第9話 炎の海
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ミウミの戦い方は、言うなれば炎の海だ。
彼女が手をかざすと、そこから炎が生まれる。
それは剣の形をとって彼女の手に収まると、ミウミは現れたダークアイアンブルへと飛びかかる。
迫り来るダークアイアンブルは三体。
一度に相手取るには多すぎる量だ。
だが、ミウミは臆さない。
強靭なメンタルをしているからではない。
臆する必要がないからだ。
「ふっとべ!」
掛け声と共に振るわれた剣は一気に広がる。
さながら波のように。
3匹のダークアイアンブルを一息に灼くその炎は、まさに海と呼ぶにふさわしい。
そして、剣を振り抜く。
火花がミウミの周囲へ散った。
これもまた、花びらが散るかのようで。
灼華の異名はここからきている。
ダークアイアンブルは倒れていた。
スキルを“複数“用いての大火力。
早々耐えられるものではない。
ミウミの基本戦術は、炎の剣を用いた範囲殲滅だ。
そのために、ミウミはいくつかのスキルを並行して使っている。
一つは炎操作。
炎を生み出して操作するスキルだ。
これによって炎を生み出し剣の形にしている。
もう一つが身体強化。
これは、人間が魔物と戦う上で必須のスキルだ。
魔物は強い、人と比べてあまりにも強いパワーとスピードを誇る。
人が人の身で相対するには、身体を強化するしかない。
最後に、属性硬化。
これはスキルで生み出した属性攻撃を、物理的に振るうためのものだ。
何をいっているか分かりにくいと思うが、要は簡単だ。
スキルによって生み出した炎は、ただの炎しかない。
これを振るっても、ただ炎で敵を燃やしているだけ。
これを硬化することで、属性攻撃は質量を持つのだ。
質量のある炎、それは物理と属性攻撃、二つの側面を両立する。
属性攻撃……魔術などに強い敵には質量で、物理に強い相手には属性攻撃で。
そういう使い分けが可能になるのだ。
ミウミの天才性は、これら複数のスキルを難なく並行して行使できること。
普通の人間には無理だ。
それぞれの手で別のことをするようなものだから、マルチタスクができないといけない。
普通はできて、せいぜい二つ。
それも、身体強化と剣攻撃のような、方向性の近いスキル同時使用がせいぜい。
剣攻撃ってのは、剣で攻撃するときに威力が上乗せされるスキルだな。
なお、当然のようにミウミも使えるし、並行使用可能だ。
つまり彼女はまだ本気を出していない。
俺のバフも保険程度だしな。
「次!」
「了解」
勢いよく、口元に笑みすら浮かべながら叫ぶミウミ。
入れ替わるように俺が死んだダークアイアンブルの元へ向かう。
アイテムボックスに収めるためだ。
んで、周りにはダークアイアンブルが大量にいる。
当然俺を狙うダークアイアンブルもいるわけだ。
「二体か、ダンジョンの中で狭いからそこまで一気に来ることはないな」
とすれば、
「使うべきはこれだ。Cランク……身体強化弾!」
アイテムボックスから吐き出した魔力の塊を、勢いよく握り潰す。
言うまでもないが、俺が固めた魔力は俺にも効果がある。
そして、身体強化弾は俺の魔弾の中で最も汎用性が高いもの。
ランク分けは、それを使用すれば単独でどの程度のランクの冒険者と同じ強さになれるかで分けている。
なので、今の俺の身体能力はCランク冒険者相当だ。
とはいえ、それだとダークアイアンブルを倒すには足りない。
基本的にダークアイアンブルはBランク冒険者が数名で討伐する相手だ。
それも、ダークアイアンブルが一体だけだった場合。
しかし、対抗できないわけではない。
技術と冷静さ、があれば相手取ることは可能だ。
倒すことは難しいけどな。
「らあ!」
アイテムボックスから取り出した剣で、迫り来るダークアイアンブルの突進を受け流す。
パワーは正面からやってくる、それを正面から受け止めてはいけない。
添えて行き先を変えるようなイメージで、俺はそのダークアイアンブルを誘導した。
どこに? とは考える必要ないだろう。
「1匹追加でいったぞ」
「任せなさい!」
そこには、嬉々とした笑みでダークアイアンブルを待ち受ける烈火の剣士が待っているのだから。
一閃。
炎が再び波の如く広がって、ダークアイアンブルは焼き尽くされた。
それから、俺たちはうまい具合に連携しつつダークアイアンブルを処理していく。
これ自体は、別に問題なんてない。
ミウミに対する身体強化すら使っていないのだから、かなり省エネで戦えていると言えるだろう。
対して報酬は入れ食い状態。
これほど美味しい依頼はそうそう無い。
とはいえ、報酬と魔力の支出は別問題なのだが。
魔力は常に俺が時間をかけて固形化するしか無いからな。
「こっちはこんなもんかしら」
「倒したダークアイアンブルは全部アイテムボックスに詰め終わったぞ」
「さっすが、仕事が早いわね」
結構長く戦っていたから、黒金の方ももう戦闘は終わっているだろう。
倒した魔物は、すぐに消えるわけでは無いだろうが、あっちの様子を見に行った方がいいだろうな。
というか、向こうが倒した量によっては俺の仕事はこれからの方が本番かもしれないぞ。
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