【一学期編完結】高校で主人公デビューをするため、志望校を下げて首席になった~なのにどうして推薦入学に俺より優秀な超絶美人がいるんだよ⁉
第17話 ライブってほんとすごいよね。いままで画面の中にしかいなかった人をこの目で直接拝めるんだよ。もうね、歌う前から号泣ですわ
第17話 ライブってほんとすごいよね。いままで画面の中にしかいなかった人をこの目で直接拝めるんだよ。もうね、歌う前から号泣ですわ
「村雨、大丈夫か?」
「ええ、暑さで少しくらっとしただけよ。たいしたことはないわ。」
村雨は祭り会場の端の方で、椅子に座らされていた。熱中症だろうか。顔が赤いような気がする。
俺は近くにいた祭りの中心らしきおじさんに声をかけた。
「俺、病院連れていきます。ちょうどシフトか終わりなので」
「そうだな。念のため診てもらった方がいい。私も行くよ」
「大丈夫、です。ひとりで行けますから……」
「お前、あんま熱中症を舐めない方がいいぞ」
重症化すると後遺症のリスクもあるからな。こまめな水分補給、大事!
「でもあなた、この後ライブでしょ?」
「病院行ってからでも間に合うから大丈夫だ。おまえの荷物は……それだな」
「……ありがと」
※※※
5分弱で病院には到着した。思いのほか近くにあったのが幸いだ。
受付を終え、待合室の椅子に座る
「助かったわ。ありがとう」
「おう」
まだ診てもらったわけではないが、涼しいところに来たのもあってか、先ほどよりもかなり顔色がいい。
「あなたって意外と優しいわよね。性格はねじ曲がってるのに」
「それ、褒めてるか?」
「褒めてるわよ……ほんとに」
「そうか」
まあ、いつもの嫌味が言えるなら大丈夫だろ。性格はねじ曲がってないけどね。俺、めっちゃ素直でピュアだし。
その時、入り口から村雨に駆け寄る者の姿があった。
「お姉ちゃん!」
「世羅、どうしたの?」
「倒れたって連絡があったから、急いで来たんだよお……」
「大袈裟ね。ちょっとくらっとしただけよ」
あれが村雨の弟か。イケメンだな。ということは敵だ。てか村雨家って全員美形なのか?
それはともかく、家族も来たならもう大丈夫だな。
「じゃあ、俺は行くわ」
「ありがとう、福地くん。ライブ楽しんできてね」
「姉を送っていただき、ありがとうございました」
二人に見送られながら、俺はライブ会場に向かうため病院を出た。
そういえば世羅って、どこかで聞いた名前だな……。誰だっけ?
※※※
俺は駅までダッシュして電車に駆け込み、見事ライブの開始に間に合わせた。オタクは推しを前にすると運動能力が30倍に跳ね上がるのだ。見たか、オタクの底力!
当然、ライブTシャツも着用済み。いやあ、すぐ着替えられるようにしておいてよかったぁ。
既に会場には長蛇の列である。えっと、涼音は……
「あ、学~。やっほ~」
いつもより数段テンションが高めの涼音。俺と同じライブTシャツ、つまりペアルック! そして髪はツインテール。めっっっちゃかわいい。黄色い大きなリボンもついていて、プニキュラみたいだ。
「学くんの一番好きな髪型にして見たよ! ……どうかな?」
遊園地で言ったこと、覚えていてくれたんだ……。推しのツインテールほど、尊きものはないことが、またも実証されてしまった。
「すごく似合ってる! もしかしてキュラクローバー意識していたり……?」
「そうなの! わかる?」
「うん。だってそのリボン、すごくかわいいもん」
「やったあ、嬉しい。じゃあ、早く並ぼ!」
かばんから事前に物販で買った戦利品を取り出す。
やっぱペンライトは欠かせないよね。
「色変わるのってテンション上がるよね~。えへへ」
興奮してる涼音さん、おかわいいです。そのまま列の最後尾につく。列は長いけど、まあ席は決まってるから大丈夫。
せっかくだからプニキュラの話でもしよう。
「涼音はいつからプニキュラ好きなんだっけ?」
「うーん。物心ついたときには観ていたし、映画も行ってたけど。……本気で推すようになったのは、中学生の時かな」
「そうなんだ。なんか意外な時期だね」
昔プニキュラを観た人が、久しぶりに観てまたどはまり!という、いわゆる再入園は珍しくないけど、中学生でするのはあまりない気がする。
「うん。その頃は何をやってもうまくいかなくてね。ああ、私なんてダメダメだーって思ってたんだ。でもプニキュラ観てたらさ、普通の女の子なのに自分を信じて愛を貫いててね、それがすーーーごくかっこよくて。私には何もないけど、それでも、プニキュラみたいにみんなを愛せるような存在になりたいなって、思ったんだよね」
「そうなんだ……やっぱり、涼音はすごいね」
「へへ。ありがと」
もし本当にプニキュラがいたら、こういう人が選ばれるんじゃないかなって、けっこう本気で思ってる。人の根底にあるのは自己愛だから。それを他者に向けられるのは簡単じゃないもん。
会場に入場すると、俺たちは真ん中より少し前の席に座った。あのステージに、憧れの声優さんたちが立ってくれるんだ。
「間もなく開園します」
アナウンスが聞こえると、ざわついていた会場が静寂に包まれる。
ここにいる全員がその時を待つ。
そして、ある一点に、光が灯った。
ドンっと現われるあこがれの声優の姿。
俺はそれだけで感動して、涙がこぼれそうだった
ああ、この人たちは本当に存在したんだ。
画面越しにしか触れられなかった存在が、いま俺と同じ空間にいる。
夢のような時間が、始まった。
※※※
「すごかったね!」
「ああ、まさかダンスまで完璧に再現してくれるとはな。」
約2時間のライブを終え、その帰りの電車である。
素敵すぎる時間だった。まだ余韻が残っている。ずっと声出していて声もガラガラだ。
しかもな、聞いてくれよみんな。ペンライトを振ったらね、こっちに手を振り返してくれたんだよ⁉ あれぜっっっっったい俺に返してたからね。だって目が合ったもん。ほんとに。気のせいとかじゃなくて
「あ~れ~でーと?」
聞き慣れたかわいらしい幼な声。なんと、つり革を掴んで立つ俺の斜め前に、松江が座っていた。あと、隣に妹らしき女の子もいる。幼稚園児くらいかな? 目がクリっとしててとてもかわいらしい。
「いや、デートじゃないわ」
そう答えると、右からこつんとお腹をパンチされる。涼音がほっぺぷくーとさせている。あれ、俺なんか間違えた?
「学くん、お勉強はできるけど、乙女心は全然わかってないね~」
「わかっちぇないね~」
二人が俺に向けてチッチと指を振ってくる。ぐう、なんか悔しい。涼音が松江の妹をすごいよしよししてる。俺だけ仲間外れ感がある。
と、非常に充実した一日を過ごしたわけであるが……覚えているだろうか。
明日は定期テストである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます