第14話
悠と依頼を受け、敵組織と戦った五日後の金曜、夜頃。
突然連絡が入り、僕はアジトに向かった。
アジトのいつもの部屋に入る。そこには数人の人影があった。
いつもは一人か二人くらいしかいないのに、今日は随分と多いな。
すると正面にいるマスクを付けた男ーー竜一郎がこちらに振り向く。
「お、来たね。君で最後だ」
「竜一郎さん、久しぶりです」
初めてここに来てからしばらく会っていない気がする。
竜一郎さん、
というかあの依頼以降、悠の姿を見ていなかったけど、随分と元気そうだ。
すると、てぃあらが口を開く。
「それで、今日は何をするの?」
竜一郎が答える。
「今日はね、総力戦だ」
その言葉を聞いた瞬間、全員の顔がニヤリと笑った気がした。
総力戦ってどういうことだろう。戦争でもするのだろうか。
「ずっと忙しくてアジトに顔を出せてなかったけど、その分いい情報も得られた」
そう言って竜一郎はニヤリと口角を上げる。
「
全員の顔つきが変わるが、僕は何も分からず首を傾げる。
小鳥遊典義……初めて聞いた気がする。その人が重要人物なんだ。
竜一郎は続ける。
「そして恐らく、”透明”もいない。敵の戦力を削るには今が好機だ」
さっきから何を話しているのだろう。ずっと分からない。
すると、てぃあらが再び口を開く。
「じゃあ、
「てぃあらの言う通り。ここにいる全勢力を使って、戦いを挑むよ」
竜一郎の言葉を聞いて悠が拳を突き合せる。
「よっしゃっ! やっと全力で暴れられる!」
随分と気合いが入っている。
そんなに戦いたかったのかな。
あれ、ていうか状況が分かっていないのって僕だけ? いや、戦いになるって事は分かったんだけど、その理由がよく分からない。
「あの、小鳥遊のり……なんたらとか、透明って何のことですか?」
「陽也は最近入ってきたから知らなくても無理はないな」
中年くらいであろう見た目をした男ーー泰三がそう答える。
「小鳥遊典義は簡単に言えば
「相当凄い人なんですね」
「凄いの一言で片付けられたらどんなに楽か……それで”透明”というのは文字通り、透明化の異能を持つ超異人だ。異能の特性故、相当厄介だ」
「なるほど。その二人がいないから今行動すべきと、」
「その通りだ」
大体状況が分かった。確かに今なら僕達の方が有利なのかも知れない。
「あれ、そもそも敵のアジトって分かってるんですか?」
僕の問いかけに竜一郎が答える。
「それは大丈夫。そもそも典義は拠点を隠すつもりはないようだしね。まあ、行けば分かるよ」
多少気になる点はあるけど、竜一郎さんがそう言うなら大丈夫なのかな。
竜一郎は一度全員を見渡す。
「よし、じゃあ作戦を教えよっか」
一度溜めを作り、再び口を開く。
「チームは三つに分ける。僕と悠のチーム、てぃあらと理世と陽也のチーム、最後に泰三のチームだ」
全員が首を縦に振る。
「まず僕と悠が敵の拠点を攻める。てぃあら、理世、陽也は外に出た敵を対応して欲しい。泰三は自由に動いて上手いことやってくれ。作戦は以上だ」
……え? それだけ? てっきり敵の異能とか、細かい動きとか、そういう話をするものだと思っていた。
僕は小さく手を上げる。
「あの、ちなみに作戦決行はいつですか? 僕、今月末は学校のテストがあるんですが」
「それは大丈夫。作戦決行は今日、たった今からだよ」
「……ん?? 今から??」
僕はあんぐりと口を開いてしまう。
「さっき泰三が調査してくれてね。どうやら今日は
いくらなんでも急過ぎない? 今日集まるようにって連絡がきたんだけど。僕が用事があるって言ったらどうするつもりだったの?
