第6話 外と情報1
村長には夜明け前に出発することは昨日のうちに伝えた。
レスタさんには挨拶してないけど。挨拶をしたらしたで私の方がもしかしたら泣いてしまうかもしれない。短いけど長く感じたほとんどの時間をレスタさんと過ごしたからこそ。村長は最初よりは印象良いけど、まだ邪魔者扱いしてそうな気がしてたから気にしてない。
木製の窓を開けて外を見るとまだ暗く、夜明け前にちゃんと起きれた。
じ、実はあまり深く眠れなかっただけなのだけど緊張しすぎて…それはそれとして!
もしかしたら村長が起きるかもしれないからゆっくりと扉を開けて外に向かう。
玄関を開けたら村長がいた…なぜ?
「不思議そうな顔してるが、商人が寝泊まりしてるのはこの家なんだから送迎のために起きててもおかしくしくないからな?」
「はっ!?たしかに!」
「むしろリアラ。お前がもう少し寝てたら起こしにいくくらいはしてやったわ」
それは、嬉しいような。むしろちゃんと起きたことで起こされなくて良かったというか。
「てか!え、村長さんがもうここにいるってことは商人さんもう準備できてるんですか?」
「起きちゃいるが。まぁ。行けば分かる。リアラ気を付けて行ってこいよ」
妙にこそばゆい感覚だ。この人からこんな風に言われるなんて。
私が邪険にしすぎてただけでずっと心配とかしてくれてたのかなとか色々思ってしまう。
「村長さん、お世話になりました!クリフさんが戻ってきたら、もしかしたら冒険者になってるって伝えておいてください!」
「冒険者…か…分かった。伝えておくよ」
手を振って村の入り口に向かうと馬に何かしてる商人と話し込んでるディズさんがいた。
このまま行っても芸がないだろうか?しかし商人さんとは別に仲良くないわけだし。ここは普通に向かうべきか…いやしばらくはお世話になるわけだし少しくらいドッキリみたいに現れてもいいかも?
そう思うとちょっと遠回りして家の裏手から近づこうとしたらディズさんが手を振ってきた。
全然ばれてる…
「リアラちゃんだよ!」
「ぶはっ。なんだそりゃ」
「リアラ嬢はどうしてわざわざ村長宅から反対側へ?」
ディズさんには受けたが、商人がマジレスしてきてちょっと心が痛い。
「あー。せっかくだから二人を驚かそうかなって…てかディズさん!私が現れたこと驚いてない!」
ネタ晴らしすると商人は「お茶目ですなぁ」とうんうん頷いて納得していた。
「そりゃゲンボウさんからさっき聞いたからな」
「ゲンボウ?」
商人さんがコホンとわざとらしい咳ばらいをして、一礼して見せる。
「ゲンボウと申します。この度は姫のお供として、ほんの少しばかり行商を嗜もうと思う所存です」
「あ、改めまして!リアラと言います!あのできれば似合わないというか。その、普通に接してくださいね!?」
ディズさんは笑っていたけど、ゲンボウさんは肩をすくんでみせて少し悲しそうにしてた。ごめんなさいとは思うけどわりと本当に似合ってない。
「そうかい。それじゃあ普通に接するけども、リアラ嬢の荷物はそのシャツと短剣だけなのかい?」
「はい!そうですよ」
「お前…良かったな。さすがにゲンボウさんくらいの相手だったからまぁ食事とか出してもらえるけど。ついて行きたいってだけなら護衛でもなけりゃ食料でないぞ?」
まじか。いや、きっと、ほら。村長はそれも踏まえて私にこの人について行けって言ったのかもしれないし…まぁ。お金払って乗せてもらうって段階で少しはそれを考えておくべきだったのは事実で…
「リアラ嬢に色々教えてほしいと頼まれたのもあるから大丈夫だよ。ゆっくり学んでいけばいいさ。最初の旅なんてそんなものだよ」
太っ腹というか、実際はやせ細ってるのに心が太っ腹だ。
