第3話 童顔のクラスメイトが変身ヒロインだったら嬉しい
「まあまあ、仲良くしようよ」
もなぴこと
「ほら、今週末の宿泊研修楽しみだね」
「ああ、そうだな」
先ほどのLHRでも説明があった宿泊研修。今週末に一泊二日で行われる、オリエンテーションも兼ねた学年全体の合宿のようなものだ。バスケットボールをしたり、ラッキーリゾートとか言う近所の遊園地に行ったりするらしい。
しかし俺に興味があるのはただ一つ。研修初日の実力テストである。ここで村雨沙羅を倒せば、俺の学年トップとしての、主人公としての華々しい学校生活が幕を開けるのだ。
そんなわけで、俺はそれなりに宿泊研修を楽しみにしている。
だが一点だけ、どうしても学校に異議を申し立てねばらない。
「本当に許せないよな。出発が日曜の朝だなんて」
「そうかしら? 振替で火曜日は休みになるのだし、何か問題があって?」
「……お前、それ本気で言ってるのか?」
村雨はまったく心当たりがないという様子だ。出発がその時間ということは、日曜の朝にテレビを見られないということだぞ? その意味が、本気でわからないというのだろうか。この女は。
「ええ、あなたこそ何を熱くなっているの?」
「プニキュラが……」
「は?」
「プニキュラが、見れないだろうがあああ!!!!!」
俺は周りの迷惑にならない最大限の音量で叫んだ。
俗世で忘れがちな愛や希望を思い出させてくれるプニキュラを、そのかわいさで汚れきった心を癒してくれるプニキュラを、一週間の希望を与えてくれるプニキュラを、彼女たちを視聴できないことが、どれほどの人を苦しめることか……。それがお前にはわからぬというのか⁉
「おー」
松江は珍しいものを見るような表情。村雨はぽかーんとしている。
「えっと……何を言っているのかしら」
「いや、プニキュラ。知らんの?」
「もちろん知ってるわよ。小さい頃は毎週観ていたし。それがあなたに何の関係があるのかを聞いているの」
「プニキュラに関係ない人間なんていないだろ。いいか、大切なものを守りたい心があれば誰でもプニキュラになれるんだよ」
そう。プニキュラに必要なのは強さじゃない。心なんだよ。歴代すべてのプニキュラを応援する中で、彼女たちが俺に教えてくれたことだ。さすがに初代は生まれる前なのでリアルタイムじゃないけどね。小学生の頃は毎週のようにレンタルビデオ屋に通ったなあ。最近はサブスクなんてものもあるが、やっぱり借りたDVDを持ち帰る時の昂揚感は、何物にも代えがたいものがある。
だが、俺が初代こそ至高などと言う、何の価値も生産性もない思想に染まるつもりもない。女の子たちが自分の信念と向き合い、悩み、乗り越えるその過程。それは唯一無二のものであり、そこにプニキュラ間の優劣などないのだ。むしろ、我々が彼女たちから何を学ぶか。それが試されているのである。
「はあ。話にならないわ」
話にならないのはこっちだ。プニキュラの良さもわからん女に、話すことはない!
