第41話 突入

 俺達以外にもAランクの冒険者は何人かいるけれど。

 事件を解決するために依頼を発行されたのは、灼華パーティと黒金パーティだけだった。

 単純に、他の冒険者がパーティに加わっても連携が取れないのだ。

 黒金パーティは男3、女3の六人パーティ。

 そこに俺とミウミ。

 それから陰の囚人についての情報を持っているルーアが参加することになった。

 ルーアと連携したことはないが、彼女は典型的な後衛回復術師ヒーラーである。

 加えて勇者パーティに参加するには実力も必要なので、Aランク以上の強さはある。

 無茶をしなければ、連携は最も用意なタイプだ。


「下層についた」

「ここからは、徒歩で最下層を目指さないとなのよねぇ」


 ラティアが周囲を確認して、ミウミが愚痴った。


 ダンジョンには上層、中層、下層があって。

 冒険者は転移陣と呼ばれるダンジョン入口に設置された魔法陣で、かく層の入口に飛ぶことができる。

 飛ぶことができるのは、既に探索したことのある場所だけ。

 俺達の場合、どの層にも一瞬で飛ぶことができる。

 ただし、飛んだ際に到着するのは、かならずその層の一階だ。


「基本的な作戦はさっき話した通り」

「あいあい、んじゃ張り切っていきましょうかね」


 今回の作戦は単純明快。

 俺とミウミをダンジョンコアのある最下層まで送り届ける、だ。

 陰の囚人がダンジョンのボスである以上、本体は確実にそこにいる。

 加えて、囚人が操っているニセモノの勇者は俺達に執着しているから俺達を無視できない。


 そしてもう一つ、この街の最強戦力は俺とミウミだ。

 俺達が二人で組んで、全力を出すのが一番強い。

 ある意味、お誂え向きといえばそうかもしれない。

 黒金のメンバーとルーアの役割は、俺達を最下層まで送り届けることだ。


「ミウミ。くれぐれも、くれぐれもミウミは戦わないように。少しでも魔力を温存する」

「わ、わかってるわよ……頑張って耐えるから!」


 一番のポイントは、ミウミの魔力を温存することだ。

 俺? 俺は必要ない。

 コスパがすこぶる悪いとはいえ、ストック事態はそれなりにある。

 途中途中で魔弾を使っても、ニセモノの勇者との戦いに支障は出ないだろう。

 というか、魔弾を使わないと俺は一般人未満の身体能力しかないので、使わざるを得ない。

 今だって、Cランクの魔弾を一つ手に持っている。

 緊急時は即座に砕いて回避を行うのだ。


 対するミウミは、堪え性がないからな。

 耐える、とはいっているもののチラチラと俺を見ている。

 コレはアレだ、もし自分がうっかり反射的に動きそうになったら隣の俺が止めてくれると思っている顔だ。


「ともかく、出発する」


 こほん、とラティアが咳払いをして、俺達は最下層に向けて駆け出した。


 ――黒金パーティ。

 Sランク冒険者二人を有する、六人パーティ。

 最強戦力は俺達と言ったが、それは俺の魔弾を遠慮なく使用した場合だ。

 今回のようにそうしないと行けない状況でない限りは、当然黒金パーティの方が強い。


 特に、今回のように安定して道中を進むには、黒金パーティの継続戦闘能力が必須だ。

 黒金パーティの中核は言うまでもなくラティアとロージ。

 ラティアは前衛を、ロージは遊撃を担当する。


 ロージの戦い方は非常に苛烈だ。

 彼の身体強化スキルは特殊で、脚力を特に強化するものらしい。

 そのスピードから繰り出される一撃は、敵を屠るだけではとどまらない。

 敵陣に単独で突っ込んでいって、他のメンバーが戦いにくい相手だけを先んじて倒すのがロージの仕事だ。

 危険な役割だが、彼のそのスピードが危険を危険で失くしてしまう。

 身体強化を行うと、体が青く発光すること。

 何より、敵の中から倒すべき獲物だけを倒す狼のような狩りのスキル。

 そこからロージは、蒼狼という名がついた。


 対するラティアは真逆で、ほとんど前衛から動くことはない。

 とにかく頑強なのだ。

 そういったスキルが豊富というのもあるが、ラティアの強みは磨き上げられた技術。

 どれだけ相手が、ラティアの隙をつこうとしても絶対に敵わない。

 どころか、気がついたら逆に隙をつかれてしまう剣の腕。

 そこに物理的なスキルも相まって、黒金という二つ名は決して伊達ではない。

 ラティアの恐ろしいところは、そこに火力面を補う隠し玉がいくつかあるというところだな。

 いくつか、だ。

 一つではない。


 他のメンバーは、そんな二人が攻撃を捌く中、敵に打撃を与えていく役割だ。

 魔術師マジックユーザー二人という中々大胆な構成。

 そこにラティアがさばききれない隙を埋めつつ、高火力スキルを使える剣士が一人。

 そして全体を回復で支える回復術師が一人という構成だ。


 まぁ、黒金パーティはとにかく隙がない。

 メイン火力を務める魔術師が二人いるから、攻撃に途切れがないし。

 回復術師以外の全員が攻撃に回れる柔軟さもある。

 一言でまとめると、非常に堅牢で長期戦に強いパーティだ。


 俺達が、ミウミの火力と俺の支援に任せた短期決戦を得意とするのに対し、対照的なパーティである。

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