第9話 冒険者組合
木剣は壊れてしまったので稽古は中止。その木剣もなんで荷台にあったの?と思わなくもないが、一本しかないものらしくとにかく私の稽古はこれで終わった…わけではないのだが…
朝になるとゲンボウさんが起きて、ディズさんは爆笑しながら壊れたことを言いゲンボウさんも呆れ笑いしていた。
「まさか初日に壊してるなんてねぇ…」
「本当にごめんなさい…」
不良品つかまされたと言いたかったが、すっぽ抜けて地面に刺さったら折れるなんて思いもしてなかった…いいえ。はい。私がすっぽ抜け起こしたのが原因です。
あの後はディズさんは笑い終わると、私が持ってた短剣を見せてみろというので見せたら「へー」と言うだけ言ってまた爆笑してた。
焚火の前で体育座りする私と気分良さそうなディズさんの構図を起きたゲンボウさんは目を丸くしていた。
「あぁ、上手くいかないなぁ…」
運転してるゲンボウさんは何も言わずニコニコとして、私を膝に座らせて器用に座ったまま寝てるディズさん、おかげでお尻が痛くないです拝みます。
「そういえばゲンボウさん、向かうところってどれくらいで着くんですか?」
「二日くらいだけど、そこも途中で寄るだけだから目的地ではないかなぁ。街までは今日も合わせて一週間くらいだよ」
遠い!と思うが…いや、遠い分稽古ができると考えれば…いやいや!時間がないんだってば私。
「もっと早く移動する方法ってないんですか?」
「ふむ。馬を飛ばせばその分早く着くことはできるけど、それをするにしても目的地に近づいてからかなぁ」
「つまり…馬の魔物がいれば…」
「あはは。走れば仕入れた物が潰れちゃうし、盗賊が現れた時に馬がバテていたら魔物の馬を仮に使役してたとしても最終手段に近いだろうねぇ」
ごもっともすぎることを言われたのでどうにもできないなら仕方ないのでぼーっと空を眺める。
平和だ。
お昼になり交代する時間になると、ディズさん座布団が消えて私のお尻を叩きつけられるのかと嫌な気持ちになったらディズさんが私を街道にひょいっと降ろした。
「お前、歩くか軽く小走りでついてこい」
「え…新手のいじめですか…」
「尻真っ赤で泣いてもいいなら別に俺は構わないぜ?」
はい…徒歩で行きます。
ゲンボウさんとか痩せてて肉付きないからさぞ痛いだろうに耐えてるのだからすごい。もしかしたらお尻の筋肉すごいことになってるとかなんじゃないだろうか。
それで言ったらディズさんもか。
さすがに馬車の速度がゆっくりとはいえ私の歩幅も相まって小走りしながら付いて行くと、馬車よりもしかして私の方が早い?なんて思ってしまう。
「おーおー、元気だねー」
「誰のせいで走ってると思ってるんですか?」
「じゃあ座るか?」
「できれば膝の上でお願いします」
「いい加減俺の足壊れちゃうよ?」
まぁ、特に疲れを感じないからいいんだけど。それでもずっと走ってるとたまに転げそうになるから気を付けないといけない。
夕方になるとゲンボウさんがまた目を丸くして私の方を見てディズさんに私の代わりに怒ってくれた。
そして待ちにまった食事だー!朝食と夕食の二食が私を癒してくれる。昼食は干し肉なら食べていいと言われたけど、喉が渇くのであまり食べる気にならないんだよね。
ゲンボウさんと途中寄る村は時間的にそのまま素通りになるから村を見ても、寄るとは言っても風景を見るくらいと言われ、この世界の村はそんな特産もなしに暮らしてるのかぁとしみじみ思う。
前世も田舎はデパート無くて車で遠出してたなぁと思うと、現代文明のコンビニのありがたみを感じる。
そして木剣は折れたから稽古終わりかぁと思ってた私が寝てたら不機嫌そうな声で起こされる。
「おい」
「おはよう」
「あーおはよう…」
木剣無いしどうするんだろうと思ったら、今日は逆に私が避ける側になった。
「安心しろ、お前に当たりそうになったら寸止めするから」
「私がディズさんみたいに前進したら?」
「もちろん当たる」
とりあえず避けよう…
「最初は軽くやるから、よく見ておけよ?」
そう言って。本当に遅く。非常に遅く振ってきたので大袈裟に後ろに引くと…
「お前は今反撃のチャンスを無くした」
理不尽だ…反撃ありならありと言ってくれないと。いや指示待ちがいけないのかな?けど勝手にしたらしたで怒られそうと思う。
そして少しずつ速くなってくるディズさんの納刀された剣を見ながら、できる限りゆっくり振られてきたときと同じような距離感覚で避ける。