できる限り手伝えることは手伝わないと。お世話になりっぱなしになってしまいそうだ。
早速なにかできることないかなって思ったけど、特になさそうではある。
「おいリアラ。お前は荷台の方に乗るのと、俺たちに挟まれて御者台に乗るのどっちがいい?」
「え。あぁ…どっちだろ?」
「まぁ。お前は軽そうだから膝の上に乗ってもいいかもな」
それはなんというか申し訳なさすぎる気がしてならない。
「あ、ディズ君。私の膝は乗せれないからね?折れちゃうから」
「そこまで重たくないですよ!?」
思わず突っ込んでしまったけど。ゲンボウさんは「そういう意味じゃないんだけどな」って笑っていた
じゃあどういう意味だろ?って思ったけどディズさんが私を急に抱きかかえ御者台にスッと座って見せた。
できれば恥ずかしいので次からは前もって言って欲しい…
「ゲンボウさんそろそろ行く時間だぜ?」
「そうかい?それじゃあ、行こうかねぇ。最初は私がやるよ」
「昼になったら交代だな。了解」
そう言うと馬を歩かせ始めて進んでいく。
ふと後ろを見ると。味方が全くいなかったと思っていたこの村から出て行くんだと実感して寂しい気持ちが胸を締め付けるが、前を向いて。また戻るからと誰に言い聞かせるわけでもなく思う。
そう、護衛を連れて来るのか。はたまた自分が強くなれるのか。何もわからないけど、クリフさんをいつか探しに戻ってこようと思い馳せた。
ゴトゴト…ゴトゴト…あれ?もしかしなくても暇?
抱えられてるため上を見上げてディズさんの方を見ると目をつぶって眠ってるっぽいし
護衛?として眠ってていいのかなとも思ったけど
「リアラ嬢は寂しいのかな?」
「え?そんなことないですけど。そう見えました?」
「冗談だよ。そうだなぁ、暇だから話し相手を探してたってところかな?」
図星である。というかそんな私はソワソワと挙動不審だったのだろうか。
「私に話してかけてくれてもいいんだけどねぇ。ディズ君の話だとかなりのお話好きと聞いていたよ」
「あはは。なんかゲンボウさんて商人!てイメージが強くて…」
「なんだいそれは?」
おどけてみせるとゲンボウさんは苦笑している。
前世でそんなお店の人と話すとか、取引先の人と話すにしても丁寧に接しないといけないというイメージからかどうにも苦手意識のようなものが出てたのかもしれない。
今思えばこの世界の村長は別に重職ってわけでもないのだろうし。私もそんなに畏まってたわけではないからもう少しラフな接し方がいいのかもしれない。
「リアラ嬢は、素の話し方がそれなのかい?」
「それ、ですか?」
「そんな風に丁寧に話されるとね、私とかもそうだけど大抵の人は畏まるものさ。ましてリアラ嬢は見た目と服装がちぐはぐで、年齢と話す内容もちぐはぐだからね」
なんだそれは。ちぐはぐ言われまくってちょっと混乱するけど、それってつまり私は普通ではないって言ってるのかな?
「えと。目上の人にはきちんと喋らなきゃと思います?」
「ははは。私が目上だなんて上級国民にでもなれた気分だよ。リアラ嬢は私が貴族に見えるのかい?」
「いえ…」
きっと私の常識が、前世の常識とあまりにもかけ離れてるってことなのだろうと思う。言えないけど。
「リアラ嬢はもしかしたらお忍びで…なんてことも考えたけど、村長から聞いた話ではそうでもないようだし記憶も失ってると聞いてる。もし本当に貴族だったかもしれないとしても。しばらくは忘れて子供らしく振舞った方がこの先もっと楽になると思うよ」
「子供らしく…」
私はあの村の子供くらいしか子供らしい子供を見たことはないけど。もしかして150cmくらいの身長の大人って少ないのだろうか?
