第7話 外と情報2

 ゲンボウさんの話は充実できる内容だった…とはいえ私がダンジョンに潜るかとなったら話は別なわけで…むしろ、いつダンジョンが意思を持って口内の餌を捕食するか怖くなってしまう。


 そうしているとお昼になり。ディズさんが手綱を引く順番になって。ゲンボウさんは荷台側へ行き、私はゲンボウさんの座っていた場所に座る。


 ゴトゴト…ゴトゴト…ゴトゴ、お尻がががが!痛い!

 私が痛いなぁと思ってると隣で私が変な顔してたからか笑っていた。


「痛てぇだろ?感謝しろよ、半日は俺が負担してやったんだから」

「むぅ…」

「その上さらにゲンボウさんに座ってみろ?あの細っこい体へし折れちまうぞ」


 だから朝ゲンボウさんはあんな風に言ってたのか。というか恥ずかしいとかよりもディズさんて座り心地良かったんだなぁと思うと拝んでしまう。

 拝むとそれはそれで「なんだそりゃ」と明るく笑われてしまった。


「ゲンボウさんから色々聞きましたけど。ディズさんもダンジョンとか行ったんですか?」

「あぁ、16人くらいだったかな。半分死んだところで。三日くらいか?それで諦めたな」


 三日で8人死んだのか。


「それって…」

「実力者だよ。俺はまぁむしろ弱かったが、その内4人は有名な冒険者でな。3人は死んだが、あいつも諦めたんじゃねぇかな」

「そっか。えっと…」

「まぁ、そういうもんだからな冒険者ってのは」


 覚悟を決めて、命を懸けて挑む、ただ何が手に入るかは分からない、もしかしたら金銀財宝を手に入れるかもしれないし、何も残せず食べられて終わるか…


「行くのか?」

「んーん。聞いてみただけです」

「お前ならそうだろうよ。ダンジョンに行くのは馬鹿なやつだ。夢を見た馬鹿が夢を掴めるかどうかの所だから賢いやつは普通は行かねぇ」


 ちょこちょこ賢いって私のことを言われてるけど、別に賢いわけではないのだが…

 過大評価されても。もし、どうしようもなくなったら私も覚悟とやらを決めて挑みに行く可能性もあるわけだし…


「あ、ディズさんに聞きたかったんだった。ディズさんはというか冒険者組合は地図ってどんななんです?」

「期待すんな」

「はい」

「おう」

「ん?え、それだけですか…?」

「ゲンボウさんからある程度聞いたんだろ?組合にいるやつらはそれぞれが勝手にしてるような連中だ、つまりギルドみたいに纏められてないんだよ」


 纏める人がいない。いないから地図もそれぞれ独自の作り方で作って暗号化されてる…暗号だらけでもはや解読できる人が本人くらいしかいないくらいに…


「それっぽいものとかないんですか…?」

「それっぽいってなんだよ…あぁ、ダンジョンマップなら組合が売ってるぞ」


 またダンジョン!私に行けってか!冒険者イコールダンジョンてか!殺す気か!


「顔で怒りが分かるが…組合に期待はすんな。依頼だって魔物討伐くらいしかないし。あぁ素材採取ならあるか?」

「おぉ!薬草とかですか?」

「よく分かったな。とは言っても秘境の薬草採りに行けとか馬鹿な依頼か。魔物の素材とかだからむしろ単純な魔物討伐の方が楽だがな!いちいち素材のこと考えて討伐しねぇって話だ」


 ロマンが朽ち果ててる…いや、むしろ薬草とかロマンを行き過ぎてロマンじゃなくなってるって感じかな…

 冒険者なるのやめようかな。でもまぁ誰でも入れるらしいし、入るだけ入ってみようとは思うんだけどさ、それにしたってほぼ死ぬしか想像できない。


「あぁ…てことはディズさんの昔話は嘘ばっかりだったんですね…魔物の大群とか…」

「ばかやろう。本当だぞ?まぁ、そういう経験は1度や2度。5回も6回も経験して生きてたら英雄だろうな」


 親しい雰囲気をゲンボウさんとディズさんは出していたし、それこそ信頼関係があるってことだから相当な実力者なんだろうけど、私が思い描く冒険者はクリフさんだ。

 目が追い付かない速度で狼を切り捨て二匹同時でも一瞬で切り捨てるあの姿。


「ねぇ、ディズさん」

「どうした?」

「もしも狼が挟み込んで同時に攻撃して来たらディズさんはどんなふうに倒すの?」

「そもそも挟み込まれないように動く」

「もしもの話しです!」

「あー。片腕持っていかれる覚悟で挑むだろうな」


 …片腕持っていかれる覚悟があの人にあったのだろうか?近づかせもさせないまま首を見事に…


 いや待て。見逃してるぞ私…秘境じゃない…魔物の素材だ!魔物の素材のことを考えて討伐しないとディズさんは言っていた。普通に考えたらそれはそうだ。

 けど、クリフさんは?首だけを狙ったとしか思えない切り口で同時に討伐してみせたあの剣技。


「ディズさん狼ですよ?魔物じゃなくて」

「あのなぁ。魔獣じゃないからって獣なめすぎだばか」


 それってつまりクリフさんは英雄みたいに強くて、それでも尚。森から戻ってこなかったってことだ。

 落ち着け、私。


 それって、クリフさんはお金を残して私を置いて…いや、そんなはずない…じゃあ他には?

