第8話 魔弾
1
「んで、こうしてダークアイアンブル退治に来てるわけだけど」
「どうした? ミウミ」
「ギルドも、アタシたちに直接依頼を持って来ればいいのに、って思っただけ。ギルドだってリクがアイテムボックス持ちなのは把握してるんだから」
なんか薄情よね、とミウミは少し怒っていた。
まぁ、そう思うのも無理はない。
ダークアイアンブルは、俺のアイテムボックスがないと余りに“惜しい“魔物になってしまう。
だからこそ、アイテムボックスを持っている俺達パーティに話を持ってくるべきじゃないか、とも思う。
「もちろん、アタシたちに配慮してくれるのはわかってるわよ。実際アタシって直情的だし、ピリピリしてる時っておっかないものね?」
「そうそう。下手すると華どころか鬼がそこに」
「がおー……ってばか!」
俺に鬼と言われて、鬼っぽいポーズをノリでとるミウミ。
流石に怒るが、どっちかというとこれはツッコミだな。
ともあれ。
「他には、どうせ俺たちに依頼を持って行っても、黒金には協力を頼むからだな」
「アイテムボックスで素材を持って帰るのはともかく、アイアンブルを二人でどうにかするにはあまりにも手が足りないものね」
今回の依頼は、黒金との共同依頼だ。
これは俺たちに話を持って行っても、黒金に話を持って行ってもそうなるだろう確定事項。
アイアンブルの確保に俺が必要なのに、大湧き相手だと俺とミウミだけじゃ絶対に手が足りない。
そこで黒金の手を借りるしかないわけだ。
「でも、もう一つある」
「というと?」
「俺が、実力をギルドに過小報告してるからだな」
「あー、そう言えばそうだっけ」
んで、これが最後の理由。
ギルドは俺が今回の件でアイテムボックスしか役に立たないと思っている。
俺が報告していないのだから仕方がないが、普段ギルドとやり取りしないミウミはすっかり忘れていたようだ。
なお、黒金のメンバーは俺が報告していないことを知っている。
ミウミの交友関係はほぼほぼ黒金の女性陣に固まっているので、彼女は俺の実力について認識し直すタイミングがない。
「本来なら、Sランク……は無理でも、Aランクだって狙えるでしょうに。Cランクで止めとくなんてリクも物好きよね」
「制度的な問題だからなぁ。黒金みたいに複数人のパーティならともかく、俺たち二人だけのパーティだと、二人ともランクを上げる意味が薄い」
何せ、パーティのランクは、一番ランクの高い冒険者に依存するのだから。
最悪俺のランクなんて、Eでも問題ないと言えば問題ない。
まぁ、体裁とかの問題もあるし、Cランクまで上げておけば依頼を受けるのにも苦労しないから、そこまでは上げてあるけど。
「それと、最大の問題」
「最大の?」
「俺は確かに強いけど、知っての通り……燃費が悪い」
「……それもそうね」
言いながら、俺はアイテムボックスからあるものを取り出した。
それは、淡い光を帯びた何かの塊。
観察すると、その塊には実体がないと気づけるだろう。
そして、それが何であるかも。
すなわち。
「そろそろエリアに入る。戦闘準備だ」
「分かってる、ダークアイアンブル相手なら、Dランクの防御弾だけで十分」
「了解、……魔弾、解放」
魔力の塊だ。
それを俺が解き放つと、俺とミウミの体に淡い魔力が宿った。
2
俺は、自分が身につけた独自の能力に、魔弾と名付けた。
魔力の弾だから魔弾。
安易といえばそうだけど、こう言うのはシンプルな方が呼びやすい。
これが何かといえば、俺が自身の魔力を固めて作ったものだ。
魔力はスキルや魔術を使うための力の源。
それを貯めて解放することで、一時的な外付けパワーアップアイテムとするのである。
これがあるから、俺は自分のことをミウミの
そしてこれは、普通の人間にできる行為ではない。
普通の人間は魔力を固めることができないからだ。
何せ、人並みの魔力を持っている人間にとって、魔力とは常に体の中を駆け巡るもの。
だが俺は違う。
かき集め、固めないと体内に感じ取ることすらできない。
しかし、ある時逆に考えた、これは使えるのではないか? と。
俺の体内には魔力なんてほとんどない。
だが、かき集めれば何とか形にすることはできる。
ならばかき集め形にして、外に放出すればそれは純粋な魔力の塊になるのではないか。
そんな考えから、試行錯誤して出来上がったのが、今の他人に魔力を付与してバフする戦い方。
俺は貯めた魔力を、冒険者ランクに沿ってEからAに分類した。
さらには魔力に思考性を持たせることで、効果にもある程度バリエーションを持たせることにも成功。
今使ったのは、Dランクの防御弾と呼ばれるもの。
効果は、どんな攻撃も一度だけなら防いでしまう魔力の盾。
ただ、どんな弱い攻撃を受けても魔力のバランスが崩れて壊れてしまう縦でもあるが。
不意打ち対策としては非常に扱いやすい。
今回みたいな乱戦になりかねない状況で、ミウミが敵を圧倒できるなら最善のバフと言えた。
そんな便利な魔弾だが、一つ欠点があった。
あまり多くの魔力を保持しておけないのだ。
他人に明け渡そうにも、魔力はしばらく放置すると霧散してしまう。
そこで、アイテムボックスが必要だったのだ。
スキルであるアイテムボックスは、いわば俺の体の一部であり、何より中に入れたものを保存する性質がある。
これのおかげで、魔力を保存できるようになった俺は、今ではミウミの隣に並んでも恥ずかしくない強さを持っている。
ただし、燃費がすこぶる悪い。
毎日ひたすら、魔力を固めて魔弾を作っているが、消費量はトントンといったところ。
はっきりいって、俺が正面から全力戦闘する事態はない方がいい。
そう言う類のものだった。
それでも、
「よぉし、かかってきなさい堅物牛ども! リクのバフをもらったアタシは……世界の誰よリも強いのよ!」
そう啖呵を切って、戦闘を開始するミウミの支えになれることは。
俺にとっては、何よりも幸運なことなのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます