第15話 遭遇

「今日はどうするんだ?」

「今日?」


 朝食を食べながら、ミウミに今日の予定を尋ねる。


「んー、ラティアたちと買い物に行く予定。最近お互い忙しかったから」

「あー買い物か。楽しんできてくれ」

「……あんたも一緒にくる?」


 ラティアというのは、例のSランク冒険者“黒金“の名前。

 黒金のラティア。

 なんというか、女性につける二つ名としては結構物騒だよな。

 で、それはそれとして。


「参加者は?」

「黒金の女性陣とアタシ」

「女子会じゃないか、遠慮しておくよ」

「そりゃそうよね」


 仮に、男女混成で買い物に行くならともかく。

 女子会に一人で参加する勇気はない。

 荷物持ちで済めば、まだいい方だぞ。

 ミウミも冗談で聞いているだけだ。


「はーあ、男どもも参加してくんないかな、着せ替え人形にしたい」

「冗談で言ってるんだよな……?」

「ふふふ、どうかしら。ああでも、私が着せ替え人形にしたいのはあんただけだから」

「そこは補足いらないって」


 何年一緒にいると思ってるんだよ。

 ともあれ、もとより今日はお互い休みの予定だった。

 昨日のダークアイアンブルの一件は、それだけでかい依頼だったのだ。

 ミウミが黒金の女性陣と出かける予定も立てるのは、納得といったところ。


「あんた達は違うの?」

「ロージが言い出さなかったからな。基本的にそういうこと言い出すのはあいつだし」

「ははぁ、ってことはロージさんは家族サービスを優先したんでしょうね」

「だろうな……そろそろ娘さんも色々できるようになった頃だろうし」


 確か、娘は今年で二歳になる。

 俺とミウミがこの街にやってきて少ししてから……黒金と仲良くなった後に生まれたから覚えている。


 でまぁ、要するに俺はミウミと違って今日の予定が特にないということだ。

 適当に街をぶらついてもいいが、昨日の今日でガラの悪い冒険者に絡まれないとも限らない。

 かといって、家に篭って魔力固めながら読書とかだと、気晴らしにならないんだよな。

 掃除とかをガッツリするってほどでもないし。


 そうなると、自然と向かう先は一つになる。


「とすると、ギルドに行ってみるかなぁ俺は」

「いってらっしゃい、気をつけてよ? 変なやつに絡まれないように」

「大丈夫だって」


 そうそう何度も、変なのに絡まれたりしないだろう。

 ロージが仲裁したのなら、尚更だ。

 そういえば、そのことをミウミに報告したっけな?

 いかん、思い出せない。



 2



 街を歩くと冒険者に絡まれるのに、じゃあギルドに行ったら本末転倒じゃないか。

 と、思うかもしれないが、むしろギルドに行った方が安全なことが多いのだ。

 単純に人の目の数が全然違う。

 ギルドの外で絡まれたら、俺のことを見ているやつなんてほとんどいないだろう。

 だが、ギルドの中なら大抵の人間は俺のことを知っている。

 よく思っていなくとも、だ。

 だからこそ、そこで絡んで行くバカは目立つ。


 昨日のあいつは、ロージが仲裁したことでその場ではなんとかなったものの。

 一気に周囲の評判を落としていることだろう。

 いくら俺がバカにされる対象でも、正面からバカにしに行く行為は恥ずべき行為だ。

 何より、ロージに仲裁されているというのがよくない。

 Sランク冒険者であるロージに咎められるということは、それだけやつの行為が冒険者としてふさわしく無いものだったということ。

 結果、やつはこの町での信用を大きく失っただろう。

 一見なんとかなっているように見えても、後々奴が失った信頼は奴自身を苦しめる。

 この町で、もうまともに冒険者をすることはできないだろうな。


 んで、ギルドにやってきた理由はもう一つある。

 俺と同じように、特に用事のない黒金のメンバーが屯している可能性があったからだ。

 ロージが何かしら俺たちを誘わなかった以上、黒金の男性陣は暇しているはず……なんだが。


「誰もいないな」


 いつも黒金の連中が屯している一角には誰もいなかった。

 一人くらいいるかと思ったんだが、そうなると黒金の連中はロージと俺を除け者にしてこぞってどこかへ行っているらしい。

 俺たちを除け者にするとなると、理由は一つ。


「昼間から娼館通いか……」


 花街に行っているのだ。

 それはうん、俺とロージは誘えないよな。

 まぁ、あれだけ大金が手に入ったのだから無理もない。

 冒険者なんて宵越しの銭は持たないというのが、一般的。

 こりゃあ昨日の金は一日にして懐から消えてるかもしれないな。


 ともあれ、人がいないならしょうがない。

 ギルドに来た以上、やれることなんて限られている。

 具体的にいうと、依頼だ。


 休みなのに依頼かよ、と思うものの。

 何もしないよりはマシだ。

 それに、受ける依頼もそう面倒なものではない。

 Eランクの不人気依頼、たとえば街の清掃などである。


 こういう依頼は、基本一人で単純作業をするだけでいい。

 暇になった時、どこかへ遊びに行く当てもない時。

 何も考えず作業ができて、金だって稼げる。

 一石二鳥というやつだ。


 で、この依頼。

 受けれるランクの上限が決まっている。

 Bランク以上の冒険者は、Eランクの依頼を受けてはいけないのだ。

 まぁ、新人向けの依頼を一流の冒険者が受けるというのは健全でないから当然だが。

 俺の受けたい依頼は、そもそも新人ですら受けない不人気なもの。

 受けても咎められることはない。

 というか、ギルドの人も俺がそういう依頼を受けることをわかってくれているから、俺のランクをCランクから上げないでくれているわけで。

 そこら辺は、常日頃の人付き合いの賜物だな。


 なんて考えつつ、依頼が掲示されるボードに向かった俺は、そこで会いたくない人物に出会う。



「……灼華の、荷物持ちが何をしている?」



 なんでここにいるんだよ。

 本気でそう口に出しそうになってしまった。

 勇者ケイオが、そこにいた。

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