第9話 女の子が二人でもハーレムって呼べますかね

「なあ、村雨」

「何?」

「俺ってもしかして、クラスで嫌われてるのか?」

「あなた……今頃気がついたの? 教室で他人に向かって叫ぶような人物を、好ましく思う人間がいると思って?」


 村雨がチクリザクリ、と的確に言葉を刺していく。痛くて泣きそう。

 俺はもう一人の少女に助けを求めた。


「松江~。俺、嫌われてる?」

「もなぴだよ! う~ん。まあ、ちょっと怖いよね。いつもピリピリしてるし。でも、もなぴはおもしろいと思うな~」

「そうか……ありがとな」


 やっぱり俺、みんなに嫌われてたんだあ。怖がられてたんだあ。そっかあ。ははは。


「そんなことよりさ、2人とも。そろそろ動かない? もなぴ、いろいろ乗りたいな〜って思ってるんだけど……」


 宿泊研修2日目。みんなお待ちかねの遊園地、ラッキーリゾートである。が、俺たちはそのベンチにずっと座っていた。入場から30分経ってこの調子である。だって、どこも人で溢れているんだもん。ここ日陰になってて涼しいし。


「……気温も高いし、どこも混んでいて気が進まないわ」

「同感だ。めんどくさい」


 どうやら、俺と村雨は人混みが嫌いという所は一致しているらしい。つまり、人が多い場所に連れ込めば、こいつを倒せるわけだ。メモメモ。まあ、俺もやられるけど。


「え~、コーヒーカップとか行こうよ~。動画でいろいろ調べたんだけどね! ここのコーヒーカップは一つだけ黄色いのがあって、それに乗った男女は結ばれるっていう伝説があるんだよ」

「馬鹿らしいわね。男女で遊園地に来るような間柄なら、結ばれたとしても何の不思議もないわ」

「そもそも、俺たちは3人なんだから関係ないだろ」


 あれ、今日村雨さんと息ピッタリじゃない?

 松江は少しかわいそうだが、そもそも遊園地嫌いの二人だとわかった上で誘ったのはこいつだ。このくらいの妥協を強いられるのは仕方がない。


「も~。……じゃあさ、学くん。もなぴと交渉しない?」

「交渉?」

「うん。もなぴね、前に妹とプニキュラの衣装作ったんだ。沙羅ちゃんと一緒に回ってくれたら、その時の写真見せてあげる」


 ふむ。要は自分のコスプレ写真見せてやるからいうこと聞けってことか。なかなか自意識過剰な提案だ。しかし魅力的ではある。なぜなら、この童顔ツインテールと出会ったあの日から、プニキュラ衣装が絶対似合う!と、強く感じていたからな。


「……ちなみにどのプニキュラ?」

「んっとね、キュラクローバーとか……」

「まじか。最推しじゃん。乗ったわ」


 一連のやり取りを横から見る冷たい目線。ああ。これは軽蔑されてますね。だが知ったことではない。『コイバナ大好き♡キュラもなぴ』を見るほうが大事だかんな。


「てことで行こうぜ、村雨」

「はあ、どこまで現金なのかしら」


 こいつにどう思われたってかまわん。俺はキュラもなぴをこの目で拝めればそれでいいのだ。あと、これ以上ここで座っていても、人混みくらいしか村雨の弱点は見つからなそうだしな。


「お前、体力はあるだろ? 運動得意だし。ずっと休んでることないんじゃね?」

「あのね。私、酔いやすいのよ。ここのアトラクション、回るものばかりじゃない」


 村雨って酔いやすいのか。意外な弱点だな。運動はめちゃくちゃ得意なのに。

 だがそれなら問題はない。ラッキーリゾートにはプニキュラショーを目当てに妹と何度も来ているんだよ。故に、ここのアトラクションについては、この学校で一番詳しいと言っても過言ではない。そう、俺こそが、プロラッキーリゾーターなのである。


