第19話 収益化

 放課後になって、時雨と唯華はエリーの事を呼び出していた。

 エリーの退学に関して話を聞くためだ。

 ダンジョン配信部の部室(予定)にて三人で顔を合わせた。


「お母さんから話は聞いたよ。学校を辞めて働くつもりなんだってね?」

「……そうですわ」


 すでにエリー母から事情は聞いていた。

 エリー母が医者と話していたのを聞いて、エリーは母の体がボロボロになっていたことに気づいた。

 エリーは学校を辞めて働きに出て、少しでもエリー母を助けようと考えているらしい。


「とても、難しい問題だね。このままじゃ、お母さんが倒れてしまうかもしれない。だけど、お母さんはエリーの幸せのため学校に通って欲しい。どちらの思いも間違っていないと思う」


 子の将来を考える母の思い。

 母の体調を憂う子の思い。

 どちらも優しさから来た思いだ。時雨には、どちらかが正しいと断ずることはできない。


「時雨先生、お願いです。私と一緒に母の説得をしてください」

「……学校を辞める手伝いかぁ」


 それは教師としてどうなのだろうか。

 しかし、人の命が重いのも事実だ。ここはエリーを助けるべきか。

 時雨が頭を悩ませていると、唯華がチッチッチっと指を振った。

 洋画のわざとらしい演技みたいだ。エリーはイラっとしたらしく、目元をピクつかせている。


「いやいや、もっと良い案があるじゃないですか」

「その馬鹿みたいな動作を止めてくださる?」

「おや、もしかして気づいてないんですか? うーん、どうやら天才美少女唯華ちゃんの頭に追いついてないみたいですね?」

「と、とりあえず、唯華のアイディアを教えてくれないかな?」


 ゴゴゴゴっと怒りを燃やすエリーをなだめながら、時雨は唯華を見た。

 唯華はドヤ顔で語りだした。


「簡単な話です。配信で稼げば良いんです。ダンジョン配信部のチャンネルの登録者すうはうなぎ上り。収益化申請だって問題なく通りますよ!」

「なるほど……ちなみに月当たりの収益はどれくらいになる予定なのかな?」

「現状では月あたり二十万円ってところですね。ここから伸びていくと思いますけど」


 高校を中退したとして、多めに見積もっても付きの稼ぎは二十万ほどだろう。

 それだけ配信によって稼げるのなら、学校を中退する理由は無くなる。


「それだけあれば、家計を助けるには十分じゃないかな?」

「そう……ですわね……」

「ほらほら、天才美少女の唯華ちゃんに感謝しても良いんですよ? 『ありがとう、唯華様』って言ってごらん?」

「ぐぬぬ……コイツのアイディアなことは凄く嫌ですけど……!!」


 煽る唯華に、エリーはギリギリと怒りを抑えている。

 ナイスなアイディアにはエリーも感謝しているのだろうが、唯華のウザさは変わらないらしい。


「そもそも、なんで退学するってなって私のこと無視してたんですかぁ? もしかして『大切な友達を悲しませないために、今のうちに疎遠になっておかなきゃ……』なんて悲劇のヒロインぶってたとかですかねぇ?」

「うぐっ!?」

「あれあれぇ? その顔は図星かなぁ? ぷーくすくす。だとしたら超面白いですね。始めから可愛い唯華ちゃんに相談しておけば、こんなに簡単に解決できたのにぃ」


 唯華はぴょんぴょんとエリーの周りを飛び回りながら、クスクスと笑っている。

 あれは過去最高にウザそうだ……。

 いちおう、唯華の言葉の端々からは、無視されたことへの不満や、相談してくれなかったことへの怒りみたいな物が見える。

 唯華なりの照れ隠しなのかもしれないが……エリーには分からないだろう。

 エリーは怒りを抑えるように、顔を真っ赤にしてプルプルと震えている。

 噴火五秒前である。


「ほーら、悲劇のエリーちゃーん。どうしたのかなぁ?」

「ぶっころす!」

「ギャー!? チャームポイントのサイドテールを掴んで振り回そうとしないでぇぇ!? それはハンドルじゃないんですけど!?」


 二人はいつものように、ぎゃあぎゃあと騒ぎ始めた。

 こうしてエリーの退学騒ぎは、あっさり解決。

 ダンジョン配信部の稼ぎをエリーに渡すことで――


「……部活動で得た金銭を、生徒個人に渡すのって大丈夫なのかな?」

「……え? 駄目なんですか?」

「ごめん。僕も新米教師だから詳しいことは知らないけど……なんか微妙そうじゃない?」

「か、確認に行きましょう!!」


 全てを解決する最高のアイディアに思えた計画だが、思わぬ疑問が生まれた。

 時雨たちは大急ぎで部室を出ると、教頭の元へと向かった。

 校長は外に出ているので、現在の学校に居る最高責任者が教頭だったのだ。

 そして事情を説明すると教頭は――


「駄目です」


 唯華のアイディアは、あっさりと切り捨てられた。

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