第6話 アイテムボックス

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「まず、ことの起こりは数日前、ダンジョンの中層で魔物の大湧きが始まった」

「ああ、それなら聞いてる。中層だから冒険者がこぞって乗り込んで、もう収まってるものかと思ったが」


 大湧き、と言うのはダンジョンの魔物が通常より多く湧いてくる現象だ。

 それはただ魔物が湧いているというだけでは表現できないほどの量である。

 だからこそ大湧きなんて名前がついているわけだが、そんな大湧きには二つの側面があった。


 一つは災害。

 大湧きする魔物の種類は様々で、時には小型、時には大型の魔物が数え切れないほど湧いてきたとして。

 それらは、とても大変な災害になりうる。

 小型の魔物はダンジョンの入り口に湧きやすく、それがダンジョンの外にまで湧いてくることもある。

 大型の魔物はダンジョンの下層にしかいないが、大量に湧いたら討伐が面倒な敵ばかり。


 対する中層は、むしろ大湧きすることがありがたいことが多いのだ。

 中層で出現するから対して強くはないし、かといって外に出るのも大変。

 倒せば素材が大呂に手に入るから、とにかく倒して美味しい敵。

 それが中層の大湧きだったのだが……


「中層にしては、かなり強い魔物だったんだ。下手すると俺たちが駆除しに行かないといけないくらい」

「そりゃまた」


 聞けば、湧いたのは下層と中層の本当に間くらいの場所だったらしい。

 その上で、湧いた魔物が下層寄りの強さを持つ魔物だったとくれば。

 中層を狩場にしているパーティは災難なことだ。

 多分、ろくに確認もせず突っ込んで、仲間に被害が出たパーティとかいるんだろうな。

 ちなみに、大湧きで発生する魔物は一種類に固定される。


「んで、ギルドが俺の方まで話を持ってきた。もちろん黒金としては受けるのもやぶさかじゃなかったんだが……湧いた魔物が魔物でな」

「出たな、どんな魔物だ?」

「ダークアイアンブル」

「わお」


 そりゃまぁ、俺に話を持ってくるよなと言う感じ。

 ダークアイアンブル。

 その名の通り牛の魔物だ。

 体を鉱石で覆われた頑強さと、凄まじいスピードから繰り出される突進は並の冒険者なら食らっただけでミンチになるという。

 下層での強さはありふれているが、その硬さはある一定の強さがないと勝てない敵。

 中層では荷が重い。


 だが、本質はそこではない。

 ダークアイアンブルは下層では見かけたら絶対に逃すなと言われている。

 大当たりの魔物だからだ。

 何せボディは鉱石で覆われている。

 大半は銅や鉄などの普通の鉱石だが、中には宝石の原石が混じっていることがある。

 そもそもその銅や鉄ですら一つの鉱脈だ。

 しかもそんなボディの中にある肉が美味いとくれば、誰だって狩る。


「何だったら、中層の奴ら無理に狩ろうとして被害を出した連中もいるんじゃないか?」

「正解、おかげでギルドはダークアイアンブルが街に被害を出すんじゃなくて、無謀な冒険者がダークアイアンブルに殺されることを防ぐためにダンジョンの一部を閉鎖する始末」


 まぁ、冒険者ってのは短絡的だからなぁ。

 目の前に宝の山があると分かったら、後先考えないやつは出てくるだろう。

 その反対に位置するのが、目の前に攻撃できる奴がいるからと俺を罵倒しようとする行為だな。

 どちらもただのバカであることに変わりはない。


「じゃあ、分かったよ。黒金の狩に協力すればいいんだな?」

「ああ、お前のの力をかしてほしい」


 アイテムボックス。

 それは、誰もが憧れる夢のスキル。

 荷物入らずに保存庫入らず。

 アイテムは無限に入れれるし、入れたアイテムは傷まない。


 そして、このアイテムが傷まないと言うのがポイントだ。

 ダークアイアンブル、一体なら大当たりだが、大量発生するとなると問題だ。

 何せ、倒したダークアイアンブルを持ち帰ることができないのだ。

 一定時間ダンジョンにダークアイアンブルを放置しておくと、ダンジョンがダークアイアンブルを消してしまう。

 どうしてそうなるんだかは、はっきりと分かっていない。

 まぁ、こう言う状況でなければ、死体なんてあっても困るんだが。


 そこでアイテムボックスだ。

 これなら倒したアイアンブルを余さず持ち帰れるし、何より中に入れてしまえば肉が傷まない。

 新鮮な状態での査定となれば、ギルドの買取も高額になる。


「よーし、これで大儲けだ。しばらく黒金も灼華も遊んで暮らせるぞ」

「んー、うちはもう少し貯めたいかな。勇者の件でこの街に居られなくなったら困るし」

「あー……なんか、悪いな」

「いやいや、いいんだって! それに、むしろ拠点を移すための資金をこれで賄える。大助かりだよ」


 ほんと、勇者パーティの件がなければこんなに美味しい依頼もないのに。

 ギルドだって俺がアイテムボックスのスキルを持っていることは知っているが、直接灼華に依頼は出さなかった。

 これには複合的な理由があるんだけど。

 一番の理由は、勇者パーティの件でピリピリしてる俺たちに気を使ったんだろうな。


 ん? 俺はスキルを持ってないんじゃないかって?

 ああ、それなら答えは簡単だ。

 俺が持ってるアイテムボックスのスキルは、後付けだ。

 なんと、一部のスキルは最初持っていなくても後からつけれるのである。

 後付けするためのアイテムは、それはもう高額なものだけど。

 それでも、つけて良かったと俺とミウミは思っている。

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