「じゃあさ。俺、回転しないアトラクション知ってるから、とりまそこ行こうぜ。騙されたと思って」


 ちなみに『とりま』っていうのは『とりあえずまあ』の略ね。初めて聞いた時は、ねぎまの反対かと思ったわ。焼き鳥を焼きネギだと思って食べている人間がいるのかと。


「……あなたに騙されるメリットがわからないけれど、まあいいわ。これ以上生産性のない会話を聞くのも不快だし」

「やったー。早く行こっ」


 松江がものすごく喜んでいる。ごめんな、お前はこんなにいい子なのに。その笑顔を奪おうとした俺はなんてひどいやつなんだ。ごめんね。許してなんて言えないよね。ひどすぎるよね……

 と、脳内で風の谷ごっこをしながら向かったのは徒歩3分、ミラーハウスである。要は壁が鏡になった小さな迷路だ。俺はかつて妹とここに何度も入り、RTAまで挑戦している。ちな、最高記録は20秒な。ふっ、これがプロラッキーリゾーターの実力よ。


「おお〜、壁がキラキラしてる! すご〜い」


 入場するとすぐ、松江が子どもみたいにはしゃぎまわる。それに対し村雨は、鏡に手を当てながらゆっくりと慎重に進んでいるようだ。そして、最短ルートが頭に入っている俺は、二人の楽しみを奪わないよう、少し距離を空けてついていく。いや~気を遣えて大人だな〜、俺は。

 ミラーハウスの中は特別広いわけではないが、本物の道なのか鏡の反射なのかぱっと見だとわかりにくい。だから小さい子は走って鏡に激突したりするから実はけっこう危ないんだよな。たとえばほら、あんな風に。


「うえ~ん、沙羅ちゃ~ん。お鼻ぶつけた~」

「何やってんのよ、もう。いいからほら。手、握ってなさい。危ないから走らないのよ」

「は~い。沙羅ちゃん、ありがと」

「……どういたしまして」


 お、村雨が照れてる。珍しい。それと松江さんは本当に高校生ですか? 泣いたら手を繋いでもらえるのは小学生までとお聞きしたのですが。


 そんなこんなで、ばたばたしながらも3分ほどでミラーハウスからの脱出には成功した。うぬ。素人にしてはまあまあだな。褒めてつかわす。


「次はどこ行く? 沙羅ちゃん!」

「ど、どうしましょう」


 あれ、心なしか村雨と松江の距離が近づいているような気が。村雨さんってもっとツンツンして性格悪そうな雰囲気じゃありませんでした。もしかしてあれか。ミラーハウスの中に真実を映す鏡とかが混ざってて、心が浄化されたとか……?


「あれなどどうかしら」


 村雨が指したのは、園内で一際目立つアトラクション、観覧車だ。たしかに縦回転なら、そんなに酔わないか。


「観覧車! もなぴも好き~」

「じゃあ行くか」

「うん! レッツラゴ~」


 相変わらず松江は元気だなあ。けど、村雨さんもさっきより乗り気じゃない? 自分から行きたい場所を提案するなんて。けっこう楽しんでいるのだろうか。


 観覧車は丘になったところにあるので、よいしょよいしょと坂を登っていく。女性陣はぐんぐんと進んでる。俺は日ごろの運動不足のせいか足が重い。


「お、委員長、ハーレムじゃん」


 途中で男子三人を引き連れて丘を下る田中とすれ違った。男の子ってすぐそういうことに結びつけるわよね。思春期なのかしら。


「ちげえよ、うるせえな」

「優斗くん、やっほー」

「よ、萌菜」

「もなぴだよ〜」

「はは、そうだったな。わり~萌菜」

「も~」


 松江さん、誰に対してもそこは譲れないのね。あと、このいけ好かないイケメン、略してイケ☆イケは優斗って名前だったのか。忘れるまで忘れないでやろう。

 そして村雨はつんとしている。こいつも陽の者苦手なのかな。だとしたら同類……ではないな。だってこいつ自体が陽なんだもの。


「じゃあな委員長。両手に花、楽しめよ」

「ほっとけ」


 まじでからかいたいだけじゃねえか、あいつ。これで自分はモテモテと来た。たちが悪いにもほどがある。


「……あなた、同性のお友達いたのね」

「別に友達じゃねえよ」

「言われてみたらそれもそうね。あなたと彼では人望がまるで違うもの。やっぱり友だちは同じレベルでないとね」

「……」


 そう真面目に分析されるととてもつらいのですが。……やっぱりぼく、人望ないですか?