 英雄と呼ばれるような存在が負けてしまうような何かが森にあったってこと?


「ディズさん。召喚…って、なんですか?」

「相変わらず突拍子がねぇな。召喚てあれだろ、異界の何かを呼び出すとかいう…内容は知らん!」


 異界の何か?何かって何?って聞こうと思っても知らんと言われたら、実際知らないんだろう。ここで嘘ついても仕方ないし。なによりあとで私がほかの人にも聞く可能性もあるわけで…


 考えてもだめだ。置いて行かれた方がむしろマシと思えてしまう。英雄が倒せない化け物が存在して今もあの森にいると考えたら、もうどうしようもないじゃないか。

 クリフさんを助けにとか考えてたけどそれってかなり無謀なことなんじゃと思えて、ただそれでも


『生きてよかったって思えることしたいんだろ?』


 彼のあの言葉が今でも。助けてくれたあの時の安心感が今もずっと


「ディズさん。私、どうやったら強くなれますか?」

「どうしたよ急に…て、わけでもねぇか。そうだなぁ。魔物一匹倒すくらいなら真面目そうなお前のことだし2年くらいしたらかぁ?いや3年くらいは鍛えないとだろうな」


 何も鍛えてない私が2年や3年。いや周りの人は私のことを過大評価しすぎてる気がするし、もしかしたら5年くらいは必要なのかもしれない。

 そもそも魔物って言ったってピンキリのはずだ。それで一匹をようやく倒せる。


 私が最短でやっても2年や3年だとしても、その頃には彼が死んでいたとしたらもう骨くらいしか残ってない…いや、食べられてるような感じなら骨すら残ってないのかもしれない。


「私…生きたいです」

「あー。そうだな。俺も生きてぇ」

「生きてるって、ディズさんにとってなんですか?」

「お前…そんな難しいことばっか考えてんのか?そりゃあ美味い酒飲んで。良い女と一緒に過ごして。今はそんな相手いねぇけど?子供とか出来たりしたらか?」


 生きたい。私はそう生きたいんだ。

 ディズさんの言う通り、生きてればそれが叶う。そしたら私はいずれそれが幸せって思ってよかったって思えるかもしれない。生きたい。生きたい。


「なんで泣いてるのかは知らねぇけどよ。お前は今生きてるだろ?」


 そう、私は生きてる。生かされたんだ。あの人に。彼が危険かもしれないと知りながらも良かったと、それで生きてるといえるだろうか私は。


 前世…私は大人になって仕事をしていて、それで思ってたはずだ。後悔したなぁと。やり直したいなぁと。それでもなぁなぁで生きて、それを私はあの夜、心の奥底で思ってたことを叫んだはずなんだ。


 生きてよかったって思えることが出来なかったと。


「わだじは…づよぐ、なりだいです」

「死に急ぐことは生きてるとは言わないと思うぞ?」

「怖い…死ぬのが…怖い…でも生きてるって、それを私が思えない…」


 そうだ思えないんだ。あの村で必死に生きることだけ考えた結果。私は何を思ってた?


(クリフさんが帰ってきたら町へ行くこと)

(レスタさんと一緒にいたら生きられるのかな?)

(クリフさんが帰ってくるまでの間)


 そんな風に思ってた。ずっと、何かをするでもなく。

 もしあの時。森に入ってれば私は死んでたろうし、もしクリフさんが危ないとわかってても止められないだろう。強くありたいと思っていた彼は少なくとも、私の思い描く冒険者だった。


 危険を危険と知りながら、何があるかもわからない魔物かもわからないような存在に向かって、依頼だからと言って、帰ってもよかったはずだ。

 だって彼はとても馬鹿とは思えない、私が聞いたディズさんの冒険者のような話とは違っている。


 知りたい。もっと私のこの世界で初めて出会った彼のことを知りたい。


「ぐすっ…ディスさん…」

「泣き止んだか?」

「1年以内に強くなれる方法ありますか…?」

「ばかやろう。俺に分かると思うか?」


 そりゃそうだ。ディズさんはあくまで普通の冒険者なのだ。それでも私のことを考えて2年3年と言ってくれた。


「英雄のお話を聞きたいです」

「あー…俺の知ってるやつでいいか?」

「はい!」

「先に言っておくけど。本当かどうかわかんねぇぞ?俺はあんまりこういうの信じねぇんだけどなぁ…はぁ」


 それからディズさんから聞いたのは、おとぎ話のような話だった。

 前世ならそれこそおとぎ話で済むと思う。けど私は今異世界にいるのだからもしかしたらと思い真剣に聞く…聞くのだが…



 かつて勇者がいた。勇者は魔物の王を討つべく異界より現れ栄誉、名誉、すべてを手に入れて見せた。

 かつて英雄がいた。あらゆる武器を扱い何者も傷を付けさせることなく魔物を屠り、ダンジョンより金銀財宝を得て秘境にて暮らす。

 かつて魔女がいた。遥か西の大陸をすべて燃やし尽くした魔導を極めし者、それは天候を自在に変える災厄とも呼べた存在。

 かつて魔物がいた。魔物は人を愛した。故に、人になろうとした。魔人へと変異しそして様々な知識を持って人の元へ向かいその魔人は今も人間たちと一緒に過ごしているという。


 かつて英雄がいた…魔物を喰らい人を喰らい、魔物の脅威を、戦争の脅威を無くし…


「すとーっぷ!」

「んだよ…」

「ゲンボウさんの話的に戦争おわってないんですよね!?」

「だから言ったろ…ほとんど真実かもわかんねぇ話って」


 そうだけど…!というか最後のやつ途中で止めたけど、そいつ魔王じゃないの!?人間食べちゃってるし!


 なんか子供に聞かせるおとぎ話にしか聞こえないものばかりだった。


「普通はこういう物語に憧れて強くなろうってやつばっかなんだよ。お前はすぐに嘘と思える点があるんだろ?」

「いやいや、勇者が異界から現れるってそれこそ召喚じゃないですか。あらゆる武器もなんでいろんな武器わざわざ使うんですか多くても3種類くらいでいいじゃないですか。魔物に関してはホラー話ですよね?悪い子がいたら魔人が来ちゃうよ的な感じですか!?」

「おー。だいたい正解だと思うぞ?」


 なんなんだもう。


「魔女の話がお気に召したみたいだな」

「魔導?に関して詳しくないですから…」

「西の大陸をすべて燃やしたってところは嘘だな。実際西の大陸は船を使えば行けるらしいし今でも交易してるらしい…ってゲンボウさんが言ってた…」


 むぅ?話が肥大化して伝わってるだけで、魔法、いや魔導か。何かできるみたいな言い方?


「魔導ってなんですか?」

「聞かれると思った。だが俺は知らんし、ゲンボウさんに聞いても知らんだろう。地図と同じって言ったら分かるだろ」

「国家機密ってやつですか」


 つまり国がなにか魔導について知ってる?魔導に関しては何とも言えないけど私の知ってるものだと呪文を唱えたら火の玉が出たりとかだけど


「ヒントみたいなのないんですか?」

「俺を何だと思ってるんだ…?」


 仮に最短を行くなら国家冒険者になって国家機密を知るみたいなことだろうか?

 貴族になるっていうのも養子になるとかならいけないだろうか?


「言っとくが強くなるうんぬんだの、俺にはもう分からんからな。とりあえず剣術から覚えたらどうだ?」


 堅実だ。それもある意味最短なのかもしれない、私が英雄のように強くなれるかは怪しいという点を除けば。

 そもそもおとぎ話を聞いても実際に今も生きてるかもわからないし。いや魔人さんだけはこっそり暮らしてるんだっけ?それだってどこに住んでるかも分からない。


「魔導がもし使えたらなぁ…」

「おー。燃やすんじゃねぇぞー」


 それでも諦めるわけにはいかないんだ。生きたいから。


「ま。難しく考えろ、俺には無理だ。けど変な奴ほど強いって言うのは冒険者の中では常識なんだぜ」


 遠回しに私のことを変な奴扱いしてるってことだろうか、むしろ変な奴でいいから秘訣を教えてほしいものである。


「その変な人ってどこにいるんです?」

「真剣に聞くなよ…でもまぁ、残念だったな。その変な奴はほとんどダンジョン狂いだよ」

「そんなに私にダンジョンに行って欲しいんですね」

「誰も言ってねぇだろそんなこと」


 一つの選択肢だ、あくまで。

 それでも今のまま行けば私はすぐに死んでしまうだろう。相手は今から年単位でようやく一体倒せるかどうかの魔物様なのだから。


 出来ることはあったはずだってもう思いたくない。言いたくない。


「ディズさん、とりあえず野宿の時に稽古つけてくれませんか?」

「ゲンボウさんが許可くれたら考えてやろう、俺は護衛依頼してる雇われだからな」


 さいあく土下座してゲンボウさんに頼むしかない。夢物語を現実にするために私は生きたいから。


「ふふふ、このお尻の痛みを糧に頼みつくして見せます」

「お前すげぇ格好悪いこと言ってるってわかってる?」

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