スキルがなくて無能だと罵られた俺、唯一の理解者である幼馴染と努力を続けた結果二人で最強になる。Sランク冒険者になった幼馴染は勇者パーティに勧誘されたけど俺のことが好きすぎて勧誘をすげなく断っています。
暁刀魚
第1話 発端
1
「お前みたいな役立たずの無能、生まれてこなければよかったのに」
この世界には魔力とスキルがあって。
人は何かしらのスキルと、それなりの魔力を持っているのが当たり前な世界。
「魔力もスキルもないなんて、本当にあり得るの? 生まれてきたのが間違いだったんじゃない?」
俺には、そんなスキルが何もなかった。
魔力だって、ないよりはマシ程度のもの。
普通の人の百分の一程度という、とんでもなく少ない量だ。
「無能」
無能。
「無能、ゴミ、畜生の方がまだ役にたつ」
無能、そう何度呼ばれたことだろう。
それよりも酷い言葉を、何度浴びせかけられたことだろう。
彼らにとって、俺は攻撃してもいい的だった。
好きなだけバカにして、罵倒して、見下してもいい相手だった。
そして、それに反論する術のない俺は、甘んじてそれを受け入れるしかなかったのだ。
「違う!」
彼女に、
「リクは無能なんかじゃない! 役立たずなんかじゃない!」
そう、言われるまでは。
「それはあんた達がリクを知らないだけ! リクは凄いやつだし、アタシはリクのことを信じてる!」
俺には幼馴染がいた。
生まれた時から一緒にいて、幼い頃は一緒に育ち。
俺が魔力もスキルもないと判明しても、隣にいてくれた人。
「リク! ねぇ、あんたは凄い奴なの、あんな奴ら見返してやれるくらい凄くて、かっこいいの! だから、諦めないでよ! アタシは諦めないあんたを信じてる」
その言葉は、どれだけ俺の心を慰めてくれたことだろう。
彼女がいなければ、俺は死を選んでいたはずだ。
生きる意味なんてない、価値なんてどこにもない俺が、せめてできることは死ぬことくらいだと。
でも、彼女はそれを許さなかった。
「あんたが頑張れないなら、アタシが隣で一緒に頑張る。あんたが頑張れるように応援する。アタシはあんたと一緒なら、なんだってできる」
隣に一緒にいるから、と。
俺が頑張れるように支えるから、と。
彼女は優秀な人だ。
スキルだっていっぱい持っていて、魔力量だって故郷で一番多かった。
俺なんて、目もくれる必要なかったのに。
でも、彼女はただ頑張ることを押し付けるだけのではなかった。
「……それでも、頑張れないならいいよ? あんたが頑張れないのは仕方がないこと。だから、あんたが頑張れずに逃げることを選ぶなら」
俺の幼馴染。
ミウミ。
「アタシはあんたと、どこまでだって、逃げてやる。たとえそれが地獄だったとしても」
彼女に支えられて、俺は今を生きている。
俺たちは、二人で最強になったのだ。
2
「勇者パーティにアタシだけ加われって? お断りよ!」
冒険者ギルドに、勢いの良い女性の声が響いた。
それは、誰もが彼女へ注目する中、放たれた言葉だ。
拒絶の言葉、その強い語気にしん……とギルドは鎮まりかえる。
大変な剣幕の言葉だった。
剣呑と言い換えてもいいかもしれない。
あまりにも棘のある言葉は、まさに彼女そのもののようだ。
烈火の如く燃える赤髪。
腰のあたりまで伸びたそれを、首のあたりで一本結びにした少女。
歳のころは18、少女が女性に代わっていくその最中にあって、これほど強烈な美少女はそういないだろう。
背丈はそこまで高くはない。百五十と少し。
身につけているのは、冒険者特有のマントと胸当て。
後は、膝丈の少し短いスカートが特徴的か。
鋭い目つきは、まさに彼女の気質を一目でわかるようにしている。
まぁ、彼女が一番に視線を集めるのは、出るとこが出ているスタイルなのだけど。
あまりにも発育がいいせいで、それ以外の顔立ちの幼さが目立ち、見た目以上に幼く見えるのが悩みだと常日頃から言っている。
他にも原因は、俺だけ身長が伸びて、二人でいると兄妹のように見えなくもないというのもあるだろうが。
「まぁまぁ、落ち着いてくださいミウミ嬢。何も、ミウミ嬢のパーティを侮辱する意図は俺たちにはなく……」
