第21話 イケイケなイケイケはイケイケ!


「かんせ~い」

 

 製作開始から3日。お花がいっぱいの可愛らしい旗ができあがった。俺が貢献したのはみんなにおいしい棒を買ったことくらいだが、それでもいくらかの達成感を享受する。


「ねえねえ。みんなでお疲れ会しようよ~」

「わりぃ。俺は部活戻らねえと」


 いけ好かないイケメン、略してイケイケこと田中が言った。こいつ、部活抜けてこっち来てたのか。クラスに献身的なのか、あるいは部活さぼりの口実か……


「そっかぁ、残念。沙羅ちゃんは?」

「ごめんなさい。私も帰って勉強するわ」

「うう」


 断られるたびに松江がどんどん小さくなっていく。ちょっとだけ気の毒だ。


「……涼音ちゃんは?」

「ご、ごめんね。私も勉強しないと――」

「うわーーーん」


 松江が泣いた……って何歳児だよ。この間は悪女みたいなムーブしてたくせに。

 それにしても、今回は二人とも本気なんだな。


「もなぴちゃん、ごめんね。模試が終わったら、また遊ぼうね」

「……うん」


 完全に小さい子をあやすお姉さんだ。ちょっと松江のポジションが羨まし……くなんかないんだからね⁉


「そういえば、生徒会長から二年分の過去問のコピーを借りられたから、みんなに渡しておくわね」

「村雨、いつの間にそんなコネを……」

「あら、あなたも副会長から定期テストの過去問を譲られたそうじゃない」


 くそ、何でばれてるんだよ。過去問までもらっておいて負けた俺が滑稽じゃないか。


「……敵に塩を送るなんて、ずいぶんと余裕だな」

「今回の真の相手は愛北だもの」


 はっきりと、村雨は言った。普段なら『俺は眼中にないのか……』といじけるところだが、そんな気は起こらなかった。彼女の表情に澄ましたものは少しもなく、その眼が本気マジだったから。……本気と書いてマジと読むのだ。


「ここで成績を残せば……」


 愛北は、俺が捨てた場所であると同時に、彼女が届かなかった地でもある。想いは違えど、俺と同じく、譲れないものがあるのだろう。


「みんな勉強ばっかでつまんな~い」


 松江、お前は勉強しろ。


※※※

 

 二週間後の日曜日の朝。俺は電車に揺られていた。プニキュラを観ることなく。

 正直、観てからでもぎりぎり間に合うかもとは思ったよ? でもね、心のプニキュラが叫ぶんだ。いま一番大事なことをやる!、と。おかげでプニキュラ不足にも関わらず、俺の気持ちはトロピカっている。絶好調なり~。


 と、結局脳内はプニキュラに支配されながら駅に降りた。当然だが周りは愛北生だらけ……。絶対に顔見知りには会いたくないので、誰とも目を合わさないよう下を向いて歩くと、会話だけが耳に入ってきた。あれ、この声って……


「いい? 涼音さん。試験は絶対に実力以上は出ないわ。だから、いまのあなたにできることだけをやりきりなさい」

「はい! 麗奈さん、本当にありがとうございます」

「それは試験が終わってからでいいわ」


 間違いない涼音と麗奈だ。この二人がどうして一緒に……?


「おはよう。なに暗い顔してるの?」

「おお、村雨。おはよう」


 後ろから声を掛けられた。どうやら背中からもわかるほど暗い顔をしてしまっていたようだ。愛北生によるストレスか……。とりあえず、今日の敵は村雨だ。気合を入れよう。

 学校に入ると、碧谷西の生徒は一つの教室にまとめられた。村雨、涼音、田中、そして俺の4人。松江は今回パスだ。ヌンカツとやらでケーキを食べてくるらしい。世の中にはたくさんのカツがあるんだな。俺はチキンカツとメンチカツしか知らない。


 そして、試験が始まった。

 愛北模試は国語、数学、英語の3教科。

 やっぱり難しい。特に英語は全然わからん。だが同時に、愛北にいた頃よりも力がついていることも感じていた。


 俺だって、ただ逃げたわけじゃないんだ。


※※※


「委員長。どだった?」

「まあまあかな」

「さすがだな。俺は全然だったぜ。っぱ愛北はすげえな」


 田中が爽やかに笑う。イケイケいけ好かないイケメンはテストの感触が悪くてもイケイケイケイケドンドンだな。いいからイケイケどっか行け


「あ、村雨。どうだった?」

「……あまり、良くはないわね」


 テストが終わってこんなに浮かない顔の村雨は初めてだ。よほどだめだったのか……? 村雨でもそんなことがあるのか。


 そして家に帰ると、麗奈から連絡が着ていた。


『明日の放課後、私の家で自己採点会をしましょう』


 どうやら、碧谷西から受けた4人全員に送ったらしい。そういえば、模範解答は明日貰えるんだっけ。麗奈の家か……小学生の時以来だな。


 明日。

 どんな結果が待っているのだろうか……

 




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