09 王都捜索
フレンゼンは、再びジャックの店を訪ねた。店にはアンヌとソフィーがいた。どうやら何人かで交代しながら店番をしているようだった。
アンヌに取引先をいくつか教えてもらい、それらを訪問することにした。叔父の行き先に心当たりはないか、と聞いて回ったが、満足のいく回答を持っている者は誰もいなかった。
この行動の中身には意味がない。だが、王都に出てきた甥モーリスが、叔父ジャックの行方を探さないわけにはいかない。
そして、行動している、ということには意味があるのだ。ジャックという名の王都市民が実在しないこと、実在しない叔父に甥などいるわけないことを知っている人間が、必ずいる。
フレンゼンは、無駄とも思えるジャックの捜索をしながら、何かことが起きるのを待っていた。
訪ねなければ不自然だと思われる場所はすべて訪ねた。しかし、まだ期待しているようなことは起こらないままだ。
ジャックが営む雑貨屋から少し離れた場所に酒店がある。
「ジャックさん、そう言えば最近見てないね。でも、あそこの店は、何人も看板娘がいるから商売の方は大丈夫だよ」
シモーヌ・シャラメは大袈裟に笑ってみせた。
「ああ、一人くらい、うちの店にほしいくらいさ」
「ほんとだねえ、みんなよく働くしね」
ダニエル・シャラメの冗談にシモーヌが応じた。
「二、三年前から働いているそうですね」
フレンゼンは、話を少し続けるためだけに何気なく聞いた。
「そうそう、なんでも戦争孤児たちを引き取って、何年も面倒を看ていたらしいよ。少し大きくなったからって、自分たちも働きたいって言い出したんだって。ジャックさんも偉いけど、あの子たちも偉いねえ」
「真面目を絵に描いたような男で、それまであんまり笑ったところを見たことなかったがね、あの子たちと一緒に働くようになってからは、ジャックさん、笑顔が多くなったよな」
「そうねえ、店もなんだか明るくなってね」
「そうですか。あの叔父が笑顔で働いているところ、早く見たいものですね」
ふと、違和感を覚えた。
数多くの密命を帯びて行動していたシュミット少佐が、戦争孤児を、それも何人もの戦争孤児を引き取ったりするだろうか。戦時に軍人であった者は、戦争孤児を生む責任を大なり小なり負っている。少佐が罪の意識を軽減することを目的に、彼らに援助の手を差し伸べることは、それほど不自然ではないだろう。具体的には、戦争孤児のための施設を作るとか、すでにある施設に人知れず寄付をするとか。しかし、自分の手で育てようとするだろうか。
ジャックの店はそこから見える。その日は、マリーとソフィーが当番のようだった。
疑いの心を持つと何でも怪しく見えてくるものだ。前日までは健気で働き者の少女たちだと思っていたが、何か秘密を抱えているように見えなくもない。主がなかなか帰ってこない店で、細々と立ち働いている様子は健気ではあるが、妙でもある。
「同じ年頃の女の子が四人もいたら、叔父もそれなりに大変でしょうね」
「あれ、四人だったかね?五人だったような気もするけど……」
シモーヌは、主不在のジャックの店の方を見た。
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