「どうだ?当たりそうか?」
「んー。分かんないですけど転げないか不安です」
「じゃ大丈夫だな」
更に速く振られて尻もちをついてしまう。
ほら、やはり転げたじゃないか。
「なんで転ぶんだ?」
「私が聞きたいです…」
含み笑いをされながらまたゆっくりから段々と速くなっていくのを繰り返す。
すると、途中で「飽きた!」と言って焚火の前に座られた。
「えぇ…ディズさん真面目にしてくださいよ」
「いや、眠くなるだろこんな単調なやりとりとかよ」
教えを乞う側なので仕方ないけど、私としては不完全燃焼で終わってしまった。
それからは特に変わり映えしないことが続いた。
朝になるとディズさんに座り、お昼からはジョギングして、夜はディズさんの振りを避ける。
1日2日3日。
予定では一週間と言ってたし明日か明後日には街が見えたりするかなぁと期待してたら、ディズさんが夜になると「お前もう剣いらないんじゃね?」と言ってきた。
「つまり…私の武器は拳…!」
「いや、多分おまえ不器用だから武器また飛ばすだろ?」
「私を何だと思ってるんですか…?」
「まぁ実際籠手でもいいとは思うけどな、飛ばねぇし」
「私を何だと思ってるんですか……?」
そう言われるとしばらく短剣で素振りもしてなかったので怖くなってしまったので、今日は素振りします!と宣言すると「ラッキー」と喜ばれた。なんだろう居たたまれない気持ちになる…
「初日だから感覚覚えてないかもしれないけどよ、短剣とどっちが使いやすかったんだ?」
「んー。リーチ長いと有利って言うのは分かるんですけど、力入れづらかったイメージありますあの木剣」
「お前…剣…」
「殴りますよ?」
「死ぬからやめてくれ」
短剣だとなんだか素振りというより前ならえして手を伸ばしてるだけな気がして妙に格好悪い気がする…
そしてしばらくして横から「なんでずっと両手で振ってんの?」と言われた。
「片手で振るとすっぽ抜けそうで…」
「人には向き不向きってのがあってな?」
慰められる方がダメージがでかい…
そんなこんなして移動をまた開始すると遠めだが街が見え始めた。
「ゲンボウさん!でかいです!」
「規模はまだ小さいほうなんだけどねぇ」
まだ?王国の方はもっとでかいのか、そうなるともう一日じゃ周りきれないくらいなんだろうな
私の勝手なイメージだけど大きすぎたら機能しなくなりそうな気がする。スマホがあるわけでもないし住民票があるわけでもないし、どうやって管理してるんだろ?
「まだ距離はあるから、ゆっくり行こうねぇ」
そういわれるともどかしい、目の前にあるのに…走ったら今日中に間に合いそうな気がするのに…ぐぬぬ。
とはいえせっかく乗せてもらっていってるわけだから我儘を抑えて夜になるとディズさんが真面目な顔をしていた。珍しいこともある。
「お前、まだ剣を振るのか?」
「またですか?」
「本当はこういうことをあまり言うべきでないのは分かるんだ…だがな俺は曲がりなりにも、本当に曲がりなりにもお前の師匠みたいなものだろ?」
最初は笑われて、途中からつまらなそうに私が避ける側になって飽きられまくった。昼には馬車から降ろされ走らされた…この日々を思い出す…
「いえ、ディズさんは師匠じゃないですよ?」
「あぁうん、俺もそう思う。まぁ聞け」
「はぁ…?」
「お前いくら持ってる?金」
「まさか受講料ってやつですか!?聞いてないですよ!この守銭奴!」
「ばかやろう。剣を使うにしてもその短剣じゃリーチ短いって話したろうが。言っておくが剣は高いぞ?」
なら何故木剣を振るわせたんだ!?それなら最初から短剣の練習をした方がよかったのでは…
「ちなみに…いくらですか…?」
「銀貨50はいくな、まともな剣ならな、お前のすっぽ抜けしないような剣なら金貨はいくだろうな」
修行とかよりバイト生活の始まりかなこれは。私としては不本意極まりないが仕方ないだろう。だって強くなるにはお金がないんだもん。
「どうせ働こうとしてるんだろうが、適当に働いても一日働いても夜通し働いても銀貨1枚くらいだろうな」
「最低賃金とかないんですか?この国腐ってますね」
「お前国家批判する発言はなるべく控えろよ…?人前では特に」
たしかゲンボウさんの話だと南西の名もなき村から北東に上がってきたけど、中央よりは西にあるから食費は比較的安いけど武具が高い?だったかな。あれ?逆だっけ?
