第7話 三年前
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冒険者パーティ灼華。
ミウミとリク。
二人のことを、冒険者パーティ黒金は彼らが冒険者の街にやってきた頃から知っている。
当時の二人は十五になったばかりで、まだまだ子供といった様子だった。
この世界では十五で成人として扱われるのが普通だが、それでも一人前の大人として扱われるのはそれからもう少ししてからだ。
すくなくとも、仕事を覚えて、周囲から認められて。
それで初めて大人と言える存在になる。
その点、二人は優秀だった。
ミウミは言うまでもない。
才能の塊、この街にやってきた当初から注目を集めていた。
何せ、その年ですでにBランクの冒険者であり、Aランクへの昇格も間近という優秀さだったのだから。
灼華と黒金といえば、この街を代表する冒険者であり、ある意味アイドル的な存在だ。
だが、真に黒金パーティが評価したいのはリクの方だった。
ミウミを評価していないと言うわけではなく、ミウミはもとより黒金が評価するまでもないという意味で。
リクの方は、はっきりいって普通ならば評価に値しない存在だ。
余りにも魔力が少なすぎるのである。
人は、他人の魔力をある程度図ることができる。
その上で、リクの魔力は存在しないのではないかと言うほど極小。
結果として冒険者ギルドでは笑い物になった。
最初の頃は隣にミウミがいないと、ろくに街も歩けないレベルだったのだから。
それが逆に、リクをバカにする空気をさらに醸成してしまうのだけど。
しかし、リクは決して無能ではなかった。
むしろ冒険者として必要な能力を持ち合わせていた。
単純に彼は頭が回るのだ。
読み書きができるのは当然として、算盤のスキルを持っていないにも関わらず脳内で暗算ができると言うのは貴重なスキルである。
他にも、いろいろなことに気が回り、猪突猛進な性格のミウミが余計な衝突を生まないよう尽力していた。
ミウミがBランク冒険者としてやってこれたのは、本人の才能だけではない。
リクという支援者……否、軍師がいなければなしえなかったことだろう。
ロージは、そんなリクの影響を大いに受けた冒険者の一人だ。
当時のロージはBランク冒険者であり、黒金の中でも一パーティメンバーでしかなかった。
かつての黒金は基本的にリーダーである黒金のワンマンパーティ。
優秀なメンバーも数おおく揃ってはいるものの、基本的に黒金に頼り切りであるというのが実情だった。
皆、それでいいと思っていたのだ。
黒金であれば、問題を解決できる。
そう思っていた。
だが、そうはいかなかった。
黒金が冒険中に大怪我を負ったのだ。
結果、パーティは半壊。
死者こそ出なかったものの、黒金以外も多くが怪我を負い、中には冒険者を続けられないものまで出てくる始末。
黒金パーティは解散の危機に陥っていた。
それに助け舟を出したのが、当時Aランク冒険者となっていたミウミであった。
黒金のパーティメンバーに当時Aランクは黒金本人しかいない。
ミウミは一年と少しで、ぬるま湯で燻る彼らを追い抜いて行ってしまった。
少し、当時のミウミに苦手意識があったというのを、ロージは否定できない。
ミウミは一時的に黒金パーティをまとめ上げた。
これには、当時ミウミたちが必要としていた「アイテムボックス付与」の魔導書を手に入れるのにどうしても人手が必要だったからというのもある。
結果的に利害の一致で結成されたパーティは、黒金が復帰するまでの間活動を続け、見事魔導書を手に入れることもできた。
その時、誰よりも活躍したのは誰あろうリクである。
彼は分解しかけていた黒金のメンバーを一人ずつ説き伏せ、パーティとしてまとめ上げた。
彼がそれをなし得た背景には、ミウミのカリスマ性というバックボーンがあったにせよ。
行動したのはリク本人だ。
普段、冒険者ギルドでのリクは寡黙そのもの。
周りに何を言われても反論せず、甘んじて受け入れていることすらあった。
そんな彼が、ここまで人を動かすとは思わなかったのだ。
曰く、
「俺はミウミみたいに、他人に行動で何かを示すことはできない。でも、人が動くときに何が必要なのかわかる」
人を動かすのに必要なのは二つ。
応援と、理解だという。
ただ応援するだけではだめだ、努力の強制がモチベーションを産むことはない。
だが、理解だけでもだめだ。
そのバランスだと、リクは言っていた。
当時、ロージは娘が生まれたばかりだった。
怪我の件もあり、冒険者を辞めて手に職をつけようかと思っていた。
しかし、冒険者としてどころか、人として生きていくのに余りにも“スキル“が足りていないリクがこれだけ立派に生きているのに、自分が諦めるのは余りにも情けない。
結果、リクの影響を受けての奮起もあり、最終的にロージは黒金パーティを支えるナンバーツーにまでなっていた。
そんなロージだからこそわかる。
Sランクパーティ灼華。
その本当のリーダーは疑いようもなくリクだ。
彼がなければ、灼華は成り立たない。
だというのい、勇者パーティ……というか、勇者ケイオはそれが分かっていない。
むしろリクをミウミから引き離そうという意図すらある。
あれは、間違いなくこの街に、大きな災いをもたらす種だ。
願うことなら、その中でリクとミウミになにかしら得るものがあればいいが。
少なくとも今はマイナスばかりだよな、と。
ロージは勇者パーティに対する不快感を強めていた。
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