第33話 事件発生

 その日、俺とミウミはギルドに呼び出されてそこにやってきた。

 そこは街の裏通りで、人通りは殆どない。

 だと言うのに、どういうわけか今日は人だかりができていて。

 話しには聞いていたけれど、どうやらそれは本当に起きたようだ。


「どいたといだ! こっちはギルドに呼ばれて来てるのよ! 通しなさい!」


 ミウミが勢いよく声を張り上げている。

 灼華といえば、街の人間なら殆どが知っている。

 そんな人間が、ギルドに呼ばれたと言うなら誰だって道を開けるだろう。

 それでも人が多いので声は通りにくい。

 ミウミが叫ぶこと一分程度、俺達はようやくそこにたどり着いた。


 そこには街の守護を担当している兵士と、それから……


「よう、待ってたぜ」

「ロージ、どうしてここにいるんだ?」


 ロージがいた。

 それと、もう一人。


「……すいません、昨日の今日で」

「いいわよ、少なくともアンタは信用できると思うし……ルーア」


 ルーアがいる。

 こっちは、特に疑問はない。

 そもそもギルドの人が言っていたから、彼女がここにいるのを俺達は知っている。

 意外なのはロージの方だ。


「どうしてって言われてもね、俺が第一発見者だったんだよ。正確には俺達が……かな」

「黒金パーティの男性陣か……」


 おそらく、男性陣だけでギルドに向かっていたんだろう。

 夜に集まって呑んでたのだろうか。

 まぁ、彼らの私的なことは別にいい。

 男性陣だけ、と断定できるのはこの場にいるのがロージだからだ。

 女性陣もいたら、残っているのはラティアのはずだからな。


「で、詳しい話を聞かせてもらってもいいか?」

「そうね、アタシ達は……」


 そして、俺とミウミの視線が”そこ”へ向けられる。

 そこには、今はもう何も無い。

 だが、少し前まで……



「勇者パーティの斥候が殺された、ってことしか聞かされてないわ」



 勇者パーティの斥候。

 貴族派閥の息がかかった男が何者かに殺された。

 そんな情報しか、入ってきていないのだ。


 死体は既に片付けられていた。

 長く放置されていたら、腐って異臭を撒き散らすのだから当然だが。

 それでも、一目見るだけでわかることがある。


「……血痕がないな」

「ああ、被害者の男は首を骨を一瞬で折られて殺されたらしい。外傷と言える外傷はそれだけだった」

「あのパーティの斥候を……一瞬で? どこのどいつだよ」


 勇者パーティは、それなりに優秀なメンバーの集まりだ。

 Sランク級の実力があるのは勇者だけだが、他のメンバーも総じてAランク冒険者並の実力がある。

 そして、それを最もよく知る者も、ここにいる。


「はい。彼は貴族派閥の……まぁ、汚れ仕事を請け負う人間でした。当然、実力も高く正面から縊り殺せるなんて、普通じゃありません」


 とはいえ、必ずしもその時の斥候男が万全だったとも言えないだろうが。

 少なくとも夜中にこんな場所を歩いているんだ。

 酒がだいぶ入っていてもおかしくない。

 少なくとも、油断は絶対にしていただろう。


「そういえばルーア、他の勇者パーティの連中はどうしてるんだ?」

「勇者は相変わらず部屋にこもっていて、側近はその相手をしています。側近は勇者に万が一があったら困ると言って、私に様子を見てくるよういいましたが……」

「……それ、ビビって部屋にこもってるのは側近のほうじゃないの?」


 この間の、うろたえながら逃げる様子を見ていたら、そう想像するのも無理はない。

 まぁ、そんなことはどうでもいいのだ。

 この惨殺事件。

 問題は犯人が誰かという話し。


「それで、俺達がここに呼ばれたのは……」

「すいません、一番の理由は警告なんです。今回の一件に、良くわからない何かが絡んでいる可能性。それから……あなた達が疑われる可能性」

「どっちも、ふざけんなって話しよね」


 特に後者は、あまりにも理不尽だとミウミは憤る。

 そもそも、側近と勇者ならともかく、斥候の男というのが面倒な話しだ。

 俺達と一番つながりが薄いじゃないか。

 まだ前者を殺したっていう方が動機としてはしっくりくる。


「もちろん、それは私も解ってます。だから、ここでお二人からあらかじめ証言をお聞きしておきたいんです」

「えーと、昨日の夜に何をやってた、か?」

「はい。斥候の彼が死んだのは、夜の二十三時ごろです」

「寝てたわ、二人とも寝てた」


 それに、ミウミが即答する。

 まぁ、そう答えるしかないのだが。


「ええと、まぁ当然といえば当然なのですが、それを証明する方法は……」

「えーと……」


 俺はちらりとミウミを見てから、ルーアの方に歩いていって耳打ちをした。


「……、これで察してくれ」

「あー……とりあえず完全に白ってことは、最悪証明できるってことですね」

「ちょっと、何ルーアに耳打ちしてるのよ!?」


 俺が耳打ちをすると、ミウミ以外の全員がどうやら察してくれたようだった。

 ロージも気まずそうに視線を逸らすし、なんなら警備の兵士たちも気まずい反応を示すものの。

 とりあえず、俺達は白だ。

 だからこの話はここまで、ここまでだ。

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