第28話 希望
「んー、たまには冒険者相手に暴れるのも悪くないわねぇ」
「暴れすぎだろ……最後の方じゃ死体の山が出来上がってたぞ」
「あのくらいでへばるほうが悪いのよ」
教導依頼を終えた後、俺達はギルドで食事をしていた。
ギルドのホールは食事や酒を提供しているから、どこかへ食べに行くのが面倒だったり、食事を作るのが面倒な時に便利なのだけど。
俺達はこれまで、昼食をギルドで食べたことがなかった。
俺を侮蔑してくるタイプの冒険者が、昼は酒を飲んで飲んだくれていることが多かったからだ。
夜になったら別の酒場が開くし、何より朝と夜は真面目に活動している冒険者の方がギルド内で比率が高い。
肩みの狭い飲んだくれどもは、朝と夜にはギルドにいないことのほうが多いのだが。
昼は逆に、連中がギルドにはびこっていて、まともに昼食なんて食べられない。
これは何も俺だけの話ではなく。
他の低ランク冒険者……修練場で教導を受けるタイプの冒険者や。
それこそ、ミウミやラティアだって同じだ。
前者は言うまでもなく、後者は単純に下卑た視線を向けられるからな。
昼に何の気兼ねもなく飯を食べれる冒険者って、それこそロージくらいじゃないか?
「にしても、あいつらのいない昼のギルドってのは快適でいいわね」
「そうだな。ギルドの人も感謝してたよ、連中ツケで酒を呑んでることも多いから、いない方が食堂も儲かるって」
それならツケを認めなければいいのだろうが。
なんだかんだ理由をつけて、働こうとしないろくでなしを無理やり働かせる方法として、ツケの支払いを依頼でさせるというのは有効らしい。
あんなんでも、いないよりはマシという時もあるからな。
魔物が大湧きした時とか。
「んーまぁ、連中のことなんていいのよ。それより、アンタ人に教える才能があるんじゃない?」
「流石に黒金ほどじゃないと思うが……まぁ、ただ暴れてるだけだったミウミよりはマシかもな」
「あんですってぇ?」
なんて冗談もいいつつ。
ミウミが言いたいこともわかる。
というより、子どもたちを教導していて気付いたというべきか。
俺は、思ったよりも”普通の”冒険者から慕われている。
チンピラめいた連中じゃない、真面目に冒険者として活動しているような者たちから。
まぁ、多少舐められてはいるけれど。
それでも、悪意は一切ないことはわかる。
「正直、ここまで周りの目を気にしなくて済むようになって、俺も初めて気付いたよ。俺に対して、悪意を向けてこない冒険者もいるって」
「それは……黒金のみんなが、最初からそうだったじゃない」
「そうなんだけどさ……黒金の場合は、俺のほうが警戒してただろ?」
今よりもっと前。
この街に来た当初、黒金パーティは俺達へ普通に接してくれた。
ミウミがすでにAランク間近のBランク冒険者だったからというのもあるだろうが。
それでも、あそこまで分け隔てなく俺達に接してくれた冒険者は彼女たちが初めてである。
だからこそ、俺は警戒してしまった。
かつて俺達に優しくしてくれた冒険者が、俺達を騙そうとしていたことがあった。
幸いにも、すぐに俺が気付いたから問題はなかったが、裏切られたショックはトラウマものである。
黒金パーティに対しても、同じ警戒を抱いてしまうのは無理のないことだろう。
ただ、それもすぐに霧散するけれど。
黒金は嘘のつけるタイプではない。
ミウミと同じように、自分のやりたい生き方を貫くタイプ。
そんな彼女を慕って集まったメンバーも、その本質は黒金と変わらない。
ただ、当時の黒金はラティアに依存しすぎていたけれども。
それは俺の警戒とは別の話だが。
「こうやって、自分を慕ってくれる人がいることもわかった。そういう人たちが増えていけば、俺も冒険者としてギルドで居場所を作れるかも知れないな」
「かもしれない、じゃないわ。作るのよ」
言いながら、残っていた昼飯を一気にかっくらって。
ミウミは満足そうな笑みを浮かべながら続ける。
「元々、私達に居場所なんてない。あの村から二人で逃げ出した時から、私達は二人で生きていくしかなかった。世界は私達に辛くあたって、誰もがアンタを馬鹿にする。そんなふざけた世界が、私達の当たり前の世界だった」
でも、今は違う。
俺達には親しい冒険者もいるし、慕ってくれる冒険者もいるとわかった。
少しずつそういう冒険者とも、交流を増やしていくべきだ。
これまでは、たまに受けた教導依頼で顔を合わせるだけだったからな、あいつらとは。
普通に接してくれているとはいえ、交流と呼べる交流はなかった。
「とにかく、あの勇者をボコボコにしたことで、ようやくその道筋が立ったのよ。あいつはろくでもないし、迷惑しかかけてこなかったけど。決して損だけじゃなかった」
「……そうだな」
ギルドで昼食を何気なく食べることができる。
そんな些細な変化一つとっても、俺達の生活は変わりつつある。
勇者という転機。
それが、できることならプラスへ傾いてくれれば、ありがたい限りだ。
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