第3話 安心

 この世界には朝があったのだ!!

 なんて思って見たものの。まぁ朝がなければ太陽系としてこの惑星の気温は…なんて考えてももしかしたら太陽とかなくても異世界なら魔法でなんとかするのかな?なんて思ってしまう。情緒はないが。


「なんか朝から元気だな」


 そう笑って私が朝日が木から出ているのに感動して飛び上がってたら言われてしまった。ちょっと恥ずかしいが、仕方ない。夜があまりにも恐ろしい印象しかなかったのだ。

 せめて月明かりがもっとあるならまだしも森の中だと、うす暗いし。それよりは木漏れ日のような明かりは喜ばないと損と言うくらいに嬉しい。


「暗くない!こわくない!」


 そう言うと。少し困った顔をしたが苦笑しつつ。


「明るくても魔物が出るかもしれないから注意が必要だからな」


 忘れてたとは言わない…


「クリフさん。魔物って明るいほうが活発なんですか?」

「んー、生態によるんじゃないかな?少なくとも俺が相手してきたのは昼行性の魔物が多いかな?夜行性の魔物もいるにはいるが、そういうのは『せいしょくしゃ』の仕事だろうな」


 性職者…!いや冗談である。聖職者だろう。

 しかしプリースト?とか神官のことだろうか?となるとゾンビとかスケルトンとかいるのかもしれない。けどあれらって睡眠て言う概念ないのでは?夜行性といえるのだろうか。


「じゃあ夜の方が安全?」

「獣はどうしてもいるからな。そうなってくると明るいほうが安全だよ。視野も確保できるしね」


 たしかに!狼に襲われたんだった。この言い方からすると狼は魔物ではなかったのかな?


「とりあえず、村の方に移動しようか」

「はい!」


 何故か手をつないできてくれたので一応握り返しておいた。

 魔物が来たら危ないからなのかな?


 しかし村となるとこれでとりあえず安全が確保されるわけだ。わたしとしても嬉しい限りである。

 何か仕事をしないといけないかもしれないけど。何かしたいわけでもないし喜んで手伝おう。それでご飯もおいしかったらいいなぁ。大抵異世界って聞くとごはんが不味いとか美味しいとかあべこべな物語が多かった気がするから美味しい世界でありますように。


 と、森を歩いてみると。昨日は暗くてよく見えなかったわけだけど、明るいときに周りを見てみればちらほら茂みがあったり。木の上を見てみたりすると木の実をかじってるリス?角生えてるし…あれは魔物ではないのだろうか?みたいな生き物がいたり。

 ふぁんたじぃ!


「ははは。そんな珍しいものとかないだろ」

「むむっ!」


 どうやらきょろきょろしてたのを見られていたのか笑われてしまった…なんだろう。的確に恥ずかしいことばかりしてる気がする。

 田舎から都会に来たみたいな。いや実際文明社会からこんな異世界に来たのだからわくわくくらいしても…けど…

 そうだよな。クリフさんが隣にいるから今は安全て思えるだけで、実際は安全とは程遠いのだ。もっとも緊張しすぎも良くないけど、少しは気を張るくらいがちょうどいいのかもしれない。


「クリフさん!あの生き物は魔物ですか?」


 そう言って先ほどの角の生えたリスを指さして聞いてみる。


「んー。獣かなぁ。リアラは魔物って何だと思う?」

「え。ご、ゴブリン?」

「そうだね。ゴブリンも魔物だね。昨日のウルフは?」

「獣?」

「どう判断してるのかな?」


 ぐぬぬ。さっぱりわからない。ゴブリンは魔物。狼は獣。二足歩行と四足歩行?いやドラゴンとかは魔物?だよね?


「すこしいじわるだったかな。魔物っていうのは魔石っていうのを蓄えてる生き物のことを指してるんだけど。リアラは見分けれるかい?」


 出た!魔石!なるほど。この世界は魔石があるのか。

 それならゲームとかよりもアニメとか小説で読んだことがある世界に近いのかもしれない。


「魔力を扱う?生き物でしょうか?」

「惜しい、のかな?魔力を扱えない生き物が魔物だね」


 むむ?魔力を扱えない方が魔物?


「うん、その顔は俺の言ったことが分かってなかったって顔だね。惜しいね」

「魔力を扱えないのがどうして魔物なんでしょう…」


 そう言ってギブアップ宣言するとクリフさんも少し悩む様子を見せながら答えてくれた。


「魔力が扱えないことによって体内に魔石が生まれてしまう…のだけど、『まかくけっせき』。魔石が生まれてしまった生態のことを主に魔物と総称するね」


 まかくけっせき?んー、魔核結石?尿路結石みたいなものだろうか?


