろうか、私を恐らく心配してるから言ってくれてるんだろうけど仲間外れみたいな感じの疎外感がある。


「組合は基本、なんだ?人助け?冒険者は自分で判断するって感じだからよ、言うだけ言って判断するのは嬢ちゃんじゃないか?」

「それは…そうですけど、冒険者の方は無鉄砲というか、頼りにはしてるんですが。リアラさんはまだパーティも組んでいませんし、組むつもりもないと言ってました。組合受付担当の判断にはなりますが今回は対象外ということで」

「もうそこまで言ったんだ、逆になにも知らないと危ないだろ」

「ぐっ、そう、ですね…」


 ようやく話してくれるのか、私の方を向いて、コホンとわざとらしい咳払いをしつつ指を立てて説明が始まる。


「いいですか?リアラさん。冒険者組合では調査依頼という物があります。そこで一定数以上の魔物を発見した場合こちら側がお願いして一時的にパーティを組んでもらって討伐に行ってもらうと言うものがあります…」


 そして、と続く説明は討伐依頼が出た場合、街は閉門。つまり討伐が達成されるか失敗するか、もしくは外部から行商なり旅人が現れたら開門はできる限りするが警戒態勢を取ってるため、外に出た者は即座の避難が厳しくなるらしい。


 討伐が成功すれば、緊急任務のため通常より多く報酬は出るし。失敗すれば、冒険者組合では対応できないと判断され、書状を認めて領主を頼り正規兵の討伐隊が出る。


「えと、そんなやばい魔物が出てきたんですか?」

「調査報告書ではゴブリンが数匹単位で移動してるのを発見したらしいですが発見場所が…南門から西手にある森で発見されたためゴブリンだけではない可能性が非常に高いです」


 純粋に思ったことを聞いたら、そういえば掲示板に貼り紙にそんな内容の魔物討伐依頼があった気がする。誰も受けてなかったんだあの後も。

 縄張り争いとかせずに近場の住処で暮らしてる?のかな。


「それって緊急報酬?任務?ってどれくらい値段増えるんですか?」

「リアラさんなら聞くと思いました、ゴブリン一匹あたり銅貨5枚ですね、ほかの魔物もそれくらい金額が釣りあがっていきます」


 それは加算なのか乗算なのかで変わりそうな気がするが、神妙に話してるしさすがに加算ではなく乗算だと思いたい。となると5倍くらいの報酬で5倍に見合った分だけ危険が増してるのかな。


 さて、どうしたものか。私は非常にお金に困ってる。困ってるから何か役に立てるなら参加したい気持ちが上回ってるが、ゴブリンなんて見たことも戦ったこともないし。ディズさん曰く私が数年鍛錬が必要と言ってたのをホーンラビット1匹倒すのだけでもかなり苦労した…

 戦闘面で考えたら役立たずもいいとこだろう。ならサポーターみたいな立ち回りができるかと聞かれたらそれもできない。解体なんてできないし、魔石の位置も知らない。


「私は戦っても多分役に立たないです…それにお手伝いも何をしたらいいのか分からないですが、私でもできることって何かありますか?」

「これで参加するって言われたら止めれなくなってしまうからそう言ってもらえて嬉しいです、リアラさんは街中の依頼をこなされるか、もしくは私の手伝いされますか?」

「こんなときに申し訳ないですが…組合のお手伝いって報酬は…」

「ふふ、いつも金欠みたいですから大丈夫ですよ。これは個人的に頼むのでそうですね、銅貨50枚はどうですか?」


 あの貧乏と思ってた組合が50枚…!というか、言い方が個人的にというあたり、受付嬢さん個人が私に手伝いを依頼するということだろうか。


「お手伝いしたいと思います!」


 そう言うと、受付嬢さんがカウンター奥から何か取り出してササっと紙を書いたりしたあと、また奥に行き、紐の首飾り?みたいなものを持ってきてくれた。


「仮ではありますけど、組合員の証です。リアラさんだと見た目的にあった方がいいでしょうから」

「ありがとうございます」


 少し複雑ではあるけど、まぁ冒険者みたいな装備をしてるわけでもないから明らかに私だけこの中だと違和感ある存在、意識すると居たたまれない…


 そのあと、カウンターの方に手招きされたので、ついて行き、周りが「似合ってるぞー」とちょっと茶化されたりする。


「それではみなさんは、協力が仰げそうなほかの冒険者さんに声をかけてください、私の方からは明日の正午、明後日の正午に随時報告します」


 言ってることの意味はほとんど分からないので落ち着いたら説明してもらおうと思いつつ、みんなを見る。

 朝組の人らが頼られてるってことは腕前が魔物を討伐できるから頼られてるはず。私は心配されてたけど、この人達はカビ臭いだけじゃなく本当に冒険者なんだなって思って、説明が終わったころになると私の方に手を振ってくるので。


