第44話 本気

 やがて、こびりついた陰が二割ほど消えたところで。

 ニセモノの勇者が動きを見せる。

 再び距離を取ったのだ。


 先ほどから思うに、俺を攻撃すればいいのに。

 今の俺は魔弾を使っていない、お前の言う雑魚そのものだぞ?

 まぁ、そんな事をしたらSランク魔弾を切って反撃に出るだけなのだが。


「はぁああ……はぁああああ! あいつらを……潰す! 俺を受け入れないオンナも、それを穢す無能も要らない! 力を! 力をよこせ!」

「……何をする気?」

!! おまえの言う事などもはやどうでもいい! 力だ! 力を全て集めて、奴らを殺す……!!」


 ミウミが、警戒しながら俺の隣まで下がってくる。

 今の発言に違和感を覚えたからだろう。

 そしておそらく、それは正しい。


「……中にいる陰の囚人に対して黙れと言ったんだろうな、囚人の諫言を無視するつもりかあいつ」


 直後。

 変化があった。

 部屋にこびりついていた陰が、ニセモノの勇者に集まったのだ。

 おそらく、あの陰は保険でもあったのだろう。

 ニセモノの勇者がやられても、あの陰を吸収することでまた復活できる。

 それを1本化したということは、これでもう奴は再生しない。

 変わりに……



「死ね」



 その時だった。

 きがつけば、眼の前にニセモノの勇者がいた。

 速い。

 あまりにも速い。

 いつだったかの、俺と勇者の決闘を思い出すようだ。

 あの時、俺は一撃で勇者を倒した。

 今度はその意趣返しを奴はするつもりか?


 まぁ、


「死ぬのは……!」


 当然、うまくいかないんだが。



「お前だよ!」



 俺とミウミが、に叫ぶ。

 直後、ミウミの剣と俺の剣がニセモノの勇者を受け止めていた。


「な、なんだ!? なぜ防がれた!? なぜ動かない!?」

「んなもん決まってるでしょ」


 勝ち誇りながら、ミウミが言う。

 答えは単純に、俺がSランク魔弾を2人分使ったからだ。

 俺とミウミ。

 二人の身体にSランク冒険者級の魔力が新たに加わる。

 そうしたことで、おそらく圧倒的にパワーアップしたであろうニセモノの勇者と拮抗している。


「アタシたちが……強いからよ!」


 そして俺とミウミはニセモノの勇者を弾き飛ばした。

 そのまま、反撃とばかりに飛びかかる俺達。

 ここからは短期決戦、少しでも速い決着が求められる。


「ぐ……果たし合いのときの卑劣な小細工を、また使ったな!?」


 なんとでも言えばいい。

 そういう思いから答えない。

 俺とミウミは、態勢を立て直したニセモノの勇者の前に出現し、剣を構える。


「だが、身体スペックは二人がかりでようやくこちらと同等。単独であれば俺がお前たちを圧倒している!」


 言いながら、ミウミの剣を躱して俺の剣を握りつぶそうとする。

 ミウミのそれは壊れるものじゃない、狙うなら俺の剣を壊したほうが言い。

 というのはたしかにそうだが、この場合は単純に俺への私怨だろうな。

 何にせよ、各個撃破は間違った判断じゃない。

 ただ、無意味なだけだ。


「どちらかが落ちれば、私の勝ちだ!」

「悪いが……」


 しかし、それはかなわなかった。

 握りつぶそうとした手へ、絶妙なタイミングでミウミが剣を差し込んだからだ。


「それは絶対に不可能よ!」


 俺もそれを解っていたので、剣を差し込んだタイミングで即座に身体を動かし、別の場所からニセモノの勇者に斬りかかる。


「ぬう!?」


 それをなんとかニセモノの勇者が回避する。

 対する俺達は完全に同じタイミングで斬りかかり、更に相手に対応させずらい動きをする。


「なぜだ!? 何がおきている!?」

「連携よ、アタシとリクの連携が、アンタを圧倒してるのよ」

「バカな!」


 剣戟が続く。

 流石に陰を全て取り込んだあってニセモノの勇者のスペックはとんでもない。

 しかし俺達が完璧な連携をみせることで、むしろ圧倒されているのはニセモノの勇者の方だ。

 何しろ俺達の連携は、一切の乱れがない。

 同時に攻撃すべきタイミングであれば、その攻撃タイミングは一瞬のブレもない。

 逆にタイミングを外して連撃をいれる時は、二発目は絶対に相手が打ち込まれたくないタイミングで打ち込まれる。


 手数が実質倍あるようなものだ。

 俺はミウミが考えていることがわかる。

 ミウミも俺が考えていることがわかる。

 だから絶対に動きがずれることはない。

 相手の動きに合わせることができる。


 ただ、それだけのことだ。

 そしてそれこそが、俺とミウミがこの街で、最強戦力と言われる所以だ。

 俺とミウミが自分たちの一番強い状態で戦った時。

 コンビネーションで戦う俺達に勝てるものは誰もいない。


 やがて、ニセモノの勇者に致命的な隙が生まれる。

 もともとこの状態は短期決戦しかできない。

 一分にも満たない間しか出せない俺達の全力。

 だが、その一分の間は世界の誰よりも強い瞬間だ。


「い、いやだ……」

「何がだよ」

「しにたくない……! 自由でいたい! 私には自由がない! 生きることも、正しいことも、常に誰かが決めてきた……!」


 それは……同情できなくはない。

 俺も、必要ないと周囲から決めつけられて生きてきた。

 だから、理解はできる。

 しかし……


「自由であれば……私は私の思うがままに生きていくというのに……! 全て私のものだ! 私が欲しいと思ったものを手に入れるというのに……!」

「それは、たとえ誰かの大切なものだったとしても?」


 ミウミが、確かめる。

 俺もミウミも、既に答えなんて解りきっていたというのに。



「そうだ……! よこせ! よこせええええ! 灼華! お前は俺のものだあああああああああああああああ!」



 直後。

 俺とミウミは、視線を合わせることもなく同時に剣を振り下ろした。


「あっ」


 ニセモノの勇者に、それを防ぐ術はない。

 寸分たがわず。

 全く同時に奴を剣が切り裂いて。


「いや、だ……」


 ニセモノの勇者は、死んだ。



 終わった。



 俺とミウミがそう思い、同時にSランク魔弾の効果が切れた。

 その瞬間だった。



 ニセモノの勇者の陰が弾け、俺を包んだのは。

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