【一学期編完結】高校で主人公デビューをするため、志望校を下げて首席になった~なのにどうして推薦入学に俺より優秀な超絶美人がいるんだよ⁉
第13話 テスト勉強を早めに始めると、テスト前日には飽きてたりしない?
第13話 テスト勉強を早めに始めると、テスト前日には飽きてたりしない?
翌日の放課後。
俺は進路指導室という赤い本など受験関係のものがたくさん置かれた教室で、いつもの二人+大原先生と共に、自分史上最も憂鬱な写真撮影に臨んでいた。
様々な表情とポーズを注文されながら、パシャリパシャリと写真が撮られていく。勉強してる風、先生の話を聞いてる風、友だちと教え合ってる風等々。
いかなる俺の顔にも需要なんてないだろ。
そんな悪態を心の中で突きながら、地獄のような時間が過ぎていった。
「けっこう楽しかったね~。写真撮影」
能天気な感想を述べる松江。虫の居所が悪い。嫌味の一つでも言わせろ。
「お前らは、さぞ楽しかったろうな」
「あれ、学くんは楽しくなかったの?」
「俺の気持ちになってみろ。このパンフレットができたら、『うわあ、碧谷西高校、顔面偏差値たっか……いのは女子だけか。男子は……うーん』って全国の中学校で言われるんだぜ」
惨め過ぎて涙が出る。人は外見じぇねえ、中身なんだよ! ……って言うやつ、たいてい性格もそんな良くないよな。ソースは俺。
「う~ん、考えすぎだと思うけどな。もなぴは」
「いいや、思い出せ。学校パンフレットに映っている男なんて、全員いけ好かない爽やかイケメンだっただろ」
「いけ好かないってのは学くんの主観かな~って思うけど……。でも、あんまりどんな人が載ってたか覚えてないなあ。沙羅ちゃんは覚えてる?」
本日俺が脇役に甘んじた最大の要因、完璧美少女村雨沙羅に話が振られる。だがその問いかけに返答はない。あいつ、また音楽聞いて……ないな。何やら考え事をしているようだ。
「沙羅ちゃん?」
「え? あ、ごめんなさい。なんの話だったかしら」
「も~。パンフレットに誰が載ってたかって話だよ~」
「えっと、そうね。たしかいまの副会長さんが載っていたような気がするわ」
「あ~、あのメガネのかっこいい人か。たしかに、ああいう爽やかな人が表紙にいると気持ちがいいよね~」
「爽やかじゃなくて悪かったな」
人は外見じゃ……という心の声は押しとどめる。だって副会長の山本先輩、めっちゃいい人なんだもん。同じイケメンでも、どこかの田中君とは大違いだ。
それにしても、村雨が上の空というのは珍しいな。話題に興味が無くなって音楽に逃避することはよくあるけど。
「お前、何かあったのか?」
村雨の足がピタッと止まった。いつになく真剣な面持ちである。
「……ねえ、福地くん。一つ聞いてもいいかしら」
「なんだよ。改まって」
「あなたはどうして、愛北をやめてまで、この学校を受験できたの?」
嫌味……ではなさそうだな。馬鹿にするような匂いはない。
「前にも言わなかったか? 逃げたんだって」
「それがわからないのよ。どうして愛北を捨てることが逃げになるの?」
「……は?」
「高校受験の時のこと思い出してね。私はその一日のパフォーマンスで運命が決まることがとても怖くて、推薦を選んだ。でも、あなたは違うでしょ? 愛北の高等部への進学が約束された状態で、どうしてその特権を捨てて、この学校を受験できたの?」
一般論として、村雨の言いたいことはわかる。俺も推薦入学なんて、試験で結果を出す自信がない人間のすることだと思っていた。
だが、なぜそれが村雨沙羅の、俺の宿敵の選択肢たり得るのだろうか。どうして彼女ほど優秀な人間が、俺の選択を困難なものと捉えるのだろうか。
「あのさ、そもそもお前の実力なら、少なくともこの辺の学校はどこでも受かったんじゃねえの? 言いたかないけどさ」
「……それは合格した人間だけが語れる事よ。私にそれを言う権利はない」
その言葉には、自分に対する憎しみの色が見えたような気がした。宿修の時と同じだ。
質問に質問で返すのも失礼だな。俺は一度息を吸い、彼女の問いに答えた。
「……唯一の心の支えだった人がいたんだ。自分に特別な価値なんてないと突きつけられる日々の中で、彼女に認められていることだけが、俺を支えていた」
「その人って……」
「でも、ある出来事をきっかけに、彼女が認めていたのは、俺の実力じゃないってことに気がついた。それがわかった時、これ以上愛北にいたら、わずかに残っていた俺のプライドも、自信も、きっと失われてしまうと思った。その苦しみと比べたら、首席をねらって別の学校を受けるリスクなんて、大したものじゃなかったんだよ」
一番遠くて……近い存在。
「……非効率だと思わなかったの」
「非効率?」
「ええ。だって、愛北学園ならレベルの高い授業が受けられるし、周りも優秀な生徒ばかり。そんなに実力をつけたいなら、愛北よりいい学校なんてほとんどないわ」
「ああ、そういう……。けど碧谷西は、俺が一番努力できる場所だ。愛北にいたら俺は、きっと努力の意味を見失ってた。俺の実力が最大限発揮できる環境を選択することの、どこが非効率なんだよ?」
