第40話 真相
「陰の囚人は、討伐されたのではなく、討伐されたふりをしていたのだと思います」
ギルドに向かう道すがら、ルーアが解説してくれた。
「我々が知らなかったことではありますが、陰の囚人には高い知性があります」
「どうしてそれを断言できるのよ」
「先程の元勇者とのやり取りで、明らかに元勇者が何者かの言葉に誘導されていた形跡がありました」
一番分かりやすいのは、ニセモノの勇者が陰の囚人についてラティアに指摘された時。
明らかに何か口を滑らそうとしていたのを、誰かが止めていた。
あの誰かが陰の囚人と考えれば納得がいく。
「かつての勇者様は、陰の囚人を追い詰めることはできました。ですが、陰の囚人が一枚上手で、勇者様とそのパーティを騙した」
「そこで倒しきってくれてたら、色々楽だったんだけど」
「あはは……でも、かなり弱らせることには成功したんだと思います。陰の囚人が再び力を取り戻すには誰かしらの協力が必要だった」
そこで目をつけたのが、かつての勇者の焼き直しをしている勇者パーティの存在だ。
勇者とは清廉潔白でなければならない。
そして、ここ最近の勇者はそうあるためにかなり無茶な教育で歪んている。
悪い意味で純粋だったのだ。
それを利用しようと、陰の囚人は考えた。
「そして、ちょうどよくそこに現れたのが今の元勇者だったのだと思われます」
「で、ルーア達にバレないように、こっそりあいつに声をかけたんだな」
「はい、お恥ずかしながら……」
「ルーアは流石に責められないわよ。こればっかりは、あの側近と斥候も。想像すらできない事態だったんだから。悪いのは全部あいつよあいつ」
そうして勇者をたぶらかした陰の囚人は、勇者を追い詰めた。
なぜそんなことをするのか?
陰の囚人にたぶらかされた後の勇者は、明らかに異常だった。
それは勇者パーティに加わっていたルーアや斥候の男。
側近だって感じていたはずだ。
「勇者を精神的に追い詰めたかったんだと思います」
「何のためにそんなことするのよ?」
「主導権を握る必要があるからだろ。現状、先程会話したニセモノの勇者は主人格は勇者の方だった。勇者が主導権を放棄しないと陰の囚人が表に出てこれないんじゃないか?」
俺の言葉に、ラティアとルーアも頷く。
その推測は概ね間違ってはいないだろう。
だって、その推測が確かなら、どうしてあそこにニセモノの勇者がいたのかも想像がつくからだ。
「……ニセモノの勇者は、俺達が屋敷に来たことであそこに俺を襲った男と同じように配置されたんだ。俺達と邂逅させて、勇者の正気を奪うために」
「……も、もしかしてアタシのせい?」
決定打だったのは、ミウミが自分を俺の女だとニセモノの勇者に言ったからだろう。
それで、勇者は完全に正気を失った。
しかしそうではない、と俺は考えている。
「いや、そもそも勇者の身体を乗っ取るっていうのは陰の囚人にとっても苦肉の策だったはずだ」
「それはまぁ……そうよね。可能なら自分の姿で復活したいでしょうし」
「確かに今回の件は陰の囚人の狙い通りだったけど。それは同時に奴にとってもリスクでもあるんだよ」
まずいちばん大きいのが、こうして向こうの狙いが筒抜けであるということ。
陰の囚人に関する伝承は残っているし、生存も既にバレている。
情報を隠せないのだ。
おそらく、かなり狡猾だろう陰の囚人にとって、今の状況はかなり苦しい状況のはずだ。
「それに何より、今陰の囚人はニセモノの勇者の身体を使って復活している。あいつを倒せば今度こそ、陰の囚人は完全に消滅する」
「つまり……そいつを倒せば全部解決するってこと!?」
そうだ、と頷く。
条件は一緒なのだ。
俺達は強大な魔物である陰の囚人を倒さないと、大きな被害を出してしまう。
対して陰の囚人も、こうなってしまったからには暴れるだけ暴れて被害を出さなくてはならない。
もともと、本物の勇者に極限まで弱らせられていた陰の囚人にとって、コレ以外の選択肢はなかった。
それに巻き込まれた俺達の行動は、正直関係ない。
「問題は、全部ここから……ってことね」
「正解、だからこうして私達はギルドを目指している」
ラティアの言葉に、俺とルーアも頷く。
勇者の疑惑については既にルーアがギルドに伝えてあるそうだ。
そしてこの調査で何か解ったら、真っ先に伝える……と。
そして、もし万が一勇者に何か異変が起きていたら。
即座に行動を起こせるようにする……と。
やがて、俺達はギルドにたどり着いた。
急いで中に入ると――
「待ってたぜ、リーダー。灼華の二人もな」
真っ先に、ロージが出迎えてくれた。
黒金パーティのメンバーが、全員集合している。
「ルーアはギルドに詳細を伝えてくれ。その間に、こっちで話をまとめておくから」
「わかりました」
ルーアが、俺達に一礼してから足早にギルドの奥へと駆けていく。
「では、これから私達、黒金パーティと灼華パーティは合同してダンジョンの最奥を目指す」
ラティアが、その場を代表して口を開いた。
「目標は、ダンジョン最奥のボス”陰の囚人”。及びそれに肉体を乗っ取られた元勇者ケイオの討伐」
いよいよ、勇者がミウミに声をかけたことで始まったこの一連の事件。
それが、最終局面を迎えようとしていた。
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