第14話 サイ◯は高校生の強い味方であります

 ゴールデンウィーク初日の8時。

 俺は緑谷西高校の最寄り駅で、我が宿敵、村雨沙羅を待っていた。

 まさか休日に俺のトラウマの地、愛北学園に足を踏みいれることになるとは……憂鬱極まれりだ。これが日曜日だったら間違いなく引きこもりを選択してたね。そんでもって悪と戦う少女たちを応援してた。がんばえーぷいきゅあーーー


「あら、早いわね」

「おう、まあな」


 宿敵の到着である。

 いまでは見慣れた美しき容姿。初めは圧倒されてしまったが、毎日会っていると気にならなくなるもんだな。けど、今日はいつもよりオーラが強いような……化粧だ。妹も最近挑戦してるからわかるぞ。アイシャドウとかアイラインとかですよね? どうも、違いのわかる男、福地学です。


「天気がいいわね」

「そうだな。快晴だな」


 話すことがない人の会話。だがネタがないからと、女性の変化をむやみに褒めるべきではない。俺の調査によると、『リップ良いね!』と褒めて好感度を稼げるのはイケメンに限るらしい。イケテナイメンがそれをやると『なんでそこまで見てるの? 別にお前のためじゃないし、キモ……』となるので要注意な! というわけで、気づいた違いに触れることはしない。どうも、空気の読める男、福地学です。


「……なにジロジロ見てるのよ」

「す、すまん。行くか」


 イケテナイメンには、クールな対応はまだ早いらしい。


 すぐに電車が来たので、村雨と乗り込み、20分程揺られる。普段は学生で溢れているのだろうが、休日なのでかなり空いている。運動部らしき学生がちらほら見られるくらいだ。学校のない日まで部活とは、ご苦労なものだなあ。

 そして駅を出て10分弱歩くと、愛北学園にたどり着いた。嫌な懐かしさだ。


「……あなたの母校ね」

「ああ、二度と行きたくなかったよ。ったく、誰かさんのせいで」

「悪かったわね」


 村雨に一つ嫌味をぶつけると、職員用玄関から学園に侵入した。すると、生徒会らしき人に迎えられ、会議が行われる部屋へと案内された。

 用意された席に座る。周りを見渡すと、両学校ともに、出席者のほとんどが生徒会役員のようである。少なくとも、うちの学校は俺と村雨以外全員が生徒会だ。愛北もたぶん似たようなもの……と、思ったが違った。こちらを、というか村雨を睨みつける澄川麗奈の姿があったからだ。


「ねえ、あの女来てるわよ」

「そうみたいだな」

「相変わらずやな感じね」


 そういうお前も、かなり嫌なオーラが出ているけどな。5メートル弱は離れているのに、麗奈と村雨の間に火花が見える。


「それではこれより、愛北学園と緑谷西高校合同の説明会を始めます。まずは先ほどお配りしましたレジュメをご覧ください」


 こちらですね。いや~レジュメは最高ですわ。説明が頭に入らなくても、自分のペースで理解できるもの。学校のムダに長い式典、全部これにしようぜ。

 ふむふむ。読むところによると、祭りの規模はかなり小さい。おそらく俺も昔に行ったことあるのに、まったく印象がないくらいには小さい。当日の動きとしては主に足りない人手を補充するという感じらしい。俺はたこ焼きの屋台に配備されるようだ。


「祭りは十時から五時までですが……いまの段階で遅れる、もしくは途中で抜けることが決まっている方がいらっしゃいましたら教えてください」


 そちらから聞いていただけるのはありがたい。俺はさっと手を挙げる。


「すみません。予定があるので四時に抜けてます」

「承知しました。他にはいらっしゃいませんか? では次に――」


 残りもほぼ当日の流れの説明であったが、レジュメですべてを理解した俺は、フンフン♪と聞いていた。レジュメ最高!


