第27話 教導
「ほーら、あんたらもっと踏ん張りなさい!!」
勢いよく振るわれたミウミの炎の剣に、複数の冒険者がふっとばされる。
あれ、熱はない形だけの状態なので受けても痛くはないのだが、受けると風圧で吹き飛ばされるのだ。
まぁ安全な戦い方ではあるし、熱がない以外は普段通りのミウミなので、戦い方の参考にはなるだろう。
俺達が何をしているかというと、教導依頼と呼ばれるものだ。
高ランクの冒険者が、低ランクの冒険者に指導を行うというものである。
それをギルドが依頼として、正式に出しているのだ。
高ランク冒険者が、冒険にでたくない時。
こういう依頼を受けて、小遣い稼ぎをするのが定番である。
「くそ……こっちはBランクの冒険者が大量にいるんだぞ……なんで全く勝てねぇんだ……」
「言ってる場合か、これも修練。少しでも灼華から学べることを学ぶぞ。こんなこと、早々ないんだから」
ミウミが相手しているのは、Bランク以上の冒険者である。
一般的に、一人前とされるBランク冒険者。
それが束になってもミウミには敵わない。
Sランクとは、それだけ高い壁なのである。
加えていれば、ミウミが教導依頼を受けるのは稀なことだ。
いや、ないわけではないのだが。
黒金と比べると、どうしても少ない。
逆に黒金は頻繁に冒険者を扱いているのを見ることができる。
黒金の目的は強者を生み出して戦うこと。
教導依頼は、そのために他人を育ててついでに自分も鍛えられる一石二鳥の依頼というわけだ。
まぁ、今はその黒金も修練場にはいないわけだが。
もしいたら、ミウミと黒金の一騎打ちが始まっていただろうな。
教導どころじゃない。
そうしてミウミが高ランクの冒険者をボコす傍ら、俺も教導依頼を受けていた。
俺みたいなミソッカス魔力量の冒険者が何を教えるんだという話ではあるが、案外俺の教導はそれなりに人気がある。
何故なら、俺が教えているのは基礎の基礎だからな。
「じゃあ、全員そのまま剣を振ってみてくれ。腕がつかれて動かなくなるまで、身体強化を使わずに振り続けるんだ」
「は、はいっ」
俺が教えるのは、EランクやDランクの新人。
それも、年若い子どもたちだ。
中にはスキル鑑定を行ったばかりの、八歳くらいの子どもまでいる。
彼らが冒険者をする理由はさまざまだ。
家庭がまずしく、冒険者になるしかなかったり。
幼い頃から冒険者に憧れ、スキル鑑定の結果才能を見込まれて冒険者になったり。
一つ言えるのは、彼らがまだまだ子供であるということ。
俺のような魔力がほとんどないような相手にも、殆ど偏見なく接してくれるのだ。
そうなると、俺には結構、彼らに対して教えられることがある。
剣の素振りも、その一つだ。
「一、二、三……」
振り下ろすたびに、数を数えていく。
やっているのは俺が教導している子どもたちと、そして俺自身。
俺の剣は、ブレなく常に一定のリズムで振られている。
だが、子どもたちの剣は、時折バランスを崩したりしていて見ていて危なっかしい。
木剣だからけがをすることはないが、まだまだ未熟だということである。
「……百。全員もうへばったみたいだな」
「うう、流石にいきなり強化なしで素振り百回は無茶……」
子どもたちは、皆一様に疲れた様子で地面にへばっている。
ミウミの方も高ランク冒険者を叩きのめして地べたに転がしているから。
まぁ、どっちも似たような感じだな。
「まぁそういうな。強化なしで身体を動かすことは、強化がある時にどうやって効率的に身体を動かすかを学ぶ上で、絶対に避けて通れない。強くなりたいなら、基礎をとにかく固めないと行けないんだ」
「だからリクはあんな強いのかー?」
「呼び捨てにするなと言ってるだろうに」
普段から生意気な少年の頭をぐりぐりしつつ。
なんというか、一部の子供からは若干俺を舐めている空気は感じる。
だがそれも、決して悪いものではなく。
親しみを持たれていると考えるべきだろう。
「でも、でもすごかったよリク! あの偉そうな勇者を一撃で叩きのめしちゃってさ! すげーかっこよかった」
「お、おう……そうか? 何かそう言われると恥ずかしいな」
普段は、あまり褒められることのない俺である。
こうして純粋な尊敬の眼差しを向けられると、少し弱い。
「それに、あいつらもすげー怖がってて、スカッとした!」
「あいつら……観客どもか?」
「そうそう! リクが負けるところを見に来てた奴ら!」
ふむ、と考える。
連中は、俺が教導している子どもたちと同じEランクやDランクの冒険者だ。
真面目にやっていれば、よっぽど戦闘ができないとかではないかぎりCランクの冒険者になることは可能な世界で(俺がCランクなのがその証拠だ)。
そこまで至らない、悪い言い方をすれば落ちこぼれ。
「あいつら、俺達と同じ低ランクの冒険者なのに、年上だからっていつも偉そうにしてるんだ。でも、今日は全然あいつらもいないし、久しぶりにすげーギルドがいい感じの空気になってるだろ?」
けど、子どもたちにとっては目の上のたんこぶみたいな連中だ。
「全部、リクのおかげだ! ありがとな、リク!」
「……そうか」
なんというか。
俺はあまり、自分を認めてくれる人間に慣れていない。
流石に黒金パーティが俺を評価してくれることには慣れてきたけれど。
後輩に、こうやって慕われるのは全然だ。
なんとも、むずかゆいな。
そう考えると、この後輩たちが俺を慕ったまま冒険者として大成すれば、いずれ俺を侮蔑する冒険者もいなくなるのではないだろうか。
次世代、正直今まで考えてもみなかったような概念だ。
それが、今目の前にいる。
それも複数。
「……ありがとな」
「なんでリクがお礼を言うんだ?」
だから、不意にそんな言葉が零れていた。
彼らの目は輝いていて、希望に満ちているように見える。
俺も、そんな彼らが成長する助けになれれな、と考えた。
「それと、呼び捨てにするなって言ってるだろ」
そう言って、俺たちは次の鍛錬へと移っていった。
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