第29話 午後
1
「午後はどうする? また教導依頼?」
「それでもいいけど、収支的にはもうプラスだからな」
昼食を終えて、今後の予定について考える。
正直、今日一日の稼ぎとしては午前中の教導依頼だけで十分だ。
教導依頼は基本的に、集まった指導される側の冒険者の数で報酬が決まる。
ミウミの教導は貴重だから、結構な冒険者が集まった。
変わりに、その殆どが午前中でノックダウンしたから、午後はほとんど集まらないだろう。
俺が指導した子どもたちも、午後は薬草採取とかに出かけてギルドにいないはずだ。
「やってもいいけど、コスパが悪いってことね。じゃあ採取依頼でも受ける?」
「その場合、行くとなるとダンジョンの下層になるからなぁ」
採取依頼。
すなわち魔物との戦闘が発生しない依頼だ。
普通、採取依頼といえば低ランクの冒険者が受けるような依頼だ。
ただ一応、高ランクの冒険者が受けれる採取依頼もある。
俺が言ったように、ダンジョンの下層で採取を行う依頼だな。
しかしそうなると、俺がついていくのはリスクがある。
「下層で万が一、魔物と戦闘になったら俺は魔弾を使わないと正直ついていけないだろ」
「まぁ、そうね……かといって、アンタを連れてかないってのも勿体ないし……」
アイテムボックスのスキルを俺が取得した以上、基本的に採取依頼は俺が同行した方が都合がいい。
けど、それで魔物との戦闘になって魔弾を使ったら本末転倒。
「正直、そこは諦めるしかないだろ。下層で採取依頼を受けるなら俺は同行しない。その間、俺は上層での採取依頼か、街の清掃依頼でも受けるよ」
「んー、別行動……かぁ」
俺の提案に、ミウミは不満げだ。
そりゃ、俺達は冒険者としては常に一緒にやってきた。
時折別行動することもあるけれど、それはごくごく稀なことだ。
そう考えた時、今回わざわざそんな稀な行動を取る必要があるかという点を考えているのだろう。
「……よし! 午後は休みにしましょう!」
「ま、そうなるよな」
で、結論。
その価値はないと判断した。
別行動を取るのは、どうしてもお金が必要だったりする時だけだ。
今回みたいに、既に1日分の稼ぎを得ている場合なら無理に別行動を取る必要はない。
妥当なところに落ち着いたな。
「ろくでなし共に倣うわけじゃないけど。冒険者ってのは自由な職業なのよ! 生活が窮してなければその日の気分で、仕事を休みにしてもいい!」
「ま、結局いろんなことを加味してそういう結論になるわけだから、別にその日の気分ってわけでもないけどな」
「そういうのはいーの! ほら、さっさと行くわよ」
そう言って、俺の手を掴んでミウミはギルドから出ていこうとする。
「どこへ行くんだ?」
「決まってるじゃない! ……買い物よ!」
まぁ、要するにデートというやつだな。
2
黒金のメンバーはギルドに顔を見せなかった。
おそらく、どこかしらに冒険へ出ているのだろう。
とすると、知り合いを誘って遊ぶという選択肢はなくなる。
結果、俺達は二人で買い物に出ることになるわけだ。
デートと言い換えてもらって構わない。
「何を買うんだ?」
「包丁を新しくしたいのよ、研いで使ってきたけど、流石にそろそろ限界ね」
「アレか、もう何年使ってきたっけ?」
「さぁ」
他にも、面白い食材が売ってないかと期待しているらしい。
ミウミにとって、趣味と言える趣味は料理くらいだ。
おしゃれとかは人並みに気を使っているようだけど、冒険者の人並みっていうのは結構基準が低いからな。
それに、素材が良すぎるから、化粧品を変えたとか言われても俺には違いが判らん。
まぁ、そういうことを口に出すと怒られるので、俺は黙っているけれど。
「後はそうねぇ、レシピ本とか?」
「本屋に寄るのか? それだったら俺も、色々と何か読み物がないか探してみよう」
「アンタも好きよね。私が本なんて読んだら、一時間と経たずに眠くなっちゃうのに」
んで、俺の趣味と言える趣味は読書だな。
黒金の男どもは、結構ギャンブルとか好きなんだが。
俺は、ギャンブルに金をつぎ込むと金が目減りする感覚に耐えられないのであまり好きじゃない。
他にも風俗とかは行かないし、外に出ると変な連中に絡まれかねない。
結局、インドアな趣味に傾倒していくことになるんだよな。
まぁ、そんな話をしつつ買い物を済ませていく。
デートと言っても、常に一緒にいるわけだからその内容は日常の延長線上に過ぎない。
変に照れる時期も、とっくに過ぎているわけで。
買い物事態は、サクサクと終わった。
「んー、色々買ったわね」
「こういう時、荷物を煩わしくないのは、アイテムボックス様々だな」
「こうやって、腕組みだってできちゃうしね」
「人前」
腕に腕を絡めるタイプの、なんかバカップルみたいな腕組みをされつつ。
ミウミの胸が腕にあたっているという状況を、恥ずかしく感じるのを防ぐため何気ない様子で突っ込む。
まぁ、こういう事をしているとデートっていう実感も湧いてくるかもしれないな。
と、そんなことを考えた時だった。
「あの、灼華パーティのお二人ですよね?」
ふいに、女性に声をかけられる。
「んひゃあ!」
思わず、顔を真赤にして手を話すミウミ。
恥ずかしくなるならやらなければいいのに、と思いつつ。
振り返るとそこには……
「……勇者パーティの、シスター?」
思わぬ人物が、立っていた。
……また、厄介事でなければいいのだが。
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