弧蝶

野を分けた風が

星に磨きをかけた夜


紺滅こんけしの闇の奥から

白い弧蝶こちょうが飛んでくる


透き通ったはね

消え入りそうに薄く

月明かりを捉えた鱗粉が

涙のように光る


永遠の中でこおりついていた

過去の一片が

記憶を呼び起こす熱量で

チロリチロリと融け始め

回想の湖に小さな波紋を描く


最後の水輪みずわ

岸辺に到達した刹那


弧蝶は翅をまばたかせ

月光の闇へと

紛れて


消えた


https://kakuyomu.jp/users/rubylince/news/16818093077391753209

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