21 横領疑惑
「こちらは、レギーナ・フィルスマイヤー少佐」
少女たちに彼女を紹介する。
「わあ、きれいな人」とソフィーが思わず言った。
「よしてください」
フィルスマイヤー少佐は、少し恥ずかしそうにした。さすがに面と向かって言われるのには慣れていないようだ。
「こっちは……アンヌ、マリー、ニコル、そしてソフィー」
どう説明したらよいのか分からず、名前だけを伝えた。
「みなさん、よろしくお願いします」と、また敬礼した。
「少佐はどこまで知っているんですか?」
「はい、大佐」
「もういいですよ。きっと、これで終わったんでしょ?大佐も、もうおしまいです」
「分かりました」
「あの、大佐?」
アンヌが不安そうな視線を向けた。
「実は、私は大佐ではないんだ。シュミット少佐の上司でもない。調査のために来ただけの経理課の人間なんだ」
「どうりで尾行も満足にできないのに、やけにお金に細かいわけだ!」
マリーはすぐに順応する。
「すまない、みんな」
彼は素直に頭を下げた。
「まあ、嘘はお互いさまですから」とアンヌが応じた。
「先ほどから少佐は彼女たちに驚いていない。こんな場面に少女が偶然居合わせるとは考えられないのに」
「そうです。彼女たちのことは、最初から知っていました」
「最初から?」
「はい、皇国軍の諜報機関は優秀です。シュミット少佐が撃たれて亡くなったことも、その実行者が戦争孤児の一人でミシェルという名前だったということも、その後、四人が協力してシュミット少佐の代役を務めていることも」
「すべて知っていて、私に調査させたんですか!」
フレンゼンは死にかけたことを思い出した。
「申し訳ありませんが、その通りです。クヌート閣下の命令によって調査はすでに完了していました。そこにベッカーを経由して、フレンゼンさんがシュミット少佐に疑いを持ったとの情報が上がってきたんです」
「ベッカー大尉は?」
「彼は、この件では部外者です。というか、ベッカーには別件の容疑がかかっていました。横領です。それだけではありません。シュミット少佐の恩賜の銃を、どうやら奪い取った件。無抵抗の民間人を数多く虐殺した件。それらには確たる証拠がありませんでしたが、こうして複数の証人を得ました」
フィルスマイヤー少佐は、腕を広げて少女たちを示した。
「そうか、経理課の人間が近づいてきたのは、シュミット少佐の件を口実にした横領疑惑の捜査だと勘繰ったのか」
「はい、だからあなたは命を狙われた」
「危ないところでしたよ」
「ベッカーの行動はこちらで把握していました。フレンゼンさんを殺させてはいけない、だが、あなたはギリギリになっても人を撃てないだろう、ともクヌート閣下はおっしゃっていました」
「そこまでお見通しだったんですね」
「私はこれでも射撃の腕は同期で二番目でした。一番の人間が経理課に行ってしまったので、いまは一番ですが」
「へえ、尾行はダメだけど、銃はうまいんだ」
またマリーが茶化す。
「しかし、銃の腕だけで少佐が派遣されたわけではないでしょう?」
射撃能力だけなら、もっと下っ端でも十分だろう。
「はい、クヌート閣下から決裁権を預かってきました。調査は完了していたのに、何も手を打てなかったのは、彼女たちの扱いを決めかねていたからです」
室内の温度が急降下したようにフレンゼンは感じた。
「ちょっと待ってください」
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