「だから魔人。魔獣。魔竜。いろんな種族がいるけれど、ゴブリンは魔力を扱える種ではないから亜人ではあるけれど魔人となって魔物と呼ばれるっと…難しいかな?大丈夫?」

「はい!それじゃあ先生質問ですけど、ゴブリンで魔法使うやつは、ゴブリンメイジみたいなものはいないんですか?」

「ふむ。ゴブリンメイジはいるよ、ただそれは体内の魔力を扱って放出してるわけではないから…あぁ、そうか。体内の魔力を扱えて放出できるものが魔物ではない…と言ったら分かるかな?」


 先生と言われてクリフさんは少し微笑んでくれたけど。

 さっぱりわからない!と投げ出したいけど、たぶんこの世界で生きていくうえで大切なことだろうからしっかりと考えよう…


 体内の魔力をなにかしらの手順で放出できなければ魔物になる。というか魔核結石という魔石が体内に生まれて魔物という病気?になるということだろうか。

 あれ?それだとわたし結構やばいのでは?


「クリフさん。わたし魔力の放出わからないんですけど…魔人になるんでしょうか?」

「ん?リアラはもうすでに魔力を放出してるよ」

「むぅ?」


 いつの間にか私は魔法少女になってた?

 なんだろうこのズレは?


「無意識なんだろうねきっと。とても綺麗に体に循環するように放出しているよ」


 なんか綺麗と言われると恥ずかしいうえに勝手に放出してるよとか真顔で言われると少し変な感じである。

 とはいえわたしの体は魔力を放出してるなら魔物になることはないのか。


「別に魔人だから危ないってわけでもないんだけどね。魔獣に関しては元が獣だから駆除するし、ゴブリンも敵対してくるからだし。いやそう考えると敵対してくる魔人は多いな。んー」

「それって知性があるかとかですか?」

「ゴブリンも知性はあるよ。人語を介してくるゴブリンもいるしね」


 こわ!ゲームのイメージにあるゴブリンがひゃっはー!って感じで来ると思ったら言葉が分かるぶん怖い。


「そうだなぁ。同盟を結んでるかどうか…かな?ごめんね。俺も倒していい魔人は思いつくけど深い理由とかになってくると国とかが絡んできてさ」


 クリフさんくらい強いのにあまり詳しくない?ってことは相当ややこしいのかもしれない。

 とはいえわたしのイメージで倒していいのはゴブリンとかオークとか。あれ?オークは豚?なのかな?


「オークは亜人ですか?」

「変異種だね」


 あ。もっとややこしいやつだきっと。


「元は魔獣なんだけど、どういうわけか知性を持ったらしくてね。だから魔人と言えなくもないんだけど基本は駆除対象だからなぁ…」


 これもいわゆる国絡みで言葉は話すけど同盟組んでないしってやつなのかな?


「リアラがもし冒険者になるんだったらいずれ学ばないといけないことかもしれないね」


 冒険者かぁ。あまりそんな命の危険が伴いそうなことはしたくないのだけど。冒険ていう響きがとても魅力的ではある。


「やっぱり冒険者ギルドみたいなのがあるんですか?」

「ん?やっぱり?まぁギルドはそうだね冒険者組合が一応あるかな」


 あるらしい!しかしあるならあるで、気になってくる。今向かっている村というのも農業するくらいしかないかもしれないし。それなら商人とかの方がいいのかもしれない?けどどうだろう、商人になって盗賊に殺されるかもとか思うとそれはそれで。


 色々考えても戦えないとなんだか、昨日の狼みたいな体験があるからか自衛できないとすぐに死んでしまいそうな気がする。


「まぁ。リアラはまだ子供だから難しく考えることはないよ。冒険者なんてやるのは死んでもいいっていうような人がなるものだからね」


 そういわれるとクリフさんは死んでもいいって思いながら冒険者になったんですか?って聞いてしまいそうになったけど、さすがにそこまで踏み込んで聞いたら失礼だろう。


 私としてはできれば安全な冒険みたいな、そういうのをイメージしてたから。


「クリフさんは強いんですね」

「そうだね、強くありたいとは思ってる」


 昨日強いんだって言ってたのはきっとわたしが泣いていたから、だから強がっていたのだろう。そう思えるような呟きだった。


 それにしても魔石っていくらで売れるんだろう!体内に貯めるってことはそれなりに価値が高いんじゃないのかな!

 お金的に考えたらなんだかわくわくしてくる。命のやりあいは抜きにしたら意外と異世界の知識を持ってる人ならわくわくするんじゃないのかな?わたしだけかな?


