第5話 黒鉄パーティ

 1



 俺が活動拠点にしている街には、二組のSランク冒険者パーティがある。

 この街は大きなダンジョンを中心とした冒険者の街で、活動する冒険者は多い。

 下はE、上はA、特別ランクとしてS。

 それらの階級の中で、Sランク冒険者パーティが二つもあるというのは、多いか少ないかでいえば多い方に入る。

 何せ、どれだけ大きな冒険者の街でも、Sランク冒険者パーティは普通多くて一つだけなのだから。


 これには一つの理由があるのだが。

 そんなSランク冒険者パーティのうち一つは言うまでもなく俺とミウミのパーティだ。

 パーティ名はミウミの二つ名をとって灼華ひゃっか

 正確には、個人でSランク冒険者であるミウミが、俺以外とはパーティを組んでいないと言うのが正しい。

 冒険者パーティとは、所属する冒険者の一番高いランクでパーティとしてのランクが決まる。

 なので、Sランク冒険者パーティが二つある理由の一つは、これだ。


 で、もう一つのSランク冒険者パーティ。

 それが黒金。

 こちらもリーダーの二つ名から取られている。

 ロージはそんな黒金のメンバー、蒼狼のロージ。

 彼もまた、Sランク冒険者である。

 黒金のSランクは彼と黒金の二人。

 実質、この二人がパーティの中心人物ってわけだな。


 そんな黒金と、俺たちはかれこれ三年ほどの付き合いになる。

 ロージたちがまだAランク冒険者だったころだ。

 そこには、色々な一悶着とか大事件があったりするわけだが。

 今はそういった間の話は抜きにして結論から言うと。

 俺たち灼華と黒金は良好な関係を築いていた。

 なんで一緒のパーティを組まないの? となってしまうくらいに。


 まぁ、その理由はなんてことはない。

 俺とミウミが、二人でパーティを組むことを選んだからだった。



 2



「いや、この間は災難だったな」

「本当だよ、まさか何のアポもなく勇者様が直接スカウトしてくるとは」

「ははー、そりゃあ勇者様、よっぽどミウミの嬢ちゃんに惚れ込んだみたいだな」

「やめてくれ、真剣に。俺はミウミのパートナーなんだから」

「それを本人に言ってやりなよ、普段からツンケンしてるんだからさ」


 言ってるし、ツンケンしてるのも周りに人がいる時だけだよ。

 とは、口にしない。

 ロージは俺の失言……もとい惚気を狙っているのだ。

 それを肴に俺たちを揶揄うために。

 そうなった場合、被害を受けるのは俺だけではないからな。


「とにかく、勇者パーティのことはとりあえず、今のところはあれ以降何もない。ギルドからもだ」

「ま、そこはギルドの方か、勇者様のお目付役殿が上手く宥めていると思いたいね。詳しくギルドの方には聞いてみたかい?」

「何とも言えない感じだな。関わったら損をするのはギルドだって同じだ。対応を決めあぐねてるんだろう」

「まぁ仮にもこの街の顔なんだし、差し出したりはしないだろうけど」


 要するに、勇者パーティは不気味な沈黙を保っていた。

 普通ならあんな大恥晒したら、この街にはそう長く止まらない。

 その日のうちに出て行くことだってあり得るだろう。

 だと言うのに連中はそのまま動かない。

 これを不気味な沈黙と呼ばず、何と呼ぶ?


「これが差し出すのがミウミの嬢ちゃんじゃなくて、リクの方だったら案外ギルドも差し出してたかもな」

「笑えない冗談だな。そもそも、仮に他のSランク冒険者を差し出してことを収めてもらうとして、最有力はロージだろ」

「……そう言えばそうじゃん、やっべ」


 なんて冗談を言いながら。

 実際、この後勇者パーティが強権を発動したとして。

 ギルドが日和った場合、代替案として別のSランク冒険者をスカウトしないかという話にはなるはずで。

 そうなったら、この街で三人しかいないSランク冒険者のうち、パーティリーダーではないロージが推薦されるのは当然の流れだ。

 流石にロージも、それを分かった上での冗談だとは思うが。


「やっべーな……娘になんて言おう。家内にも迷惑かけるし……」

「……冗談で言ってるんだよな?」


 ちなみにロージは既婚者だ。

 奥さんも冒険者だったが、結婚と同時に引退。

 ちょうどそのころ新進気鋭だった黒金のパーティに後から参加したとか何とか。


「お、おう。とりあえず勇者パーティに関しては様子見するしかない、と。これはお嬢の見解と一致してるな」

「黒金がそう言ってたのか。なら、俺も同意見だと伝えてくれ」

「あいよ」


 黒金、もしくはロージがお嬢と呼ぶパーティリーダー。

 彼女とも俺は知り合いだが、彼女とは割と話が合うことは多い。

 おそらく、お互いにパーティの頭脳労働担当だからだろう。

 それを言うと、ミウミが二重の意味で拗ねるんだが。


「ともかく、話はそれだけか?」

「いや、もう一つある。まぁそう焦るな、これは美味しい依頼だから」


 勇者パーティに関する話は、結局のところ意見交換以上のことはできない。

 本題はおそらくこちらの方だろう。

 美味しい依頼、わざわざ黒金がうちに持ってくる依頼と言うことは。


「……なるほど、俺向けの依頼か」

「そう言うこと」


 ロージは俺に対して依頼を出しているのだ。

 それは、単純に俺のある能力が原因だった。

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