「気を付けて行ってらっしゃい!」

「死にはしねぇよ!任せとけ!」


 そう言ってみんな笑顔で出て行った。


 受付嬢さんと二人きりになるとさっきの分からなかったところを聞いてみた。


「警戒態勢のため東西南北の門は閉じますが、こういう場合依頼が失敗してるか進行中なだけなのか分からないので、組合お抱えの冒険者に頼んで経過報告を聞きに行ってもらいに行くんですよ」

「その人は最初から戦闘に参加しないんですか?」

「戦闘よりここら一帯を記憶して移動に特化した人が採用されるというのもありますが、基本的にその人も受付担当してるのでこっち優先ですね」


 そう言われたらこの人も何かできる人なのかなとか新たな疑問も浮かぶが、今は仕事に関係することを覚えた方がいいだろう。

 私のすることを聞くと、書類を今から渡すからそこに緊急任務に向かうとされる人物の名前を記入すること、それと先ほどの明日の正午、明後日の正午に報告することをこれから来る冒険者に説明すること。


 昼以降は時間が空くと思うから、そしたら他の業務を教えるとのことで。話を聞いてたら、ちらほらと朝組後続の冒険者たちが現れてきたので受付嬢さんが説明してると

 そのさらに後から来た人は状況が分からなくなるので、私の出番なわけですごく緊張しながら覚えてることをできる限り説明すると


 こうしちゃいられないとばかりに他のパーティに声かけに行ったりする人や掲示板に出されてる朝組の人がいなかったから余った清掃依頼をこなしたいと言い出す人。

 たしか、名前を書くんだよね…ってこの人の名前知らないしさっきの人も名前聞くの忘れてた!


「あ…名前聞いても…いいですか?」



 掲示板依頼をする人には直接聞いて、人集めに向かうと言い始める人にはパーティ名か個人名を聞くようにした。

 朝聞き逃した人は、受付嬢さんが見てたのか「慌てなくていいですよ、あの人はですねぇ」とスラスラ名前を言ってくるので、私は緊急任務の方の書類に名前を記載していく、ぱっと見、日本語書いてると思うんだけど、大丈夫かなと思って見せてみると普通に読めるっぽい、違和感ふぁんたじぃ…


 組合の中だと空を確認できないが人が減ってきたのでお昼近いのかな?

 いつも賑やかだった組合が今日は閑散としてるので新鮮な気分だ。


「受付嬢さんすごいですよね、今日も一人で全部仕事してたんですよね」

「コホン、褒めてもらえるのは嬉しいですが!私の名前はウィーネですよ。それにリアラさんも手伝ってくれましたし、私一人じゃないですよ」

「は、はいウィーネさん。普段一人しか見たこと無いし、今日も私いなかったら一人でしたよね?」


 カウンターより奥には行ってないが、それでも今日カウンター内にいるのはずっと私とウィーネさんだけだった。


「いえ、多分私よりもっと早くから組合にいると思いますよ?あの人達住み込みで働いてますから」

「え、怖い…今日働いてて誰も見てないですよ?」

「リアラさんも会ったことありますよ?裏手の解体場にいつもいますから」


 あ、あの人達か、解体場のおじさん。あの人達って組合員なのか、まぁ組合の裏手で働いてるから組合員なのかもしれないけど。


「その。ほら。リアラさんも初日臭いがきつかったでしょう?それを嫌がって裏手の方でも掲示板があってそこでも依頼を受け付けているんですよ、普段防具を好んで着込んでない人はそちらに行く人が多いですね」


 衝撃の事実だ、臭いに慣れますよとか言っておいたのに回避する手段があったなんて。

 いやまぁ、ウィーネさんが顔見知りだから知ったとしても組合の中で結局依頼探してたと思うけど。


「あれ?それじゃあ朝組の人達ってもっと早く依頼受けれるんですか?」

「いえ、依頼先の時間の都合的に私がいつも来る時間帯まで待たないといけないので受けたとしても私を目安に依頼に向かうという風になってましたね、いつからそうなってたかは覚えてませんが」


 ウィーネ時計とでも言うべきか、ウィーネさんが寝坊とかした日には大変なことになりそうだ。


 するとウィーネさんが「そろそろですね」とか言って何か準備し始めたので、その最中に私がこれからすることを説明された


 基本は朝と同じでこれから来る冒険者の人達に説明をするのと、依頼を頼みに来る人もいるからそのときは組合仲介料として銅貨1枚と依頼される内容の分の金額を前もって受け取ること

 それと今回は警戒態勢になるため依頼を頼んでも期日がある場合、依頼を出しても受注されない可能性が高いことを伝えたりとかである


「それじゃあ少しの間留守にしますので、どうしても困ったら裏手にいる人たちに誰でもいいので聞いてくださいね」

「ウィーネさんは?」

「私は門まで向かって事情を説明するのと、リアラさんの分も含めて昼食を買ってきますので」


 ホワイト企業かもしれない、とちょっと思ったが、そういえば就業時間を聞いてなかったなぁと今更ながら気づいた。

 一人になったことで心細かったけど、来る人が時間帯被って複数人来ることもなくて落ち着いて説明できたと思う…多分。

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