5月

曇りガラスの電車

大きな銀杏イチョウの木が影を落とす

小さな駅舎から乗った電車は

薄曇りの彼方からやって来た


窓が曇って見えたのは

付着した黄砂のせいだろう

砂粒で乱反射した光が

流れる景色に紗をかける


振動に身をまかせるばかりの

平和な空気だまりの中

目の前に座っている少年が

ついに頭を落として

眠りに落ちた

昼下がり


背中をまるめた後ろ姿は

今しがた別れた過去

重力のある世界の

その重さを

一身に受けて

歩いているように

見えた


ゆっくり

ゆっくりと


曇りガラスの電車もまた

ゆっくりと

雨催あまもよいの中を走る


眠り続ける少年と

乗り合わせた人たちを

単調なゆらぎで

温めながら


https://kakuyomu.jp/users/rubylince/news/16818093076959131288

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