「――説明は以上です。それでは、当日は皆様よろしくお願い致します」


 こうして会議は終了した。よし、こんな居心地の悪い学校、さっさと脱出するぞ。

 俺が荷物を高速でまとめて部屋を出ようとすると、隣の村雨が言った。


「あなた、当日用事あったのね」

「ああ、ちょっとな。涼音とプニキュラのライブ行く約束があって」

「それは……悪いことをしたわね。ごめんなさい」

「いや、後から決まったことだから。俺の都合だ」


 たしかに村雨が勝手に立候補したものだが、俺が出席しててもたぶん立候補しただろう。むしろ、村雨に罪悪感を植え付けられたなら、この方が良かったまである。


「ところであなた、このあとお昼はどうするの?」

「ああ、俺はサイデ行くけど」


 ここから徒歩5分くらいのところにあるサイデリア。中学時代はよく通っていた。あの安さはやばい。普通の外食の半分以下じゃない?


「サイデ……それは何?」


 What is サイデ?

 この世界で、そんな質問がありえたのか……?


「イタリア料理のサイデリアだよ」

「初めて、聞いたわ」

「嘘だろ。高校生なのに……」


 高校生でサイデ知らないなんて、まじでこいつだけだろ。

 

「そんなに常識?」

「常識に常識だわ。とにかく来い。俺が連れてったる」


 と、村雨に社会常識を教育しようとしたところ、麗奈もやってきた。


「がっく~ん。おひるた~べよ」

「悪い。俺たちこれからサイデという名の社会見学に行くんだ」

「サイデ? なにそれ」


 嘘だろ、おい。俺と同じ空間に、サイデを知らない高校生が二人……だと? てか麗奈は愛北生なんだから絶対見たことあるはずだろ。金持ちには縁がないってか。


「……お前も来い」


※※※


 というわけで、高校生の強~い味方。サイデリアに来た。さあ今日のドリンクバーではどんな組み合わせを試そうか。


「これがメニュー……なるほど、ドリンクバーはセットだとお得なのね」

「200円で飲み物が一つ、ということかしら?」

「そういうことになるわね。安いわ……」


 世間知らず2人組がメニュー表を見ながら的外れなことを言っている。ちな、俺は番号を暗記しているので、既に注文の紙に記入済みだ。


「違うぞ、ちみたち」

「……ちみたち?」

「がっくん、何が違うの?」

「ドリンクバーはな……飲み放題だ」

「そんなことがあるの! 200円なのよ⁉」

「あるんだなあ。それが」


 異世界に転生したチート主人公もこんな気分なんだろうな。まさに飲食業界のチート主人公、サイデリアである。

 そして、全メニュー番号を暗記した俺が、彼女たちが指定した品を記入する。それを店員さんに渡し、間もなく料理が届いた。俺のもとにドリアが……! この値段で外食ができるなんて、ほんとサイデすごいわ。村雨と麗奈はいずれもスパゲティを注文している。うんうん、それもうまいよな。

 

「いただきまーす」


 二人がスパゲティを巻き取り、口へ運ぶ。

 だが、俺は慌てることはしない。ドリアは熱いからな。口に入れて火傷したことは数しれない。首席とは失敗から学ぶ漢なのだよ。


「二名様でお待ちの松江さま〜」


 店員さんが次の客を呼んでいる。知り合いと同じ苗字が呼ばれるとちょっと気になったりするよね。あいつ、いま何してんだろうな。


「は~い」


 ん? この声はまさか。

 店の入り口をちらりと見る。間違いない、あの松江だ。さらに隣には涼音の姿……。あの二人、いつの間にそんなに仲良くなったんだ?


「涼音ちゃん、何食べる? もなぴはね、コーヒーゼリーとジェラートのやつ! 後プリンとティラミスも頼んじゃお~」


 ここはスイーツ店じゃないぞ!っとツッコむか、たしかに全部うまいな……と共感するか、俺の心が悩んでいる俺の横を、二人が通っていく。俺はさっと顔を反対側に向ける。外で思いがけず知り合いと会うと、なんとなく気まずくない?

 松江と涼音は、そのまま真後ろの席に座った。


「……あなた、何してるの?」


 村雨が不審な目で、俺を見ている。そういや、まだドリアに手を付けてないや。


「いや、なんでもない。気にしないでくれ」

「がっくん、あんまり進んでないよ。あ~んしてあげようか?」

「大丈夫だ……」

 

 その後、俺は食べやすい温度のドリアを完食し、さらにデザートまで堪能した。結局、後ろの二人には気がつかれなかったな。

 そして会計を終え、2人にレシートを見せると、あらびっくりである。


 言ったろ。ここは高校生の味方なんだよ。

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