第4話 不安と焦燥

 一日目。


 簡素なベッドで特に何をするでもなく過ごしていた。

 食事に関しては不味いとしか感想が湧かない。


 なんだろう。固めのパンとか想像してたけど、そうではなく。ドロッとした味のしないようなものと味の非常に薄いスープ。これならまだ生で野菜を食べたほうがいいんじゃないのかというような。


 この世界の食事がこれなのか、それともこの村がそうなのかはわからないけど村長も同じものを食べていたから、この村では普通なのだろう。


 村長とは話そうとはしたけど、特に話題が盛り上がることはなかった。


「村長は普段はどんなことしてるんですか?」

「なぜそんなことを聞くんだ?」


 終わりである。


「この村は何か特産とかあるんですか?」

「こんな辺境にあると思うのか?」


 終わりである。


 なんだろう。最初に会った人がクリフさんだったからなのか、人間への期待値が高かったのも相まって非常に心細く感じた。


 村を歩き回ってもいいか?と聞くと「かまわん」と許可をもらったので村を歩いてみると、私が150cmくらいだとしたらそれよりも小さい子が農業をしてたり。おじさんおばさんも農場してたり。何を育ててるんだろう?と思ったら、大根?みたいなものでこれがどうやら食事に出ていたドロッとしていたものらしい。


 わたしからしたら他の作物を育てないの?って思っても、そんなに詳しくないし。もしかしたら種が買えなくて失礼になるかもしれないから特に口を挟まないでおいた。


 村長だけが冷たい対応するのかなって思ったら、ほかの村人もわたしが近づくと塩対応であるし。子供に近づけば顕著にそれが出て嫌な顔丸出しで


「お前働かねぇの?」


 なんていう風に言われた…まぁ。子供から見たら急に村長の家に泊まりだした無職だもんね。仕方ない。


 早くクリフさん帰ってこないかなぁって村長の客室に戻ってごろごろすることにした。


 夜にはお風呂に入りたかったけど。そんなものあるわけもなく、少し離れたところに川があるからそこで水浴びするくらいらしい。


 もちろん行くなら自己責任である。


 とはいえ、村人たちが週に2度くらい行くことがあるらしいからその時に行けばいいとのこと。

 ちょうど明日らしい。そこでふと着替えがないことを伝えると今度は露骨に嫌な顔をされて村長がシャツとズボンと下着をくれた。ちなみに女性物である。

 なぜ女性物を持ってるのかな?って思ったら村長に聞ける雰囲気でもないし、ただそういう趣味…じゃないよなぁ…多分亡くなった奥さんとか子供がいたのかもしれない。申し訳ない気分だ。そりゃ嫌な顔もされる。




 二日目。


 水浴びにいつ行くのかとか時間の概念がよくわからないので朝食?のときに聞いてみると太陽が真上に来たときらしいので、わくわくして着替えを持って村の真ん中にいると人が少しずつ集まってきた。


「お前まだいたのかよ」


 昨日悪態ついてた子供が何か言ってたけど、嫌そうな態度を取られて気持ちのいいものではないし無視することにした。


 ある程度集まると20人くらいかな?子供も合わせて、と言ってもまぁ子供の数は4人くらいだが。

 この村規模が小さいのか私が適当に数える限り50~70人くらいだろうか。近所づきあいとか大変だろうし、ほとんど土地は農場だから人手足りないんだろうなぁって思う。


 それなら子供がわたしに悪態つくのも仕方ないのかもしれない…許すとは言ってないが。


 移動はこれまた数時間くらい歩いて川について水浴びできる!と思ったら。先に飲み水を確保してからと言うので立ち止まっておばさんたち作業を手伝う。


 でかい木の桶持ってたから洗濯に使うのかと思ってたけど飲み水もここで補給してたのか…不便じゃないのだろうか?


 そのあとは水浴びだー!と思ったら。洗濯が始まったのでおばさんのを手伝うことにした。


「あんたの今着てる服も洗っちゃうから脱いじゃいなさい」


 恥じらいは捨てるべきでしょうか?

 躊躇っているとおばさんは仕方ないねぇとため息をしたあと脱ぎ始めました!わーお!漢気が!というかわたし的には別に眼福ではないけど同姓とはいえいいのか!というか後ろの方で男性陣もいるのだがいいのだろうか!