「同じよ! あんた達のパーティに……勇者パーティにアタシだけ加われって時点で!」
勇者パーティ。
その言葉に、再びギルドは紛糾し始めた。
一瞬の静けさが嘘のように、ギルド特有の喧騒が戻ってくる。
勇者、という存在がいる。
かつて魔王と呼ばれた存在を打ち倒し、世界に光をもたらしたという。
それから千年以上の時が流れ、魔王という存在は生まれなくなって等しい。
しかし、時折国は勇者を任命し、各地を回らせる。
人々に、国の威光が足元まで届いていることを見せつけるため、勇者が国を守護しているのだと象徴するため。
まぁ、要するに勇者パーティというのは、かつての勇者の威光を使って政治的な正当性を主張する存在と言える。
勇者パーティを輩出した派閥は、国の中で有力であるとその権勢を誇示できるのだ。
そんな勇者パーティだが、基本的に勇者は清廉潔白であり、有望な人間なら誰でも仲間に引き入れるという伝統がある。
簡単にいうと、勇者パーティその者は国のお偉いさんが企画して結成される者だが、その中に民間人の有力者をスカウトして加える必要があった。
そのスカウト対象として、俺の幼馴染で、Sランク冒険者のミウミが選ばれたわけである。
まぁ、速攻で断ったわけだが。
「いい? アタシはパーティを組んでるの、こいつと……リクと! 二人で! アタシ達は二人で一人、どっちかだけが勇者パーティに加わることなんてあり得ない」
原因は、俺だ。
ミウミは、隣に立っていた俺の手を引っ張ると、その存在を勇者パーティに見せつける。
とにかく派手なミウミに対して、俺はどこにでもいる青年といった見た目をしている。
先ほどミウミを宥めていた勇者パーティの男も、俺に対してはさほど興味を持っていないのが見てとれた。
それでも、“そいつ“ほどじゃないのだが。
「どうしてそいつに配慮する必要があるんだ?」
男が言った。
そいつは、勇者パーティの中央に立つ存在。
いうまでもなく、こいつが勇者だ。
勇者ケイオ、今代の勇者は清廉潔白と聞いていたのだが、高圧的なその態度は前評判とはずいぶん違う。
ただ、人は他人が持つ魔力をある程度見るだけで測ることができる。
勇者の魔力量は、Sランク冒険者の平均程度。
なるほど、勇者と認められるだけの実力はあるわけだ。
「勇者パーティに選出されることは、冒険者にとって最高の栄誉。それとそいつを比べて、遠慮する必要はないだろう」
「それが分からないなら、あんたには一生、アタシをパーティに加える資格なんてない!」
なんというか、世間知らずな貴族の坊ちゃんという感じだ。
確かに勇者パーティに選ばれることは、最高の栄誉。
それを断ることなんてあり得ないように思える。
だが、ミウミが何より気に入らないのは、自分の意思が通ることを当然と思って憚らない態度なのだろう。
「ま、まぁほら、ケイオ様も、ミウミ嬢も、今は一旦落ち着いて。何もすぐ結論を出してもらおうってわけじゃないんですから」
勇者パーティ、いかにも前衛といった感じの勇者ケイオを筆頭に。
先ほどからミウミを宥めている、ケイオの側近らしき魔術師。
それから、斥候と思われる軽装の男が一人。
あとは、状況をオロオロしながら見守っている、
ここにもう一人加えるなら、オールラウンダーなミウミは妥当な人選と言える。
「それじゃあ、ケイオ様。今日は一旦これで失礼して……」
なんとか、交渉を一旦リセットしようとする側近の男に対し。
ケイオはそれを受けてこちらに背を向けながらも、一言。
「その男は荷物持ちだろう、勇者パーティには必要無いじゃないか」
心底、不思議そうに側近へ問いかけた。
それが、結果的にミウミの逆鱗に触れることなど考えもせず。
「結構よ! どれだけ交渉しようと、あんた達とパーティを組むことは金輪際、一生ない! 絶対によ!」
そういって、俺に促すとその場を離れる。
俺も、その後に続いた。
――
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