第2話 リクとミウミ

 1



 俺、リクとミウミは二人で冒険者をしている。

 故郷を二人で飛び出して、自分の身一つで冒険者になった。

 典型的な冒険者の経歴をもつ、普通の人間だ。


 ただし、ミウミは普通ではない才能を持っていた。

 普通の人間とは比べ物にならないスキルの量と、魔力量。

 どちらか一つでも天才と呼べる部類なのに、どちらも有しているのはまさしく神の才といえた。

 故郷にいた頃から、神童と呼ばれ将来を嘱望されていたミウミ。

 そんなミウミが故郷を飛び出して冒険者になることを選んだのは……まぁ、有り体にって俺のせいだ。


 ミウミの豊富な才能に比べて、俺はもはやミソッカス程度の才能しかなかった。

 何せ、スキルがない。

 一つもないのだ。

 人間なら誰しもが持っているだろうと言われる、身体強化のスキルすらない。

 それがないのでは、田舎だった故郷では働くことすらままならないのだ。

 無能、と呼ばれ蛇蝎の如く嫌われるのは自然な成り行きと言えた。


 だが、それだったら冒険者になるのはさらに無茶じゃないか? と普通は思う。

 もちろんそれはその通りなのだけど、まぁ俺だってただ無能でいたわけじゃない。

 ミウミが俺の努力を信じると言ったのだ。

 それに応えるため努力した俺は、まぁ冒険者としてならミウミと一緒にやっていけるある能力を手に入れた。

 これは俺がスキルを持たず、魔力も本当に微細な量しか持たないから手に入れられたもの。


 しかしそれはそれとして、俺がスキルを持たず魔力もほとんどないことに変わりはない。

 側から見れば、ミウミに“寄生“していると言っても否定できたものではないのだ。

 もちろんミウミも俺もそうは思っていないし、俺は間違いなくミウミの活動に貢献しているのだが。

 そんなこと、あの勇者様に言ってもわかってもらえるわけはないよな。



 2



「もう、リクも何か言い返しなさいよ!」

「あの場で俺が何を言っても、勇者様の不用意な発言を引き出して、ミウミを怒らせるだけだと思うけどな……」

「最終的には一緒だったじゃない。遅かれ早かれよ! だったら、何も言わず好きにさせておく方が癪だわ」


 夜。

 俺たちは適当な定食屋で夕飯を済ませていた。

 あの時、時刻はすでに夕方で、俺たちはダンジョンでの冒険を済ませた後だった。

 夕食をギルドで済まそうと思ったのだが、そこにやってきた勇者パーティ。

 あの一悶着のあとでギルドに居座れるほど、俺たちは厚顔無恥ではない。

 結局、ギルド以外の定食屋でこうして夕飯を食べることになったわけだ。


 まぁ、そのことがさらにミウミの機嫌を損ねているわけだが。

 なぜ自分が彼らのせいで周りに配慮しなくてはならないのか、と。

 ただ、俺としてはそんなミウミの怒りをありがたく思っていたりもする。


「それに、俺が怒らなくてもミウミは怒るべき時に怒ってくれる。ミウミの姿勢があるから、俺はとても助かってるんだよ」

「うう……そうだけどぉ」


 あの会話の中で、俺は何度勇者から侮蔑……とは少し違うけれど、鋭い視線を向けられたかわからない。

 その度に俺はこう思ってしまうのだ。

 、と。


 それは、過去に何度もそういった侮蔑や罵倒を投げかけられた結果だ。

 自分のことを理解しようとしない人間に、どれだけ意識を向ける必要があるだろう。

 向こうがそうしようとしないのに、わかり合おうとするのは無駄なことだ。

 お互いにとって利益がないことへ時間を割く必要はない。

 俺は、そう考えるようになってしまっていた。

 無論それは、過去の経験トラウマになっているというのもあるだろうが、どちらかというと周囲に対する失望の方が感情としては大きいだろう。

 その筆頭が、俺の両親だったのだから尚更だ。


「リクが怒れないなら、アタシがその倍誰かに怒るわ。理不尽が降りかかるなら、リクの分までアタシは戦う」

「ありがとな、ミウミ」

「ううー……それ、正面からいうことじゃないわよ」


 顔を真っ赤にしながら、頼んだ料理をパクつくミウミ。

 他人から称賛の言葉を向けられることの多いミウミだが、親しいと思っている相手から褒められると恥ずかしがるところが昔からあった。

 こういうところは、多分いつまでも変わらないんだろうな。


「そして、ミウミが何かと戦うと決めたら、俺は全力でそれをサポートする。今までと何も変わらない。俺はミウミの荷物持ちなんかじゃない。ミウミを最強にするための支援者バッファーだ」

「……うん」


 そして俺も、ただミウミに守られているだけではない。

 ミウミを支え、鼓舞するのが俺の戦い方だ。


「それはそれとして、アタシたちがただ一方的に損するだけっていうのも、気に入らない」

「まぁ、そうだな。勇者パーティへの参加を断った以上、国は俺たちに悪印象を抱く」

「最悪、どんな報復をしてくるかわかったもんじゃない。そうなったら、アタシたちは国の外に行くしかないわ」


 とはいえ、国から出ていけばいいだけなのだから、それはそれで気楽なものだが。

 俺たちには、自分自身以外に俺たちを縛るものは何もない。


「せっかく、今借りてる部屋を買い取るお金も貯まったのに」

「買い取った後じゃなくて良かったと思おう。それに……」

「それに?」

「多分、こっちが一方的に損するってことは、ないと思うぞ」


 あんな人目があるところで、スカウトを断られたのは、勇者パーティにとっても痛手だっただろうな、と俺は考えるのだった。

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