第11話 十年前
幼い頃のリクとミウミは、二人そろえば何でもできる無敵のコンビだった。
生まれが一日違い、両親の家が隣同士。
そんななるべくして幼馴染になった二人、どこへいくのだって二人は一緒だ。
二人の故郷は、山奥の寂れた村。
同年代の子供は自分たちしかいない。
自然と、結びつきを強くしていくのは当たり前のことだ。
幼い頃は、周囲もそんなリクとミウミを当然のことと受け入れていた。
村では数少ない同年代の子供が仲良くしているのだから、やがて夫婦になって子を成してくれたら、それは村にとって一番の宝である。
だが、いつしかそうはならなくなっていった。
原因は、二人の魔力量である。
人は体内の魔力を幼い頃から少しずつ増やしていく。
身体の成長とともに、魔力も成長していくのだ。
ミウミの成長は順調だった。
どころか、普通ならありえないような伸び代で、将来を期待させるには十分だ。
しかし、リクは違った。
彼の魔力はほとんど成長しなかったのだ。
元々普通の赤ん坊と比べても、少ない魔力量で積まれてきたリク。
それが、成長しないまま身体だけ大きくなっていく。
はっきりいって、異常だ。
もちろん、世界的に見てそう言う事例がないわけではない。
だが、山奥の村という小さな世界で生きている人々がそんなこと知る由もなく。
そもそも知っていたとして、彼への扱いが変わるわけでもなく。
やがてリクは人として扱われなくなっていった。
決定的となったのは、八歳の頃に行われたスキル鑑定だ。
スキルは、基本的に鑑定しなければ自分の中にどんなものが備わっているのか人は自覚できない。
だから一定の年齢、リクたちの地域では八歳になったら鑑定が行われる。
スキルを鑑定することのできる施設、教会へと子供達が集められ、スキルを鑑定するのだ。
そんな中で、リクとミウミのスキル鑑定が行われた。
ミウミの結果は素晴らしいものだった。
八歳にして、取得スキルは二桁を超えている。
スキルの取得量は魔力の総量に比例すると言われているから、まだまだ魔力が成長途中であたミウミはこれからもスキルを増やしていくことが予想された。
そう、スキルの取得量は魔力の総量に比例するなら。
リクの結果は、いうまでもないだろう。
スキルを取得していない。
無能であると切って捨てられたようなものだった。
そして、その結果、リクは人として扱われなくなった。
無能、そう罵倒して許される何か。
最も態度が変わったのは、間違いなく両親だろう。
それまでは、なんとか親として子を愛そうという努力が垣間見られた。
だが、スキルを持たない存在だと分かった途端、彼らは手のひらを返した。
食事を与えらなくなり、寝るところも家の外へと変化した。
そして、話し合いの末リクは捨てられることになった。
スキルを使えない彼は、ただの穀潰しにしかならない。
だったら、捨ててしまった方が村のためだ。
何より、これ以上リクの両親がこれまでなんとか息子と思おうとしていた何かから解放するため。
完全な善意で、リクを村から放り出したのだ。
そして、ミウミが村から姿を消した。
リクが捨てられたと知ったのは、リクが捨てられた翌日のことだった。
ショックを受けたミウミは部屋に引きこもり、外に出なくなった。
村人たちは、そもそもミウミの行動が理解できなかったのだ。
リクはこの村に不要な存在。
それを捨てることは、むしろよろこばしいことなのに。
彼らはおかしくなっているのだ、とミウミは感じていた。
魔力を持たない、異常な子供。
リクに対するそんな視線は、日に日に強くなっていた。
そこには、侮蔑だけではない。
恐怖もあった。
理解できなかったのだ、魔力を持たない人間という存在が。
しかしミウミにしてみれば、リクはリク。
他の人間と変わらない、普通の人で、子供。
そんな子供を、寄ってたかって目の敵にする。
否、目の敵にしていいという認識が彼らをおかしくしていた。
だから、ミウミは逃げた。
こんな場所にいたら、自分もおかしくなってしまいそうだから。
何より、リクを“捨てる“連中と同じ世界で、生きて行けなかったから。
慌てたのは、村の連中だ。
リクはともかく、ミウミは村の財産だ。
いずれ、近くの有力者の元へ嫁がせれば、その有力者は村を支援してくれるだろう。
ミウミは成長すればするほど、その美しさに磨きがかかっていていっていた。
だから、彼らはミウミを高く売れると考えていたのだ。
彼らをおかしくしていたのは、きっとリクだけではない。
ミウミという彼らの手に余るほどの財宝も、彼らをおかしくしていた。
そのことに、彼ら自身も、ミウミも気がつくことはなく。
結果として、リクと共にミウミも消えた。
二人は、生きる縁を失って、闇の中へと進んでいったのだ。
かつて、二人は二人でいれば何でもできると信じていた。
どんな自由も約束されていると。
だが、未来の見えない暗闇へ、二人は足を踏みれなくてはならなかった。
本人たちが、望む望まざるに関わらず。
それは今から、十年も前の話である。
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