だとしたらあの村にいた時の私は大人ぶる子供?に見えたような感じなのかな。
「きっと記憶が戻ったらそのあたりも分かるようになってくるさ。だからそれまでは、ね?」
そこはごめんなさい。記憶が戻るとか多分ない?と思います…いやでも私のこの体の持ち主の記憶が蘇るとか…?はあるかもしれないと思いつつも、これまでそんな気配は別になかったしたぶんないだろう。
それからはゲンボウさんと子供らしいという言葉の練習をしてみたり。
ついでに貨幣価値についても聞いてみたら日本円換算とか本で読んだことあるけど換算するには複雑すぎて分からなかった。
地域によって簡単に価値が変わるらしい。一応、銅貨、銀貨、金貨はこの大陸では共通貨幣らしいのだけど東に行けば物価が食料が高かったり西へ行けば食料は安くても武具などが高かったり。だからこそ商人は生きていけると説明してくれた。
とはいえそこまで長距離を移動するのは日数的に厳しいからどうしても中央にあるグレイヘル王国という王国と行き来するのが大抵の商人らしい。
ちなみにこの辺境と言われるところは名もなき村であり、王国から南西に位置するらしい。
地図とかあれば便利なのだけど、地図は国家間で敵国に流通する可能性があるため一般人が所持するのは禁止らしい。
では冒険者はどうなのか?と思ったら。冒険者はある程度知名度が高くなったら爵位を与えられこの冒険者はこの国の者であると国から国家冒険者扱いされるらしい。なんだそりゃ?である。
そんな不自由な生活になるのを冒険者が受け入れるのか不思議だったけど、実際になる人は少ないのだとか。
「それって結局地図は誰も持てないってことですか?」
「んー。地図だと分からないものを持ってると言ったら分かるかな?」
「分からないもの…?」
コンパスとかだろうか?いやコンパスは方角とかは分かるけど地図ではない。とはいっても地図と分からないけれど地図…なぞなぞ?
「例えばリアラ嬢は貨幣価値を聞いたときにリアラ嬢は物価が違うといえばすぐに伝わったよね?それなら羊皮紙でも布でも何でもいい、東に銅貨3西に銀貨1と書けばそれは地図かなぁ?」
「むぅ?いえ。地図ではないです…」
「その銅貨が東に銅貨、つまりは三日かかる日数に村があるとしたら?」
それは…暗号ってことか!
ということは銅貨で三日だとしたら銀貨なら?
「西に1月かかる日数…」
「ふふふ。まぁ。これは商人が使ってる地図だけれどね」
「それ、私に教えていいんです…?」
「はっはっは。そもそもその地図を手に入れることが難しいからね」
それは…まぁ確かに…でもそうか、地図を暗号として所持してるのかほとんどの人は。
そうなってくるとこの大陸に関して詳しくなろうと思ってもどっちの方角に何があるか人に聞いて確認しなければいけないし。商人の重要性がかなり大きい…いや、貴族もか。王国関係者は地図の所持を認められているならそれは一般人からしたら神の視点を持たれてるようなものだ。
「それって冒険者ギルドの人達も地図ではない地図があったりするんですか?」
「ん?ギルド?えっとねぇ、まずギルドというと主に商人ギルドのことを指す言葉だね。そして冒険者組合に関しては私は所属してないからそれはディズ君の方が詳しいんじゃないかなぁ」
むぅ?ギルドは商人ギルドを指すということはギルドで伝わらないのか。ちゃんと組合って覚えておかなければ…というかそうなると冒険者組合のボスみたいな人は組合マスターみたいに呼ばれてるのかな?
ギルマスって言葉のイメージが強かった…
「どうしてギルドは商人ギルドなんですか?」
「商業に関すること全般をそう統括して言うから…と言っても難しいかな?例えば錬金術師は知ってるかな?」
石を金にしたり、もしくはでかい鍋をぐるぐるかき回したり?
