第4話 荷物持ち
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それから少し経って、俺は一人でギルドにやってきていた。
今日受ける依頼を探すためだ。
ミウミはアイテムの買い出しに行っている。
回復ポーション、魔力ポーションといった冒険に必要なものだ。
俺がいってもいいのだが、公平を謳うギルドと異なり、商店は個人経営だ。
俺みたいに、一目見るだけで魔力が少ないとわかる人間を煙たがる店員はいないわけではない。
対するギルドは、公平性を謳っているのに加えて俺がこのギルドに何度も通って顔を覚えられているので邪険にされることはない。
新人は俺のことを知らなかったりするから、煙たがることもなくはないが、そもそも俺が新人に用事を頼まなければ問題ない。
だから、俺がギルドで依頼探し。
ミウミが外でアイテムの調達。
そういう役割分担は、昔から自然と決まっていた。
ただ、たまにいるのだ。
ミウミがいない時を狙って、声をかけてくるバカが。
「おおっと、“
突然、横から罵倒された。
チラリと視線を向けると、いかにもチンピラといった様子の男が一人。
こいつ、一人で喧嘩売りにきたのか?
最近はこういう輩も少なくなっていて、油断していたというのもあるが。
それはそれとして、一人で喧嘩を売りにくるのはウルトラバカとしか言いようがない。
灼華というのは、ミウミの二つ名だ。
Sランクになった冒険者は、ギルドから二つ名が贈られる。
それはその冒険者を象徴するものであり、本人がその二つ名を受け取ったら、一般的には二つ名で呼ばれることとなる。
ミウミ嬢、なんて呼び方をするのは冒険者ではない余所者だけだ。
そして、俺には二つ名がない。
単純に俺がSランク冒険者ではないからなのだが、結果としてそれが一部の冒険者にとって俺を攻撃していい材料として扱われたことがあった。
結果、俺は俺の能力も相まって、荷物持ちと呼ばれることとなる。
とはいえ、この荷物持ちという呼び方は、正直俺のようなSランク冒険者とパーティを組むSランクではない冒険者に使われる一般的な侮蔑の言葉だ。
荷物を持つ以外に取り柄がない、というのと。
そういう冒険者は、荷物を持つためのスキルを持っているというのがある。
出なければ、Sランク冒険者が下位ランクの冒険者をパーティに加える理由がないからな。
俺もそうだ。
まぁ、俺の場合は後付けなんだけど。
「ここはガキのくるところじゃないぜ、荷物持ち。せいぜいママのおっぱいでも吸って、大人しくしてろよ」
「……」
煽ってくる男を無視して、俺は依頼を探す。
正直、今日は不作だな。
あまりいい依頼がない、美味しい依頼は少し前にまとめて片付けられてしまったのだろう。
前に俺たちが受けた依頼もかなり実入が良かったからな。
閑散期というべきか、こういう時は素直に魔物討伐をメインにダンジョンを探索するのがいい。
「おい、無視すんじゃねぇ荷物持ち!」
こんなことなら、いっそギルドになんて来なければ良かった。
そうすれば、こういうバカに声をかけられることもなかったというのに。
「全く、こんな雑魚をパーティに加えるなんざ、灼華様もどうかしてるぜ」
……おい、こいつ。
ミウミをバカにし始めたか?
「聞いてんのか? あの赤髪の女も、バカだよなぁ。こんな無能を連れ回すなんざ」
バカは更なるバカを重ねていた。
ふざけるな、と言いたい。
ミウミを愚弄することもそうだが、それを人のいる場所で堂々と口にすることに対してだ。
何故か。
こちらのメンツを潰す行為だからだ。
冒険者というのは個人商売、それも実力主義の険しい世界だ。
そんな世界で、直接自分をバカにされてスルーした、となったら冒険者の面目は丸潰れである。
ここがギルドの中というのもよくない。
これを無視したら、俺だけでなくミウミの評判にまで傷がつく。
俺のことはいい。
否定しようがないからだ。
俺は一般的に無能で、ランクだってミウミには及ばない荷物持ち。
そう言われるところまでは、いい。
だが、ミウミをバカにしたとなったら、そうもいっていられなくなる。
「……なぁ」
だから、こうなってしまった以上、俺はこいつを潰すしかない。
潰せるかどうかでいえば、潰せる。
俺にはそれだけの能力がある。
無能だが、魔力もカスしかないが。
俺は決して弱くない。
ミウミと努力を重ねてきたからだ。
だが、だからこそその努力をこんなことでひけらかしたくはない。
何より、もう一つ。
俺の強さは……
「はい、そこまで」
と、呑気な声が聞こえた。
だが、同時に威圧感のある声だ。
「な、ひっ!?」
俺をバカにしていたバカが、その声の主を睨もうとして失敗した。
相手が相手だったからだ。
「これ以上は、お互い引けなくなる。ここは俺の顔に免じて止まってくれないかな?」
「え…Sランク冒険者パーティ“黒金“のロージ!? なんでここに!?」
「いやいや、俺も冒険者なんだから、こうやってギルドに来たりもするっしょ」
軽薄そうな、呑気な声のおっさんだ。
無精髭が何故かやたらと似合う男である。
「俺はリクに用事があって来たんだ、悪いがただ罵倒するだけなら、俺に譲ってもらえないか?」
「あ、え、……くそっ!」
と、そのままおっさん……ロージはチンピラを追い返してしまった。
「ロージ、助かった」
「いいのいいの、こないだのアレで、暴走したバカがそろそろリクに声をかけると思ってたんだ」
ロージは、俺の友人だ。
バカのせいで騒動を起こさなくちゃいけなくなっていた俺を、見かねて助けてくれたのだろう。
こっちが何も悪くなくても、騒動を起こした時点でギルドには色々と報告しなくちゃいけなくなるからな。
本当に助かった。
ともあれ、
「この後、時間ある? 少しリクに話があんのよ」
ロージも俺も冒険者。
助け合いの精神は大事だが、同時に同じ仕事に従事するビシネスの相手でもある。
多分話しかけた理由の半分は……あの、勇者パーティに関することだろうな。
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