第43話 戦闘開始
俺達がなんとかダンジョンの最深部、コアのある場所にたどり着く。
そこはかつて来た時の静謐な雰囲気はなく。
部屋中に陰がへばりつく、異様な光景になっていた。
「前に来た時は、初踏破のときだったか」
「……懐かしいわね、あれから色々あった。まさかこうやって、こんな状況で戻って来ることになるとは思わなかったけど」
炎の剣を既に構えたミウミが、辺りを見回しながら言う。
お互いに視線を合わせて、一歩踏み込む前に出たところで――
「あああああああああああああっ灼華ああああああああああああっ!」
ニセモノの勇者が、現れた。
ダンジョンの一番奥にあるコアの前に現れたかと思うと、凄まじい勢いで飛んでくる。
俺は慌ててBランクの魔弾を解放。
ミウミも、剣を振るってニセモノの勇者を迎え撃った。
「っく! 出たわね怪物! いちいちアタシの名前を呼ぶんじゃないわよ!」
「そいつからああああ! はなれえろおおお! おまえはああああああ!!!」
ミウミは、炎の剣でニセモノの勇者の攻撃を受け流している。
正面からミウミが打ち合って、受け流すしかないというのはとんでもない威力だ。
「私のオンナだああああああああああ!!」
「適当なこと言うな! アタシはリクの女だって、さっきも言ったでしょうが……!」
ミウミの炎の剣が大きくなる。
数メートルサイズのそれが、ニセモノの勇者に叩きつけられた。
勇者は受け止めるが、動じない。
まじかよ、アレを受け止められるのか?
「ふざけるなふざけるなふざけるな! そんなグズのなにがいい! 存在する価値もない! 魔力も才能も、カス以下のゴミがああああああ!」
「いちいち……」
それでも、やりようはある。
というか、意識がミウミに向きすぎている。
俺のことを罵倒しながら、俺本人をおろそかにしている。
故に、あまりにも奴は隙だらけだ。
「うるさいな!」
俺が、横から剣を叩きつけた。
Bランクの魔弾ではあるが、瞬間出力で言えばSランクをも越えている。
ミウミの巨大化した炎の剣が同時にもう一本襲ってくるようなものだ。
「が、あああああ!」
ニセモノの勇者は叫び……陰が弾け飛んだ。
倒した……訳では無い、気配が後ろに下がっている。
身体を一時的に崩壊させて攻撃を逃れたのだ。
「面倒だな……」
「聞いてはいるみたい」
やがてニセモノの勇者が再び姿を見せる。
怒りと憎悪に満ちた顔で、叫んだ。
「おまえさえ! おまえさえいなければ! 無能が! 存在する価値もなかったのだ! なのに、なぜ!」
「だからさっきから言ってる、うるさい! アンタの言葉なんかどうでもいいって言ってるのよ!」
言いながら、再びミウミが炎の剣を構える。
正面からの打ち合いはほぼ互角。
俺が横から攻撃すればそれでもいいが、今のやり取りだけでBランク魔弾の魔力が尽きた。
やはり、コスパが悪い。
「リク! さっさと片付けるわよ!」
「解ってるよ」
なので、よりコスパのいい戦い方はこうだ。
俺はAランク魔弾を取り出し、砕く。
そうするとそれが……ミウミに対して注がれていった。
魔弾を、他者に対して使うのだ。
「っし、やっぱこれが一番動きやすいわ!」
そう言って、ミウミがニセモノの勇者に飛びかかる。
「な、ああああ、あああああああああああああああ!」
対する勇者は、更に怒りを顕にする。
「やめろおおおおおお! そんな穢らわしいものを受け入れるな! 灼華! おまえにそんなものはひつような」
「黙りなさいよ」
直後。
ミウミの剣は、迎え撃とうとしたニセモノの勇者を一刀両断した。
「があ」
「アンタさっきから、リクを罵倒することしかできないの? 無能だの穢らわしいだの、クズだのカスだの、存在する価値もないだの! 適当なことしか言えないの!?」
「がああああああああああああああああああああ!!!」
慌ててニセモノの勇者は反撃に出ようとする。
だが、ミウミはその動きを全て炎の剣で切り裂いて潰した。
一方的に切り刻まれ、ニセモノの勇者は後退して距離を取ることしかできない。
「なぜだなぜだなぜだ!! なぜ魔力が増えただけでそこまで!」
「その増えた魔力を使った戦い方を、十年磨いてきたから……よ!」
距離を取ったことで、なんとかニセモノの勇者はミウミと打ち合える態勢を整えた。
そのうえで状況はあまりにも一方的だ。
ニセモノの勇者がなんとか反撃しようとするたびに、それを一方的にミウミが潰している。
パワーも、速度も、何もかもが奴は今のミウミに劣っていた。
見ると、ミウミが奴を切り裂くたびに、部屋にこびりついていた陰が少しずつ消えていく。
どうやら、アレはニセモノの勇者と連動しているらしい。
奴がどれだけ弱っているかは、こびりついた陰で確認できるだろう。
「ミウミ、攻撃は効いてるぞ」
「解ってる、手応えがあるもの。このまま、向こうが力尽きるまで切り刻んであげる!」
そう言って、炎の剣を振るうミウミ。
とんでもない炎の剣の大きさと、攻撃範囲だ。
まさに海、これぞミウミの真骨頂。
彼女を最強たらしめる、俺とミウミの戦い方だ。
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