……あ、僕はそこまで戦力にならないし、僕の予定は気にする必要がないのかも。
そう考えて僕は勝手に一人で納得する。
「じゃあ早速準備の出来たチームから出発しようか。悠は何か準備とかいる?」
「準備なんかいらねえ。さっさと行こうぜ」
「やる気十分だね。じゃあ僕達は先に行こっか」
そう言って竜一郎と悠は一足先にアジトを出て行く。
すると泰三が僕達三人に視線を向ける。
「俺も先に行く。準備が出来たら俺と竜一郎に連絡をくれ」
「了解っ!」
ビシッと敬礼をしながらてぃあらが答える。
それを見て泰三はアジトを出て行った。
「じゃあ私達も行く?」
「ええ、そうね」
てぃあらと理世がアジトを出ようとしたとき、僕は「待って」と二人を制止する。
「今、拳銃を持ってないんだ。家まで取りに行ってもいい?」
「あ、そっか。陽也の異能は弱いから拳銃がないとね。ちょっと待ってて」
そう言っててぃあらが部屋にある机の引き出しを探り始める。
「確かここら辺に……あ、あった!」
てぃあらが拳銃を見つけ、僕に渡してくる。
「これ、まだ使えた気がする」
「使えた気って……弾はどのくらいあるの?」
「それくらい自分で調べればいいじゃん」
「やり方分かんないよ」
「もうっ、貸してっ」
てぃあらに拳銃を渡すとそれをいじり始める。
少しして、確認を終えたてぃあらは拳銃を僕に返す。
「七発入ってるね。まあ、これくらいあれば何とかなるんじゃない?」
「う~ん、そうなのかな?」
「家に帰って持ってくるのも面倒だし、もう行こうよ。ほら、理世も早く行きたいって顔してるし」
理世に視線を送る。
普段と表情は変わっていない気がするけど……どうなんだろう? あ、今うんうんって頷いた。早く行きたいんだ。
「じゃあこの拳銃を使うよ」
「よしっ、じゃあレッツゴー!!」
てぃあらを先頭にして僕達は敵のアジトへ向かった。
◇
運が悪いな。今日に限って突然の大雨。雨はアジトを出てすぐに降った。たまたまアジトに傘が二つあったから今はそれを使っている。
ここでてぃあらが謎のわがままを発動して一人で傘を使い出し、僕と理世が一つの傘を共有している。まあ別にいいんだけど。
僕は二人に問いかける。
「ねえ、他の人は先に行っちゃったけど、歩いてていいの? 急いだ方がいいんじゃない?」
てぃあらが答える。
「急がなくていいって。走ったら戦う前に疲れちゃうじゃん」
「確かに……それもそうだね」
「別に急いでも急がなくても状況なんて変わんないよ」
そう言うてぃあらはかなり落ち着いている。
やっぱり戦いに慣れているのかな?
「あ、私こっちの道から行こっかな」
てぃあらはそのまま僕達と別の道を歩き出す。
あれ、そっちって遠回りなんじゃ……。
僕は理世を見る。
「追いかけた方がいい?」
「無視していいんじゃない? わざわざ長い距離を歩く意味なんてないし」
「それもそうだね」
皆自由だな。僕もこのくらいがちょうどいいのかも知れない。
それにしても、総力戦か。てぃあらと悠が戦っているところは見たことあるんだけど。他の人はないんだよね。
「ねえ、理世ってどんな風に戦うの?」
「私? ……氷を飛ばしたり、敵を氷漬けにしたりするわね」
「そんなこと出来るの?」
「私は氷を作って操作するのが得意だからそのくらい余裕」
「いいなあ。僕も強力な異能が良かったな」
「強力な異能……ね。そうね」
理世はそう言って俯く。
「そう言えば理世は前に
「ええ。でも、私が殺したいのは
「小鳥遊典義が凄く強いって
「一言で言えば最強の水使い。並の超異人じゃあ何人集まっても手も足も出ない。そんな存在ね」
「そんな人が敵にいたんだね。でもそんな人がいたら僕達が簡単にやられそうだけど」
僕がそう言うと理世は首を振って否定する。
「いいえ、私達はそう簡単にやられないわ」
「そうなの?」
「ええ。こちらにも典義に引けを取らない人がいるから」
「誰? もしかして理世のこと?」
理世は首を横に振る。
「私じゃない。私達で最強なのは……泰三。木村
泰三さんが最強なのか。確かにチームを決めたとき、泰三さんだけが一人だった。
「泰三さんの戦っている所を見たことがないんだけど、どのくらい強いの?」
「さあ……分からない」
理世は遠くを見ながら言う。
「分からない? どういうこと?」
「泰三は謎が多いから……ねえ陽也。泰三ってどんな見た目をしてる?」
「え? まあ、四十代くらいのおじさんって感じかな? 僕の感覚だけど」
「……私はね、竜一郎と同じくらいの年齢に見える」
……え? 何を言ってるの?