「あっ、ついたよ~。おっきい~」


 丘を登りきると、そこには巨大な鉄骨が。近くで見るとめっちゃ迫力あるな。久しぶりに乗るがなかなか楽しそうだ。

 さっそく乗り場に並ぶ。それなりに人がいるように見えたが、回転率がいいのかすぐに順番がきた。


「学くん、乗り遅れないでね」

「ちゃんとかごの動きを見るのよ。まあ、もし乗れなくても、上からの写真を見せてあげるから安心なさい」


 ……こいつらは俺を何だと思っているんだ。でもたしかに、観覧車の乗り遅れたらやばい感は異常。電車と違ってドアが制止してくれないもんな。


 幸い誰も取り残されることなく、無事に乗り込むことに成功し、俺たちをいれた籠はゆっくりと上昇していった。女性陣は俺の向かい側に座り、松江は村雨の腕にまとわりついている。なかなかに眼福である。

 下を覗くと、小さくなった多くの人々の姿が見えた。ふっ、下界の民よ。我にひれ伏すがよい。


「物理的な上昇で優越感に浸っているところ悪いけど。少し窓から離れてもらえるかしら? 私も景色が見たいのだけれども」

「お、おう、すまん。……お前って、やっぱりエスパー?」

「いやいやいや。いまのはさすがにもなぴもわかったよ~。学くんって時々すごいゲスな顔になるもんね」

「まじか……」


 やばい。めっちゃ恥ずかしい。観覧車で優越感に浸るってどんだけ小者なんだよ、俺。


「ねえねえ、一番上に来たよ!」

「そうだな」


 たしかに視界に後ろの籠が映るようになった。つまりここからは下降しかない。短い天下であった……


「ねえねえ、三人で写真撮りたい! 学くん、こっち来てよ~」


 松江が右側の席を空ける。けど、たぶんそこ二人分しかスペースないんですよ。どうやってもお尻とお尻がくっつくと思うんですけどそれは――


「早く座ったら?」

「は、はい」


 村雨にも急かされたので大人しく松江の隣に座る。身体の左側に柔らかい感触。心臓の鼓動が早くなる。身体触れるだけでこんな緊張するの……?


「学くん。手、ちょ~だい」

「ほえ?」


 言われるがまま、俺は大人しく手を差し出した。な、なんですか。


「はい」

「え?」

「写真撮って。学くんが一番腕長いでしょ?」


 手には松江のスマホ。そういうことね。びっくりしたわ。もしや握られるのではと期待……じゃなくて心配したわ。

 俺は腕を伸ばし、三人が画面に入るよう健闘する。だが、シャッターがなかなか押せない。片手で操作するの難しいぞ。なんとか、パシャリと一枚撮る。自撮りやってるJKは、みんなこれをしてるのか。すげえな。

 俺は隣の現役JKに、写真のチェックをお願いした。


「うん。みんないい表情! ただ……」

「ただ?」

「背景が柱だね」

「あ」


 前方には景色しか見えないので気がつかなかったが、これ逆側に座るべきだったのでは。


「まあ、観覧車ってことはわかりやすいし良いんじゃないかしら? ほら、そろそろ降りるわよ」


 村雨に意外なフォローを受けながら、我々は下界へ再び降り立った。

 松江が出るのに手間取るから、危うく俺だけもう一周するところだったぜ。危ない危ない。


「楽しかった~。めっちゃ高かったね!」

「だな」


 高いところというのは無条件に楽しい。小さい子がたかいたか~いってされてわっきゃしている気持ちが少しわかった気がする。


 さて、次回は遊園地の後半戦である。


―――――――――――――

600pvと50フォロー、そして評価もつけてくださり、本当にありがとうございます!

投稿時には、まさかこんなにも多くの人に読んでもらえるとは思っておらず……ただただ嬉しい限りです。

引き続き楽しい小説を書けるよう精進してまいりますので、どうぞよろしくお願いしますm(__)m


(もしも気に入ってくださいましたら、☆や♡など頂けると、とてもとても喜びます……!)




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