 それからしばらくは、月日とかを聞いてみると。これは地球にいた頃とそんなに大差ないらしい一年の日数とか。曜日は異世界っぽく闇、火、水、土、風、雷、光の7日制だったりとか。

 イメージ的にはなんで雷?って思ったけど歴史的話は詳しくないって苦笑されながら別の話に切り替わった。


「あまりリアラに言うべきではないかもしれないけど、リアラは賢いからね。念のため言っておくけど。村に着いたら村長にリアラを置いてもらえるように頼む予定だけど、断られたら俺と一緒に別の町まで行こうと思うんだ」


 棚からなんとか!それはとても助かるのである。


「それは嬉しいです。正直、その村でやっていけるかも不安ですし。クリフさんに負担がかからなければできればお願いしたいです」


 わたしがそう言うと、少し寂し気な顔をして「わかった」と言ってくれた。


 なんだろうか、そんな表情にさせるつもりでいったわけではないから妙に罪悪感が出るのだが。もしかして面倒!って思ったとか…!

 いや、でもクリフさん優し気な雰囲気あるし多分そうではないと思う。思いたい…



 そうこうしてると、数時間?は歩いたと思うあたりからようやく森を抜けて。街道に出た。

 街道は森に入る前に途切れているけど、これはあれかな?森までつなげてまだ開拓途中?みたいなやつなのかな。


 街道の先には遠くに村が見えた。


「ほら。もう少しで着くよ、頑張れそう?」

「わたしまだまだ余裕です!行きましょう!」




 目に見えると言っても距離はわたしの歩く速度に合わせてるからなかなかに時間がかかった。もうお昼を過ぎただろうというくらいには太陽が傾いてる。


 村に着くと村人がクリフさんに気付くと「おかえりなさーい」と声をかけている。知り合い?なのかなと思ったけど、依頼を受けて森に入ってたっぽいし一度村に立ち寄って顔を覚えられてたのかな?


 そのまま特に豪邸!っていうわけでもない木造の一軒家に着くとノックをしてしばらくするとおじさんが出てきた。


「村長、森の探索から戻ってきました」

「あぁ。早かったねもう退治してきたのですか」

「それとは別件で少しお話がありまして」


 そうクリフさんが言うと、おじさん…村長は「中に入ってくれ」と言って居間のテーブルとイスまで案内してもらった。


「クリフ殿…言いたいことはもしかしてその子のことですか…?」

「そうですね、森に入って奥の方で獣に襲われているのを保護しましたが。この村の出身ではないですか?」

「私が知る限り違いますね。森の反対側から来たとしても森は深い、子供一人では無理でしょうし。連れの方はいらっしゃらなかったんですか?」

「俺が見つけた時は一人でしたし。本人から聞いても記憶が多少無いようですが親がいたわけではないようです」


 とりあえずわたしの話で村長が顔をしかめて困ってる風になってるのは分かる。

 これはあれかな?わたしがいるとやはり迷惑的な感じなのだろうか。


「リアラ、安心して。村長、少しの間保護しててもらえませんか?依頼がまだ達成できてないので終わり次第迎えに来るので」

「なるほど。途中でしたか。そういう話でしたらそれまでの間預かるのは問題ないですよ」


 すごく個人的な考えだけど、わたしこの村長と仲良くなれない気がする!

 それはともかく。クリフさんまだ魔物倒してないのにわたしのためにここまでしてくれてたのが嬉しい!いっそわたしを連れてそのまま魔物倒しに行っても良かったのだけど、そんな強い魔物がいるのかな?


 そんなこんなしてるとクリフさんが袋からいくつか銀貨を渡していた。これはお金?

 これはわたしの宿泊費?的な感じかな。


「クリフ殿、ちなみに魔物はどれくらいで倒せる予定でしょう。もちろん見つけるのも大変だとは思いますが…」

「三日あれば…終わります」


 三日。ということは三日はわたしはこの家で泊まるのか。ごはん美味しいかなぁ。村長って言うくらいだから美味しいもの食べるといいんだけどなぁ。


「分かりました。リアラ?と言ったね廊下の奥の部屋が客室になってるからそこまで案内しよう」

「はい…」


 立ち上がって村長について行こうとすると、クリフさんも立ち上がって頭を撫でてきた。


「俺の方は急いで魔物倒して戻ってくるから。それまで待っててな」

「はい!」


 そう言って村長はクリフさんを見送るでもなくクリフさんは玄関から出て行って。私はクリフさんがぞんざいな扱いされてる気分でやっぱり村長のことを好きになれそうになかった。

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