 郷に入りてはなんとやら…わたしもそれを見て脱いでおばさんと一緒に作業をする。洗濯と言っても川の水に漬けて布をこすり合わせるくらいだけど。

 絶対生地とか傷んでしまうよなぁって思う。


 しかしなんだかんだ母性というやつなのかおばさんは口調が荒いけど村長とかみたいに塩対応というわけではない。なんか訛りがある田舎にきておばちゃんに対応された気分になる。井戸端会議に混ぜられたみたいな。


 水浴びとはいえお風呂に入らないよりはましでスッキリしたあとはおばさんの水運びを手伝って少し仲良くなれた気がする。

 このままおばさんの農作業を手伝うのもありかなぁ?と思ったけど


「やり方分からないなら邪魔になるんだからお客さんはどんと村長ん家でゆっくりしとけばいいのよ」


 と追い返された。まぁ。邪魔になるなら仕方ないか!と開き直ってゴロゴロするけど、まじですること何もない…と暇になったので見るだけでも許可もらっておけばよかったかな?


 三日目。


 今日のいつ頃になるかはわからないけど、相変わらず不味いご飯を食べた後。することもないので木製窓を開けて外をぼーっと見てクリフさん早く帰ってこないかなぁと思ってたら


 夜になっても戻ることはなかった。


 四日目。


 もしかしたら何か問題が起きたのかもしれないし。魔物で怪我をしてるかもしれない…と不安な気持ちでいっぱいだったので朝食のころ合いなのか調理する音が聞こえたので居間に向かって村長に聞いてみる。


「村長さん。クリフさんのことですけど…」

「お前か。まぁ。期日通りにならんこともあるだろうよ。そのうち戻ってくるか別の冒険者が来るだろう」


 なんて言い方だろう。というか危険な魔物が出たからここまで来たんじゃないのかクリフさんは。やっぱりぞんざいな扱いにイラっとするけど、わたしの方が間違ってるんじゃと思うと口に出せない。


 なにより、クリフさんに頼まれたからわたしを置いてるこの人に反抗するようなことを言うのが怖いのだ。


 怖い。それでいいのかわたし。


 五日目。


 さすがに何かしないとだめだろう。森にクリフさんを探しに行く?こんな無力なわたしが行ったところで何の役にも立てないし、そもそも足手まといが出来たからクリフさんはわざわざ村に戻ってわたしを置いてもらうように頼んだのだろうし。


 とはいえ、このまま何もしないままだと村長もわたしを捨てようとするかもしれない、それくらいに冷めた関係性しか保たれてないのだ。


 わたしはとりあえず農場に行っておばさんを探す。


「まだいたのかよお前」


 子供の言葉は無視しておばさんを探すと見つけたので近づいておばさんに声をかける。


「あの。やっぱりわたしも手伝いたいです」

「あら…あの冒険者さんまだ戻ってきてなかったのね。でもあんたがいても仕方ないから」

「すぐ覚えます!」

「…まぁ。とりあえず種袋は、持ってないだろうから少し渡すから試しにやってみな」

「はい!」


 せめて何か役に立たないと。

 おばさんはたしか土の盛りの真ん中に一定間隔で植えてたから、その通りにすればいいはず…?