「えと。物を変換?する人のことですか?」
「まぁ。私もそんなに詳しくないからねぇ。そのイメージで良いよ思うよ。有名なのはポーションを作ってる人って感じかな」
たしかポーションてディズさんの昔話、本当かどうかわからないけど名前が出てきた。遅効性の薬
「ほかにも鍛冶師とかかねぇ。そういう人は商人と言えるかい?」
「職人…?というかその人達からゲンボウさん達は買うんじゃないんですか?」
「ははは。さすがに彼らも私たちだけを相手にしてたら儲からないからね。そういう人達も含めているからギルドとして統括されてるのさ」
まぁ。言いたいことの筋は確かに通ってる…職人ではあるけど彼らはそれをお店に来た人に売る。立派な商売だ。職人、商人、いろんな人が混ざり合ってるからギルド…なるほど。
「それじゃあ冒険者も色んな人が絡み合ってたりはしないんですか?冒険者だけど商人みたいな?」
「組合はあくまで慈善団体みたいな感じだからねぇ。ギルドに入るにはそれなりの審査があるけど組合にはそういうのは無く誰でも入れる。ただ知名度を上げないと個人ではやっていけないしねぇ」
そういえばクリフさんが冒険者はなんか厳しいみたいなこと言ってた気がする…
誰でもなれて、しかもやってることはある意味で何でも屋。魔物を倒してもアイテムがドロップするとかそういうのがあればなぁ…
「じゃあダンジョンとかないんですか?」
「あるよ?ははは。リアラ嬢は面白いね。知らないことばかりなのに知ってることは知ってる」
笑ってる場合じゃないよ!ダンジョンあるんだ!?いや…待てよ、このパターンだとどうせ古代遺跡でアーティファクトがあれば一攫千金とかそういう意味のダンジョンかもしれない…「
「えと。ダンジョンてあれですよ?魔物がいっぱいいて、魔物を倒すと何か落としたり。宝箱があったりとかですか?」
「そうだよぉ?」
あれー?ここでまさかのふぁんたじぃ!
「あの。えと。じゃあみんなダンジョンに行くんじゃ?というかなんでそんな不思議なものが?」
「あー。そうだねぇ。まずダンジョンでは死体が残らない、誰にも死んだことが伝わらないんだ。夢を追い求めて後世に何も伝わらないなんてリスクを選ぶのはそう多くはないんだよねぇ。いや、いたかもしれない…かなぁ?いたけれどダンジョンに飲み込まれて消えていった」
それでもハイリスクハイリターンならって…あれ、もしかしてこれってギャンブル脳ってやつ?
「それとダンジョンは不思議なことばかりでもないんだよねぇ。リアラ嬢は魔力って知ってるかなぁ?」
魔力、魔力を放出する生き物が人とか動物でいられて、放出できずに魔石という病気みたいなものを患ったものを魔物と呼ぶ…でも私は体から魔力を無意識に放出してるとクリフさんは言ってくれた。
これも不思議パワーみたいなものが私には秘められている的な…いや、話が脱線してるかもしれない。
「魔力のことはわかりません。けど生き物は魔力を秘めてる?みたいなことは聞きました放出してるとか」
「私も専門家ではないからそこらへんはわかんないかなぁ。ごめんね。ただそこまで知ってるなら魔物については分かるよねぇ?ダンジョンて言うのは魔物なんだよ。口を大きく開けた獲物を待つ魔物」
食虫植物ならぬ肉食岩壁?みたいな。ということはダンジョンコアとかみたいなものは無いのかぁ…いや…いや違うあるんだ。生き物なんだからダンジョンコアという心臓が、どのあたりに脳があって知性があるかは分からないけど
「ダンジョンていうのは変わってるよねぇ。魔物ではなく人族を食べたいからって餌をちらつかせてるんだから」
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