「もなぴはプニキュラたまに見てるよ~」
「松江……。見直したぜ」
「変身した時のお洋服かわいいし。妹といっしょに作ったりもしてるんだ~」
うんうん。たしかにそれもプニキュラの魅力の一つだ。松江はいい意味で幼さが抜けきっていないため、変身衣装も似合いそうだしな。それになによりツインテールだ。俺の最推し、キュラクローバーと同じ髪型である。誰よりも心優しいお嬢様でありながら、敵と認識した相手は完膚なきまでに叩きのめす強さ。まさにかっこかわいい。何を隠そう、かわいい女の子にお嬢様口調で罵倒されたいという、俺の人に言えない性癖を開花させた張本人でもある。それに松江は背が低いから、キッズ向けに発売されてる変身セットも着れそうな気が……これ以上は危険な香りがするからやめておこう。
俺は友情の証として、松江に手を差し出した。
「同士だな。松江」
「あ、ごめん。そこまでガチじゃないかも~」
ガーンという脳内効果音を背後に、俺は空気と握手をした。
いいんだ。誰にも理解されたくても。俺は俺の道を貫くから。
「あ、そうだ。沙羅ちゃん。ラッキーリゾート、この3人で回らない?」
この3人って……この3人だよな。おい、ふざけんなよ。なんで俺は参加確定なんだよ。それじゃ俺が一緒に回る友達なんて決まっているはずもない、かわいそうなぼっちみたいじゃねえか。……違うもん。今はいないだけだもん。ほんとだもん。
「どうかな? 沙羅ちゃん」
呼びかけられた女は相変わらずイヤホンをしており、例によって応答はない。いや、話題に興味なくなったらすぐに音楽聞くのはやめようよ。話している人が悲しくなっちゃうでしょ? それはそうと、いつも何の曲を聞いているんだろう。
ねえねえと松江が肩を叩く。すると、村雨はようやくイヤホンを外し、やれやれといった調子で言った。
「いやよ。何が悲しくて、この不愉快極まりない男と、さして好きでもない遊園地を回らなくちゃいけないのよ」
この子、聞こえていたの……? ということはつまり、さっきのは無視! 華麗なるMUSHI!!!
加えてどストレートな悪口。チクチク言葉を超えて、もはやザクザク言葉だ。
が、珍しくザクザク女の意見には同意する。珍しく。
「……まあ、遊園地って友達と行くからギリ楽しさがプラスになるわけで、そうじゃないやつと行くのはただの苦行だよな」
中学の修学旅行で某ネズミの国に行ったのを思い出す。暑いし人は多いしで大変だったなぁ。最後の方なんか、ただベンチに座ってお城を眺めていたもの。
「うわあ。プニキュラ好きとは思えない発言だ……」
「まあ、俺はプニキュラを愛してるだけで、プニキュラになりたいわけじゃないからな」
「へ、へえ」
たぶん、ある日謎の妖精にプニキュラに勧誘されても、俺は二つ返事で断るだろう。俺は自分と相容れないからこそ、プニキュラを応援しているのだ。
「でももなぴ、三人で仲良くしたいなあ。……だめ、かな?」
チラッと期待の眼差しを向けられる。いや、かわいいけど。何も出ないぞ
「なんで俺たちにこだわるんだ? もっと楽しいやつたくさんいるだろ」
「だって~もなぴのわがまま聞いてくれる人と行きたいんだもん」
「おい」
「てへっ」
小さく舌を出しウィンクをする。あざとい。普通にかわいい。プニキュラに変身して欲しい。『コイバナ大好き♡キュラもなぴ!!!』とかどう?
まあ、それは脇に置き。改めて考えみるとこれはチャンスではないか? 村雨と行動を共にすれば、弱点が見つかるかもしれない。敵を倒すには、まずは敵を知ることだ。決めた。俺はキュラもなぴの側に付くぞ。
「よし、じゃあ行こう。三人で。」
「は、何言ってるの? 今行きたくないって話をしたところじゃない」
「そうだけどさ。よく考えてみたら遊園地が嫌いな人同士でいた方が楽じゃないか? どうせ行かなきゃいけないんだし」
「まあ……それはそうね」
あれ。意外とすんなり納得するんだな。遊園地はともかく、俺自体が嫌いだという問題は何も解決していないけど。
「やた~」
まあ、作戦はうまくいきそうだしいいか。松江は万歳をして喜びを表明している。
だが松江よ。お前もそれでいいのか? このままだと、遊園地嫌いに囲まれた遊園地だぞ。おそらくだけど楽しくないぞ。
ところで女子二人と遊園地。あれ、これって非常にリア充っぽいのでは……?
って、だめだめ! それじゃ俺が二人のわき役じゃないか。
絶対、宿研中に村雨の弱点を見つけて、俺は主人公の座を手に入れてみせる。
俺のことなど眼中に入れず、イヤホンで音楽を嗜む村雨を横目に、そう誓ったのだった。
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