一日一食にしたとしてまぁ銅貨70枚稼いだとしても65枚…金貨はえっと何日働けばいいんだ…?
「ちなみにお前が折った木剣銀貨35枚くらいな」
「スゥーーー」
ただの木が!銀貨!!いや待てよ…もしかして私に木剣を作る内職の提案でもしたいのかもしれない…!
「まぁ、ゲンボウさんは笑って許してくれたがな。お前とりあえずやっぱ籠手買っとけ、防具にもなるしすっぽ抜けて変な時に壊すこともないし」
「はい…ちなみにいくらですか…?」
「とりあえず銀貨50枚目指しとけ、俺の方で探しといてやるよ」
これはいよいよディズさんに足を向けて寝られないかもしれない、クッションにはなるし、お使いもしてくれるし、ゲンボウさんがディズさんを護衛にしてる意味が納得できるくらいに便利だ。いや有能だ。
「あれ?それまで私はどうやって稼げば?」
「ここくらい街の規模が出かければ組合で常駐の仕事があるだろうさ」
「はぁ…?まぁいいですが、組合って稼げないんですよね?」
「体力だけはあるんだから獣狩ってこいよ」
あれ、なんだか急に投げやり?スパルタ?な気がする。
それとも簡単な依頼ばっかりなのかな?
「師匠!了解であります!」
「師匠じゃねぇから」
こういう街とかになると門番が立ってたりするのかなってわくわくである街が近いからかディズさんも朝ゲンボウさんが起きた後は座ったまま眠ることなく起きていた。
正直寝ていたほうが座り心地安定するから寝ていて欲しいんだけど、まぁ仕方ないだろう。
期待していた門番はいなかったけど、外壁に見張りがいるらしく私たちの姿を見ていた。手を振ってみると笑われたけど振り返されたので結構暇なのかもしれない見張り。
給料いくらなんだろ…と思わなくもないが、まぁ実力があるから兵士してるんだろうしそこそこもらってるんだろうなぁ。
「リアラ嬢、私たちはしばらく街の中心近くにある宿屋に泊まるんだけどね。どうする?一緒の宿屋に泊まるかい?」
「いえ!高そうだし、それに色々お世話になってるので私冒険してみようと思います!」
ゲンボウさんはそれでも心配そうに「あぁ、でもなぁ」と言いながらおすすめの服屋さんとか教えてもらった。
「ゲンボウさんが言ったと思うから分かると思うが。まぁ、頑張って稼いで来いよ。ゆっくり探しといてやるからよ」
「ふふふ…私にかかれば明日には稼いじゃうかもしれないですから!」
「体は売るなよ…?病気とかなるらしいぞ」
「売りませんよ!」
そして手を振って、少ししんみりしつつも、大丈夫。
これから私は組合に行くのだから!冒険者になる!
あと宿屋についても考えはついてあるのだ。冒険者になると組合が運営してる宿屋が少し安くしてくれるらしい…知名度が上がればの話だが…しかし私は一日で銀貨を稼ぐ存在になる予定!
と、意気込んで歩いてると屋台とかで美味しそうな匂いに耐えて、アクセサリー屋さんにもしかしたら伝説の命を身代わりしてくれるもの無いかな?とか覗いたりしつつ、組合がある方向へ真っすぐと進む!
ボランティア団体みたいな話を聞いてたけど、意外と綺麗な外観に、まぁ木造だけど、驚きながらも扉を開けると!臭かった!
なんだこれ鼻が曲がる…街に住んでるんだから水浴びくらいしろよと言いたくなる…カビ生えてません?誰か
移動してた私たちも水浴びとはいかないけど水で濡らした布で体を拭いてたがそれすらしてないのでは…?
鼻を抑えてカウンターに着くと受付の人が笑っていた。
「ようこそ、冒険者組合へ。臭いのは慣れますよ、革素材の防具の方々が多いですからね」
カビてる防具付けてたのかこいつら、そりゃ臭い。ディズさんに革製お断りしとかなきゃ。
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