「そんなの全然合理的じゃないわ。自己満足としか思えない……」
「そうかもな」
やっぱり、俺と村雨とは、根底にあるものが違うのかもしれない。どちらが正しいというものでないのは、わかっているけど。
「もなぴは二人がそんな勉強にがつがつしてることが信じられないよ~。もっと肩の力抜こうよ~」
久しぶりに松江萌菜が会話に参戦する。まあ、松江はこういう話にはまったく興味ないだろうしな。
「お前は周りの人間の努力を利用してるだけだろ」
「てへへ」
愛嬌で許されてる感あるけど、結構ずるい生き方だからな。たまには説教を……
「あー、もなぴ教室に忘れ物しちゃったー」
と、わざとらしく言いながら、視線を壁の方へ向ける。俺もそちらに目をやると、涼音が本を読みながらこちらの様子を覗っていた。
「沙羅ちゃーん。ついてきてー」
「もう。しょうがないわね」
「わーい。あ、学くんは来なくていいよ。……ガールフレンドが待ってるみたいだからね」
うわあ、この人めっちゃ目配せしてくる……。漫画で見たことあるぞ。いい感じの男女を周りの友だちが二人っきりになるように仕向けてくるやつ。べ、べつにそういうのじゃないもん。
「ガールフレンドなんていねえよ」
「女の子の友だち、いないの?」
松江の言葉により、呼び起こされる俺のトラウマ。
あれは小学校の英語の授業。たしか夏休みの思い出を話すという内容であった。俺は麗奈と花火大会に行った話をするため、 "I went to the fireworks with girlfriend. " と言ったのだが……それからしばらく「お前ら付き合ってんのかよ~」とからかわれて最悪だった。麗奈とも話しづらくなったし。そもそも、ガールフレンドって直訳したら女の子の友達だろ。なんでガールフレンド=交際相手になるんだよ。これだから欧米人は……と思ったけど、日本人も彼女=交際相手の意味で使うから関係ないわ。ごめんなさい。
「じゃあね、学くん。お幸せに~」
「だから違うって……」
そのまま松江は村雨を教室に連れ去っていった。
きっとコイバナに飢えてるんだろうな。まあいいや。
「ねえ、学」
「わっ⁉」
気がつけば、三つ編みのかわいい涼音さんが目の前に……。本を持つ姿も相まってまさに文学少女って感じだ。眼鏡かけても似合いそう。さっきので意識してしまってお顔を直視しできない。
「驚かせてごめんね。ちょっと話したいことがあって待ってたんだけど。……学、いつも女の子といて、話しかけにくくて」
「そ、そうかな?」
「そうなの!」
頬をぷくーっと膨らませている。かわいい。でも涼音、遊園地の時はめっちゃ積極的に来てたような……。あれか。遊園地ハイ的なやつか。
「それで、話ってなに?」
「あ、うん。実はね。これ!」
「あ、気になってたやつ!」
それはプニキュラ声優のライブチケットだった。ヒーローショーじゃなくて、本当に声をあててる人のやつね。
「ダメもとで申し込んだんだけど運よく当たって……学も一緒にどうかな?」
「いいの?」
「うん……そのためにセットで申し込んだし」
「何か言った?」
「う、ううん。なんでもない。ただ……テストの前日なんだよね、ライブの日」
「あっ、そうだよね」
まさにそれが、俺がこのライブを見送った理由だ。だけど、せっかく涼音に誘われたし、勉強は早めにやればいいか。……待てよ、テスト前日? そういえば何か他に予定があった気が――
「あ! 祭りの手伝いの日だ……」
「祭り?」
「うん、地域の祭りの手伝いに村雨と行くことになってて」
「そ、そうなんだ。残念……けどそれなら、別の人に聞いてみ――」
「待って待って。夜からだもんね? 早めに抜けられないか相談してみる」
ちょうど今週末、愛北で会議あるし。めっっっちゃ気分が乗らないけど。
「うん。学と行けたら、嬉しい!」
とびっきりの笑顔で、俺の心が浄化されていく。まるでプニキュラだ。それに比べて村雨は……時間差で俺の邪魔をしてくるなんて。もう、ぷんぷん。
「テスト勉強も早めに終われせないとな」
「そうだね。私もがんばる!」
ライブか。
あの声を生で聞けるんだな、涼音と。
楽しみだ。
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いつも読んで頂き、誠にありがとうございます。皆様のpv、フォロー、♡、☆、コメント、すべてがとてもとても励みになっております。1000pvも見えてきまして、本当にありがたい限りです。
さて昨日、1500字の短編
【『手が冷たいです』と後輩が言うのですが……握ってもいいですか?】
を公開しました!
引退したテニス部の先輩が、後輩の手を握っていいものか葛藤するだけのお話です。異性と二人の学校帰りっていいなぁと思い、その気持ちのままに書いてみました。
そちらも読んでもらえると嬉しいです!
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