第42話 出現

 進行は順調に進んだ。

 戦闘はほぼ黒金パーティがなんとかしてしまう。

 俺の魔弾も、使う機会はなかった。

 順調な理由として一番大きいのは、魔物の出現に変化がなかったということか。


 ボスはコアのある部屋に要る。

 こちらにたいして、魔物の出現等を操作して妨害を仕掛けてもいいと思ったのだが。


「元勇者の肉体を使っているせいだと思います」

「……だよな。それに、妨害するなら別の方法もあるし」


 ようするに、コアにアクセスできないのだ。

 今の陰の囚人は、あくまでメインがニセモノの勇者だからな。

 そして、俺達はある推測をしていた。

 陰の囚人は、コアが使えなくても別の妨害手段がある……と。


「……奴さん、来ましたよ!」


 黒金における斥候でもあるロージが、こちらに戻ってくると同時に叫ぶ。

 すると、そいつらは突然出現した。

 黒い影に覆われた男たちだ。


「行方不明になった冒険者、こんなにいるの!?」


 彼らもまた、勇者が陰の囚人にそそのかされてから行方不明になった冒険者だ。

 だが、数があまりにも多い。

 数十体はいるように見える。


「……陰の形が全く同じ男がいる。多分、数人の男をコピーして増やしてる」

「よくそこまで観察してわかりますね?」


 ラティアの分析通り、行方不明になった男は数人だろう。

 それを、こうして中途半端に出現させることで複数体呼びさせるようにしたのだろうか。

 ただ、おそらくだが基礎スペックは変わっていない。

 スピードはない代わりに、やたら腕力が高い。

 アンデッドモンスターみたいな連中だ。


「ここからは普通の魔物に加えて、アレも相手にする。とにかく腕力があるからくれぐれも気を付けて」

「急所さえ守っていれば、治療できますから。即死だけは絶対にしないでくださいね」


 ラティアの指示と、ルーアの言葉を受けてロージが飛び出す。

 どんな時も、このパーティで一番危険なポジションはロージとラティアだ。

 みれば、陰の男たちの中に入り込んで、その脚を切り裂いている。


「前に出た時も、こうやって脚を切り落としたらうごけなくなったからな、今回もそうさせてもらうぜ!」


 動けなくなった陰は、後衛の魔術で丁寧に処理されていく。

 スピード自慢のロージ相手に、のろまなパワーファイターはロージが有利すぎるな。


「噂に聞く、人並み外れた膂力。見せてもらう」


 そしてラティアが、迫りくる陰を迎え撃つ。

 陰は技術というものがないから、やるなら剣で横から叩いて受け流すのが一番いい。

 しかしラティアはそうしない。

 そうしてもいいのだが、膂力を正面から受け止めてみるべきだと考えたのだろう。

 仮に受け止められたら、向こうはラティアの防御を抜けないからな。


「……ふん!」


 そうして、迫りくる陰の腕にラティアは剣を振り下ろした。

 黒に金の装飾が施された、これまた”黒金”の名前にぴったりな剣。

 マジックアイテムとしてもかなり優秀なそれが、腕とぶつかって拮抗する。


「……く、ああああああ!」


 そして、正面から腕ごと陰を叩き潰した。


「すごい!」

「アレが黒金の剛力……お見逸れしました」

「ぶい」


 ラティアが口でそう言いつつ、次の陰に剣を向ける。

 ……あ、受け流した。

 そのまま胴体を叩き切って陰を倒している。


「……正面からやるのは、最終手段」

「おいおいマジですかい。こっちは一撃ももらえねぇ……なっと!」


 言いながら、ロージがスパスパと陰の脚を切り捨てている。

 アレ、半分くらいロージが陰を切り捨ててないか?

 普段ならロージは仲間が相手にしにくい魔物をピンポイントで倒している。

 陰の男どもは、どちらかというとロージの方が相手しやすい魔物なんだな。


 ともかく、そうやって俺達はダンジョンを進んでいった。

 途中、陰と魔物を一緒に相手する機会もあったものの、難なく切り抜け。

 ダンジョン最下層のすぐ目の前まできたのだが……


「……数が多いわ!」

「そりゃあ、最深部の防衛ですし……」

「想定通り」


 陰の男の数が多い。

 数十とかではない、百体以上間違いなくいる。

 そして、殲滅している間に補充が入る可能性も高い。


「……私達はここまで、後は予定通り、ミウミとリクがここを突破する支援をする」

「あいよ、一番きつい仕事だけどなんとかしようじゃないの」

「私も、微力ながらお手伝いします」


 そしてこれは、もともと想定されていたことでもある。

 ニセモノの勇者にとって、絶対に殺さなければ行けない相手は俺だけだ。

 ミウミは欲しがるだろうが、ミウミが拒絶すれば奴はミウミも攻撃するだろう。

 やつのところに向かうべきは俺達だけ。

 黒金パーティとルーアには、ここまでついてきてもらえれば十分だ。


「ふー……じゃあ、手はず通り。こっからは何の遠慮も要らないのよね?」

「そう。溜まった鬱憤を影にぶつけて、ここを突破してコアのある最深部を目指して」

「よーし! 行くわよリク!」


 ぱん、とミウミが腕を鳴らした。

 そこから少し炎が溢れ、不敵な笑みのミウミを照らす。

 ようやく、ミウミも自由に動いていい時が来た。


「ああ、行こう」


 俺も頷いて、二人で陰の男たちの海へと突っ込んでいく。

 そこにロージが飛びかかってこちらの援護をし、黒金パーティも陰の男を引き付ける。

 ミウミが炎の剣で陰の男を吹き飛ばし始めた。

 さぁ、最深部はもうすぐだ。

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