第26話 翌日
次の日、俺達は二人でギルドにやってきていた。
別に俺一人、もしくはミウミ一人でもよかったのだが。
あの後のギルドの様子を見ておこうということになったのだ。
俺をバカにしてた連中を嗤うためではなく、単純に冒険者の空気というやつはギルドに行かないとわからない。
冒険者も個人主義とはいえ、時代の流れというか空気みたいなものは重要で。
また、横のつながりだって決して無視できない。
もちろん、自分の実力だけで食っていくタイプのソロ冒険者だっているけれど、俺達はそうじゃないのだ。
常に、ミウミと俺の二人パーティだからな。
何より敵が多いせいで、俺達だけで生きていくというのは中々難しい立場にある。
何にしても、黒金パーティとの繋がりはとてもありがたいという話だ。
「んー、人が少ないわね……」
「普段なら、もう少しうだうだ言ってる冒険者が残ってるもんだが……」
俺達は、普通より少し遅れてからギルドにやってきた。
この時間帯はもう、真面目な冒険者はギルドをでて冒険に出かけているはずだ。
これは単純に、俺達がやってきてそういう真面目な冒険者に迷惑をかけたくないからである。
結果として、黒金パーティと顔を合わせることはないだろうが。
ともあれギルドの中はがらんとしていた。
普通、この時間帯はあまり冒険に出かけない、低ランクでうだうだやっている冒険者がギルドで屯しているころである。
有り体に言って、俺を侮蔑してくるような連中だ。
それが極端に少ない。
「……やっぱり、昨日のあれは効果があったってことか?」
「そうみたいね。まぁ快適に過ごせるならいいことだわ」
見れば、俺に対する視線が極端に少ない。
良くも悪くも、やってきた俺達に対して無関心な人間が多かった。
「うーん、それはそれで何と言うか……普段と全然感覚が違ってもどかしいわね」
「慣れるしかないけど、慣れたら慣れたで、また視線が元通りになったときのダメージがでかいな」
結論、極力気にしないようにするしかない。
この視線の少なさは、あくまで一時的なものかもしれないのだから。
その考えはなんていうか、諦めが先行しすぎていよくないのだが。
かれこれ十年も、そういう環境で冒険者をしていると、何事も諦めが肝心という結論に達してしまうものである。
結局、冒険者は個人主義。
あの視線が嫌なら、環境を変えたほうが早い。
しばらく滞在していると、どうせまたああいう侮蔑の視線に曝されることになるけれど。
数日で出ていく旅の冒険者なら、それも気にする必要はない。
とはいえ……
「……まぁでも、元通りになっても私達はここから出ていかないでしょうね」
「そうだな、部屋を借りたっていうのもあるけど……黒金パーティがいるおかげで、冒険者として充実した活動ができてるものな」
これまでは、俺達が冒険者をする理由は生きていくためだった。
俺は魔弾を使うことで一時的に誰にも負けない力こそ手に入れられるけれど、それはあまりにも燃費の悪い最強で。
ミウミはどんな時でも、誰にも負けない力を持っているけれど。
その力と美貌が、むしろ俺との関係を邪魔してしまうこともある。
「んー、あんまりそういう暗い話ばっかりしててもね。せっかく他人の目を気にせずギルドを歩けるんだから。もっと前向きにならないと」
「そりゃそうだ。んじゃあ、今日はどうする?」
まぁ、こんな事を考えていても意味はない。
俺達はむしろ今、恵まれているのだから。
さっさと、その状況を享受したほうがいいというのは当然の話しだ。
具体的に言うと、今日受ける依頼はどうするか、という話。
「なんでもいいから暴れたいわ! 昨日のリクの全力を観て、私も大暴れしたいってうずうずしてるの」
「んー、そうなると俺はお荷物だなぁ。昨日のアレで魔弾を消費したから、あまり派手に動きたくない」
「あー、それもそうね」
とりあえずなんでもいいから討伐系の依頼を受けたいミウミ。
しかし俺は、魔弾のストックを使ってしまったからあまり戦闘で力を使いたくない。
「でもやっぱり、なんかこう、いい感じのバトルがしたいわ! ラティアがその辺歩いてないかしら……」
「いれば、いくらでも修練場で相手してもらえるんだろうけどな……」
ラティアはバトルジャンキーだが、ミウミだって血の気はかなり多いほうだ。
時折二人が、修練場で人外バトルを繰り広げていることを俺は知っている。
修練場が壊れないだろうかとハラハラしながら、遠くでそれを眺めるのが定番だ。
幸いなのは、修練場が壊れさえしなければむしろギルドも二人の戦いを歓迎しているという点。
そりゃそうだろう、ギルドを代表するSランク冒険者が、多くの冒険者の前で戦うのだから。
中々見られないエンターテイメントが、結構な頻度で開催される。
結構すごいことなのだ。
「んー、そうか、修練場か」
「どうしたの?」
そこまで考えて、結論が出た。
俺はクエストボードから、ある依頼を迷うこと無く手に取る。
「俺が魔弾を使わなくて済む、ミウミが思う存分暴れられる。とくれば、これしかないだろう」
「……ああ! 教導依頼!」
教導依頼。
その言葉を口にしたミウミは、らんらんと目を輝かせ始めた。
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