第37話 疑惑

 まとめると、どうやらこのどこからともなく湧いてくる冒険者は、ここ最近ダンジョンで行方不明になった冒険者らしい。

 冒険者が出現する条件は、その冒険者が恨みを抱いている相手の側であること。

 他にも、出現した冒険者は全員低ランクのチンピラ冒険者だったそうだが……これは単純にダンジョンで行方不明になりやすい冒険者がそういう層だからだろう。

 後、他者に強い恨みを持つ性格をしていそう、というのもあるな。


 そうなると少し疑問なのだが、なぜ俺を襲った冒険者は俺より先に斥候の男を狙ったのだろう。

 そりゃあ、そもそも俺を襲ったやつが俺に声をかけたのは、勇者パーティがやってきたことで俺達が問題を起こした結果、調子に乗ったからだが。

 違和感があることには違いない。

 後、あいつだけ町中に出現しているというのもあるしな。

 しかも二度。


「とりあえず、ここまで大きな事になってしまったら、Sランク冒険者として見過ごせないわ」

「同意する。早急に事態を解決しないといけない」


 これまでは、俺とミウミの個人的な問題だった。

 だから、常々ミウミは「大損」と口にしていたわけだが。

 ここまでくればそうも言っていられなくなる。


 別に、個人主義の冒険者がこの事態を解決するよう動く必要はない。

 だがSランク冒険者にもプライドというものがある。

 冒険者の代表として、最強と皆から尊敬される者として。

 逃げるわけには行かない。

 何より……


「それに、細かいしがらみを気にせず物理的に解決していい事件なんだもの。これでよーーーーやく、憂さ晴らしができるってものよ!」


 ミウミは、分かりやすい敵という奴が好きだからな。

 常日頃から面倒な悪意を相手してきたから、しょうがないんだけど。


「敵は誰かしら? 魔物? どんな魔物よ、ラティアやリクは何か知らない?」

「そうだな……いきなり振られても全然でてこないんだが……」

「あ、ごめん」


 問題ない、とミウミに返しつつ。

 何か心当たりはないかと、思考を巡らせる。

 ラティアも腕組みをして考え事をしていた。

 そんな時である。



「お二人共ここにいるんですか?」



 コンコン、と戸を叩く音がして。

 ふいに、ここ最近よく聞く少女の声を聞いた。

 個室の向こうからだ。


「……ルーア? どうしたんだ?」

「すいません、少し灼華パーティのお二人に用事がありまして」

「いいんじゃない、入ってちょうだい」


 視線を合わせて、俺もミウミも問題ないことを確認する。

 ミウミが促すと、ルーアが中に入ってきた。


「あ……ラティアさんもご一緒だったんですね」

「どうも」

「面識があるの?」

「先日の、斥候の彼が殺された件で、ロージさんからお話を聞いているときに」


 あの後、俺とミウミは無関係だったので開放された。

 だが、ロージは色々と聞かなきゃいけないことがあったようだ。

 そこに合わせて、ラティアもやってきていたということか。


「それで話って? ああ、立ち話も何だし、座りましょ」

「は、はい。じゃあ失礼して……ええと、そうですね……どこから話したものでしょうか」


 席について、ルーアは迷いながら口を開こうとする。

 けれど、それより早く。


「……冒険者を、行方不明の冒険者が襲撃している件?」

「……! ご存知だったんですね!」


 ラティアがその事を指摘した。

 どうやら合っていたようだけど、一体どうしてそこに行き着いたんだ?


「えっと、詳細はご存知のようなので省略しますね。その件に関して……私は少し気がかりなことがあるんです」

「っていうと?」

「行方不明の冒険者は、一体いつ頃以降の行方不明の冒険者なのでしょう」


 襲ってくる冒険者は、ここ最近行方不明になった冒険者だ。

 その範囲はそこまで広くない。

 黒金がトラブルに巻き込まれたのは勇者パーティがミウミに絡んでくる直前で。

 俺が襲われたあいつは、その直後のことだ。


「本当にごく最近の冒険者が、例の黒い影に襲われてああなってるって感じよね」

「はい。……その黒い影の正体に、心当たりがあるんです」


 ルーアの言葉に、俺とミウミはお互いを見合わせた。

 思っても見ない言葉だったのだ。

 一体どうして、彼女には心当たりがあるのだろう。


「……実は、私にもある」

「ラティアにも!?」


 思わず、といった様子でミウミが目を見開く。

 けれども、ラティアとルーアが知っている。

 その事実が、俺をある推測に導いた。


「過去の伝承か?」

「正解、流石にリクは鋭い。この街……正確に言うと、この街のダンジョンには伝説がある。かつて、このダンジョンを支配していた主……強大な”ボス”の伝説」

「未攻略のダンジョンにはボスがいるんだよな。それが、伝説になるほどだっていうのか?」


 そう、とラティアは頷く。

 とはいえ、今はそこが本題ではないだろう。

 話が見えてきた。

 おそらく、そのボスの存在と今回の件は無関係ではない、と彼女たちはいいたいのだ。

 その本題を、ルーアが端的に口にする。



「今回の件の襲撃犯が行方不明になった時期は、から発生してるんです」



 そして、その本題を踏まえての彼女の提案。

 もしくは依頼と言うべきか。


「それに関する確認を行いたいんです。護衛として、一緒に勇者パーティが滞在している屋敷まで来てもらえませんか?」


 かくして、事態は一気に動き出そうとしていた。

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