「ついでに土を混ぜるようにしてそのままもう一度同じような形に…いいかいあたしのもう一回見てやりな」

「はい…!」


 やり方をそのあとは丁寧に教えてもらえた。


 しばらくするとこれでいいのか種が無くなったら分けてもらいつつ作業を繰り返す。

 しかしやっぱり、あの不味い大根モドキを植えてるんだなぁって思うといくら食物が無いにしてもじゃがいもとかないのかな?なんて思う。


 同じ作物育てるのも土は大丈夫なのかっていうのはさいあく異世界で済ませるけど、それこそ美味しいものをなにか魔法で育てるとかできたらいいのに。


 夕方くらいになると終わって。おばさんと少し仲良くなれた気がしたのでどうしても気になったので聞いてみた。


「どうしてこの白い作物ばっかり育てるんですか?」

「都会の方にでも住んでたんだろうねあんたは。収穫が早く栄養になるからこれを植えて食べるのさ、都会の方は商業が盛んだろうから色んなもの食べれるんだろうけどね」


 なるほど。収穫日が早いからこれなのか。


「ほかにも保存できる作物とか育てないんですか?冬とか厳しくないですか?」

「このスライムラディッシュは冬でも育つのよ」


 スライムラディッシュって言うのか!スライムがまさかこんなところにいるとは想像もしてなかった衝撃。

 ていうか冬でも育つってやばいな。不味いけどそんな有用なものだったなんて。


「冬の農作業、大変じゃないんですか…?」

「冬だとこれが美味くなるからむしろみんな張り切るだろうね」


 まずいと思ってたべてたんだやっぱり。


 そんな風にやり取りして村長の家に戻って食事はスライムラディッシュと野菜の端切れスープを食べて客室に行って眠る。


 あぁ…今日もクリフさんは帰ってこなかった…


 六日目。


 わたしは冒険者がどういうものかわからない。


 分からないけれど、クリフさんが約束した日程を三日過ぎて一度も戻らないってことはわたしにとても優しくしてくれた感じ、捨てられたとは思えない。


 思えないからこそ最悪の想像しかできない。


 魔物との戦いで死んだんだきっと。


 わたしはこれからを考えないといけない…このまま村に置いてもらうことはおばさんにお願いすればもしかしたら可能かもしれない。

 村の人達は基本的には冷たいけど、あの人だけは優しくしてくれる。


 村を出るにしても、住むにしても。わたしの存在はそれほどか細い糸でぶら下がってる状態だろう。

 できる限り村から出る方向で考えて、村長が朝食の時間を伝えに来てくれたので朝食を食べていると


「あぁ、お前なんて名前だったか?」


 珍しく村長の方から話しかけてきた。


「リアラです」

「そうか…良い名前だな」

「ありがとうございます?」

「三日後かそのあたりに。行商人がここに来る」

「はぁ…?」

「リアラお前はこの村に住むつもりはあるのか?昨日作物を手伝ってたろ?それとも村から出るつもりか?」


 本当に珍しい。どうしてこの話題になるのだろうと思いつつ、さすがに言葉に詰まる。

 わたし一人では生きていくには何の知識もないし。ただ生きていくだけならこの村で過ごさせてもらえるなら生きてはいける。


「クリフ殿から預かった金がある」


 そう言ってわたしの前に出したのはたしか以前クリフさんが村長に渡してたものだ。


「これを。まぁ銅貨10枚くらい渡せば商人に乗せてもらうくらいはできるだろう」

「えっと…そのお金はわたしを預かる宿泊費ですよね…?」

「いや、何かあった時リアラ。お前に渡して旅立たせるためのものだろう。そもそもこの村は農作物ばかりで金のやりとりをしとらん。行商人とも物々交換だ」


 それってクリフさんもしかして…最初からそういう意味で渡したってことだろうか。


「金の価値はそんな詳しくないから行商人に聞け。クリフ殿も帰ってこないならお前の人生だ好きに生きろ」

「まだ帰ってこないとは!」

「お前に懐かれても困るから村の者にも伝えていたが、クリフ殿が戻ってきたら旅立つのに感傷的にならんように声をかけていた」


 限らない…ん?どういうことだ。

 感傷的?


「レスタんところのばばぁが言っとったよ。賢い子だって。だから別に懐くとかそういうのはないと、まぁ。それでもここで暮らすのは村長してる手前言えることではないが。やめた方がいい」

「えと…なんでですか?」

「なにもないからだ。故郷がこの村とか、隠居するとかでもない限り。なによりこの村は安全とは言い難いところにある。賢いなら分かるだろう?」


 待て待て、追いつかない。それってつまり、いや順番立てて考えろ。

 まずわたしに冷たくしてたのはクリフさんと一緒に旅立つとき感傷的にならないよう?それを思ってやったとしてもわたしが子供相手だとしてもやりすぎだろう、とは思う…本音が仮に邪魔と言わないように配慮してやったのかもしれない。

 少なくとも質問をたくさんしたときは露骨に嫌な雰囲気になってた。


 村の人もわたしに思うところはあったとしても、邪魔そうにしてたし子供に限っては口にも顔にも出してた。唯一優しくしてくれそうだったのはおばさんくらいで…


 あぁ、そうだわたしは。助けてくれる存在に依存してしまいそうになってる何度も…クリフさん…レスタというらしいおばさん…そういうことなのだろう…

 三日あたりと言ってたな…おばさんでも誰でもいい、それまでに情報収集を少しでもしよう。

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