「てぃあらは泰三が女子中学生くらいに見えるらしいよ」
「何それ? それじゃあ別の人を見ているってこと?」
「いえ、別の人に見えるけど泰三本人よ。私達は皆泰三の姿を知らない。年齢も、身長も、男か女かさえも分からない。だからこそ強い。情報が何もないってことだからね」
「でも名前からして結構歳を取ってそうじゃない?」
理世は呆れたような表情を取る。
「……陽也って実は馬鹿だったりする? 偽名に決まってるでしょ」
「あ、それもそうか」
「そう。それに、泰三はどこからともなく現れる。泰三を殺すのは敵も容易には出来ない。要するに、敵の小鳥遊典義と木村泰三でお互いに責めきることが出来ないって状況だった。典義がいない今、その近郊は崩れたって事」
「へえ、そういうことだったんだ。じゃあ泰三さんがいる僕達が勝てるね」
僕の言葉を理世は否定する。
「泰三の力は一対一で本領を発揮される。今回みたいな総力戦ではどうなるか分からない」
「じゃあ僕達も頑張んないと」
「そういうこと。さて、ここからは電車に乗っていきましょう」
僕達はそのまま近くの駅へと入っていった。
ちょうど駅でてぃあらと合流し、三人で電車に乗って目的地へと向かった。
◇
電車にしばらく揺られ、僕とてぃあら、理世は目的の駅で降り、そこから歩いて行った。
しばらくして、理世が口を開く。
「着いたわ。ここが
僕は口をぽかんと開けて目の前に広がる建物を眺める。
で、でかい。巨大な屋敷だ。こんなの、僕達のアジトの比にならない。
「作戦は覚えてる?」
理世の言葉に僕とてぃあらは頷く。
「じゃあ私が裏門から出てきた敵を対応する。陽也とてぃあらは正門から出てきた敵をお願い」
「うん、分かった」
てぃあらが理世に「じゃあね」と手を振り、僕達は理世と別れた。
次第に争いの実感が湧いていて、僕は僅かに緊張を覚える。
しかし、それに反して僕とてぃあらはのんびりと歩きながら正門の方向へと向かっていた。
「もうすぐ戦いになるんだね」
「うん、そうだよ。今日は誰と戦えるのかな? ちょっと楽しみかも」
この状況でニコニコとしているてぃあらが少し羨ましい。
「それはいいけど……僕も傘に入れてくれない?」
電車を降りてからここに来るまで、てぃあらは傘を一人で使っていた。
理世と別れるまでは理世と一つの傘を共有してたけど、別れるときに理世に傘を渡しちゃったからな。今は大雨に当てられて全身が冷たい。このままじゃ風邪を引いちゃうんだけど。
「え~、でもこの傘そんなに大きくないし……まあでも陽也だからいいよ」
「ありがとう」
そう言って一つの傘を共有する。
まあ戦いになってしまえば傘なんて使えないだろうけど、今は体力を温存しておいた方がいい気がする。
そうこうしている内に正門が見えてくる。正門の前には二人の人影があった。
「あ、竜一郎と悠じゃん! やっほ~」
てぃあらはぶんぶんと手を振る。
それに竜一郎と悠が気づいたようだ。
竜一郎は手を振り返し、悠は無視をする。
「相変わらず悠はつれないなあ。手を振ってくれてもいいじゃん」
「竜一郎さん達は正門から入っていくんだね。すぐに気づかれる気がするんだけど」
「別に気づかれても良いんじゃない? どうせ戦いになるし。私達はどうしよっか?」
「う~ん、とりあえず建物の陰とかに隠れとけば良いんじゃない?」
「陽也の意見、採用! 適当に隠れとこっか」
そう言って僕達は一般の建物の裏に身を隠す。
ここからなら正門が見えるし、遠すぎもしないから敵が現れても対応できるかな。まあこういうのに慣れてないからよく分かんないけど。
すると、スマホの通知音が鳴り、スマホを手に取る。
竜一郎さんからのメッセージだ。グループチャットに送られている。あれ、いつの間にグループチャットに入ってたんだろう?
ていうか、今から入るよって……随分と気楽なメッセージだな。
てぃあらもメッセージを見たのか。スマホをポケットに戻す。
「やっと始まるね!」
「うん、そうだね」
もしかしたら敵は正門から出てきたすぐに戦いになるかも知れない。裏門から出て行って僕が戦うことはないかも知れない。
ふと手が汗ばんでいることに気づく。
どんどん緊張が膨らんでいく気がする。
すると、正門の前にいた悠は竜一郎を抱えて高速でジャンプし、正門を飛び越えて中に入っていった。
始まった……戦いが。
僕はじとっと湿った手を服で拭い、その場で待機した。
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