第25話 妹は恋愛対象になり得ない。だが妹に恋愛対象はいて欲しくない。いや、断固許さん

「――にいに起きて」


 意識の彼方に妹、芽玖めぐの声が響いている。いやいや、夏休みだぞ。もう少し夢の世界を楽しんでもいいじゃないか。


「――にいにってば」


 だから眠いんだって。いいじゃん、昼まで寝たって。学校ないんだから。


「みんな来てるよ!」

「……え?」


 そうだ、麗奈の別荘行くの今日じゃん! がばっと起き上がり、時計を見ると11:00過ぎ……集合時間10:00なのに。やってしまった。

 少しだけ言い訳させて欲しい。俺は昨夜、夏休みの宿題RTAに挑戦した。サイデリアから帰宅し、机の前に座った20:08から計測開始。自称進学校は宿題がめちゃくちゃ多い。だが、俺は寝ずに宿題をこなし続け、すべて終わったのは翌日19:49。24時間以内に完了するという大記録を達成したわけだ。そして、そのままベッドに飛び込み……いまに至る。


「えっと、とりあえず荷物を持って――」

「荷物はここにあるから大丈夫。にいには早く着替えてきて」

「おお、助かる……って、なんで2人分?」


 芽玖の前にはピンクと黒の旅行用カバンが置かれていた。一つは芽玖のものだ。


「何言ってるの? 私も一緒だよ」

「え? なんで」

「いや、なんでって――」


 ピンポーン


「がっくん早く~」


 チャイムを鳴らし、俺をせかす松江の声。とりあえず準備するか。

 急ぎ身支度を済ませ、荷物を持ち、芽玖と一緒に家を出るとそこには……


 でっかい車が停まっていた。


※※※


「ははは。委員長でも寝坊とかするんだな」

「昨日徹夜してしまって……」


 とはいえ、午後8時にベッドに入り、起きたのが午前11時ということは15時間近く寝ていたことになる。しかも、これでもう少し夢の世界を楽しまうとしていたのだから……睡眠負債って恐ろしい。


「あんまり無理しちゃだめだよ、がっくん」

「うん、気を付ける……ところでどうして俺の妹がいるんだ?」


 涼音と松江の間に普通に挟まれているけど。2人にめっちゃよしよしされてるけど。俺は聞いてないぞ。


「私が誘ったのよ。愛北の可愛い後輩ちゃんだからね」

「えへへ。麗奈ちゃん大好き。でも涼音さんと萌奈さんも大好き~」


 お姉さんたちに囲まれて、妹の機嫌がとてもいい。

 麗奈経由で誘われたのか。たしかに芽玖は麗奈を崇拝しているからな。まあ憧れる気持ちもわかる。愛北のトップで、人望もあって、さらに美人。憧れるのがむしろ健全だ


「芽玖がいる理由はわかった。それで、そこの彼は……たしか村雨の弟だよな」

「はい! 村雨沙羅の弟の世羅です。よろしくお願いします」


 車の中でもきちんと頭を下げるイケメン。祭りの日、村雨を病院に連れてった時に会ったな。それに世羅って名前、どこかで聞いたような……あ! 芽玖にRainsのDVDを貸してた――


「世良くんは私のクラスメイトで、お友だちなの」


 やっぱりそうか。村雨の弟も愛北だったとは。

 しかし、芽玖のであるならば、俺は彼に大切なことを伝えておかねばならない。


「世羅くん、だったかな」

「はい」

「お前に妹はやらん」

「ちょっと、弟に何言ってくれてるのよ」


 後ろに座っていた村雨に頭を叩かれた。なんだよ、過保護か?


「委員長、妹大好きかよ。過保護か?」

「過保護じゃねえよ。兄の務めだ」

「にいにうるさい」


 芽玖に注意されてしまったが、変な男に騙されたりしたら大変だからな。俺がしっかりと見てやらねばならない。


「それで、松江はなんで2人が来ること隠してたんだよ」

「だって~、その方がおもしろいじゃん?」

「いや、おもしろくねえよ」


 そもそもどうして身内の俺は気づかないんだよ。芽玖もしっかり準備してたのに。こんな激狭な視野で、俺は本当に妹を守れるのか……?


「あ! 見えてきたよー」


 涼音の声に、みんなが窓の外を見る。別荘もやっぱりでけえな。


「学、楽しみだね」

「そうだな、涼音」


 友だちと宿泊なんて初めてだ。

 

 わくわくしてきた。


※※※


 別荘に着くと、さっそくプールに入ろうということで、みんな水着に着替えに行った。だが、反運動思想に染まった俺は当然泳ぎも嫌いなので、水着など持ってきてはいない。とりあえず一足先にプールに移動した。

 お、サマーベッドあるじゃん。昨日は15時間寝たけど、寝すぎると一周回って逆に眠いんだよな。


というわけで、おやすみなさ~い。


―――――――――――――

次回は水着回♪

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