第23話 好きな女の子が普段より肌を出していると目のやり場に困る

 さて、愛北模試から一週間が経過し、日曜日の朝である。

 あれから涼音ともこれまで通り話せてはいたけど、妙に意識してしまって心臓がバクバクだった。勉強にもまったく身が入らない。頑張らないといけないのになあ。


 まあ、それはいったん脇におこう。いまの俺にはやるべきことがある。

 ベッドを脱出し、納豆でご飯を食らい、歯を磨くと、テレビを付けて正座待機だ。プニキュラも20話も超えいよいよ中盤の山。どんな新技が飛び出すのか、敵味方共に追加キャラはいるのか、わくわくが止まらないぜ!


『碧谷デパートに、プニキュラがやってくる~! みんな遊びに来てね』

 

 CM中に素敵なお知らせが……! 俺の街にプニキュラが来てくれるなんて。え、どうしよう。めっちゃ行きたい。


「にいにおはよ~」


 目をこすりつつリビングにやってきた我が妹。ちょうど良きだ。


芽玖めぐおはよ。あのさ、今日みどデパにプニキュラ来るらしいんだけど、一緒に行かね?」

「え~やだよ」


 即答。ぴえん。大好きなにいにの誘いをあっさり断るなんて。


「そう言わずにさあ。昔は喜んでついてきてくれたじゃん」

「あのね。私もう中学生だよ。プニキュラショーで喜ぶような歳じゃないの」


 じゃあ俺はいくつ? プニキュラに年齢なんか関係ないよ?


「あ、それと今年は映画も行かないからね。去年にいにと行ってるの友だちに見られて、すっっっごく恥ずかしかったんだから」

「そんな……。じゃあ俺は、お母様方に警戒されながら、小さくなってプニキュラを応援するしかないのか……」


 あんまりだ。妹がいるだけで、俺は付き添いのお兄さんになれるのに。


「にいに、女の子のお友達たくさんいるんだから誘ってみればいいじゃん。ほら、こないだライブ一緒に行ってた人とか」

「ああ、涼音か」


 たしかに愛の強い人と行った方がプニキュラの力になれる。プニキュライトの応援が足りなくて、プニキュラが負けたりしたら大変だもんな。

 けど……いま涼音を誘うのはちょっとな。一緒に映画なんて平常心でいられる気がしない。それに好意は伝えられたとはいえ、一応振られたわけだし。……ああもう、どうしたらいーーーのーーーーー。


「にいに、名前で呼んでるんだ。チャラ男め……」

「べ、別にいいだろ。ほら、プニキュラ始まるぞ」

「いや、私は観ないよ」


 と、妹が部屋に消えたので、俺はプニキュラにすべての意識を集中する。

 そして30分後。すぐに俺は鞄を持って家を出た。


 碧谷デパートはここから徒歩20分くらいのところにある。自転車ならすぐなのだが、事故が怖いので小学生以来乗っていない。俺は自分の運動能力を信じないと決めているのだ。

 デパートに着くと、建物の中央にあるステージへと向かった。既にお子様が多くいらっしゃる。当然、俺は後ろで立ち見だ。大きなお友達は小さなお友達を最優先にすること。それがルールである。


「お友達のみんなー。こーんにーちはー」

「「「こーーーーんにーーーーーちはーーーーー!!!」」」


 元気なお姉さんの挨拶に答える、これまた元気な小さなお友だち。日本の未来は明るいね。俺も心の中で返事をする。『ちわっす』


「よーし。じゃあみんなでプニキュラを呼んでみよー。せーのっ」

「ぷにきゅらーーーーーー!!!!!!!」


 小さなお友達の大きな声が響きわたる。俺も心の中で叫ぶ。『ぷにきゅらーーーーーーーーーー!!!!!』

 すると、EDソングに合わせてダンスをしながらプニキュラが登場した。オープニングにエンディングを流すのは逆に熱い。エンディングのダンスはプニキュラの大きな魅力の一つなのよ。ちなみに俺も完璧にダンシングできるが、それを人に見せることはしない。

 蘇るは俺の黒歴史。中学校の英語の授業で特技を聞かれ。I am good at dancingと答えたら、そのままプニキュラの曲を踊る空気になり、思いっきり滑ったあの記憶。Ms.キャサリン。いまだに覚えているからな。あれ以来、俺は英語が嫌いだ。


「あれ、学?」

「え? す、涼音。来てたんだね」


 白い半そでに、丈の短いズボンをはいている。気温が高いこともあり、夏らしい服装だ。制服よりも露出が多いため、つい目のやり場に困ってしまう。


「プニキュラ観てたらCMで紹介されてて、終わったらそのまま来ちゃった」

「あ、俺も同じだ。妹も誘ってみたんだけど、断られちゃって」

「学、妹いたんだね」

「うん、二つ下。前は一緒に来てくれたのになあ」

「中学生になるとプニキュラ観てる人、グンっと減っちゃうんだよね……。私の友だちも次々と卒業しちゃって寂しかったな……」

「うわあ、わかる」


 涼音とのプニキュラトークに花が咲く。趣味の話の時はあまり緊張しないで済むな。それに、めっちゃ楽しい。

 

※※※


「いや~よかった! やっぱりプニキュラショーは小さい子がたくさんいると盛り上がるね。私もちょっと声出しちゃったよ」

「うわ、めっちゃわかる! なんだかみんなで戦ってるって感じがするんだよね」


 素晴らしいプニキュラショーだった。満足感が半端ない。ピンチの時には悲鳴が上がり、応援を求められたら大歓声。やはりプニキュラの活躍には小さいお友達の声援が不可欠だ。そして、大きなお友だちはできる範囲で課金すべき! 悲しいかな、投資が無ければコンテンツは終わってしまうのだ……


「涼音はこの後どこかいくの?」

「うん。麗奈ちゃんの家で勉強するよ」

「そっか。頑張ってるんだね」

「早く学に追いつきたいもん」


 涼音は本気で俺に勝ちに来ている。俺が村雨に抱く感情と同じ。いや違う、もっと前だ。俺が昔、麗奈に抱いていた感情と同じ――


「じゃあ学、またね」

「あ、うん。また学校でね」


 涼音のことで頭がいっぱいになってる俺とは対照的に、涼音は自分の目標をしっかりと見据えてる。目を覚ませよ福地学。お前は首席だ。なんのために愛北をやめたんだよ。トップに立つためだろ。


 甘えてちゃ、だめだよな。

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