第14話 ご挨拶
少し気まずいイベントは有ったものの、無事に電車を降りた。
時雨はたちがエリーの家へと向かっていると、エリーは気まずそうに時雨をチラチラと見て来る。
「あの、本当に家まで来ますの?」
「うん。遅くなったことを、親御さんにも謝っておかないと」
「そ、そうですか……」
エリーの案内によってたどり着いたのは、古い二階建てのアパートだった。
白い壁にこびりついたシミが、アパートの加齢をあらわしているようだ。
「ここが、エリーのお家で良いのかな?」
「そ、そうです」
エリーは恥ずかしそうにうつむいていた。
お嬢様だと言って『おほほほ』と笑っていたエリーの家が、普通のアパートだったのには、少し驚いた。
しかし、わざわざそれをつつく必要もない。
「それじゃあ、部屋まで案内してくれるかな」
「はい。こっちです」
エリーの家は一階の角部屋だった。
エリーがガチャリと鍵穴を回してドアを開くと、中から騒がしい声が響いてくる。
「「姉ちゃん、おかえりー!!」」
バタバタと奥から飛び出してきたのは、そっくりな顔をした男の子と女の子だ。
双子の弟と妹だろうか。ふわっとした栗色の髪が可愛い。
双子は時雨の顔を見ると、猫のように目を真ん丸にした。
「「お母さーん、姉ちゃんが彼氏連れて来たー!!」」
「ちょ、違いますわ!?」
まさかの爆弾投下だ。
時雨はまだ二十代前半。さらに若く見られがちで、高校生に間違われることも多い。
そのせいで、彼氏だと思われてしまったようだ。
「あらあら」
パタパタとスリッパの音と共に、奥からエプロン姿の女性が出て来る。
双子と同じように栗色の髪だ。エリーのお母さんなのだろうが……ずいぶんと若く見える。
二十台と言われても疑わない。
エリー母は時雨の顔を見ると、ぴくりと驚いた。
しかし、すぐにニコニコと笑顔を見せる。
「あらぁー、花ちゃん良かったわねぇ。カッコいい人を連れてきちゃって……ぜひ、上がってください」
「あ、失礼します」
エリー母に招かれて、時雨は家へと入る。
長いする気はないのだが、扉を開けてガヤガヤと話していても迷惑だ。
玄関まではお邪魔しよう。
ついでに、エリーはお母さんから『花ちゃん』と呼ばれているらしい。
「違いますわ!! この人は先生です。遅くなったから送ってくれたのですわ!」
「先生?」
「チラッと話したはずですわ。非常勤の先生で、ちょっと関わっているダンジョン配信部の顧問をしている」
「あぁ、思い出したわ」
エリー母は両手をポンと合わせた。
「花ちゃんが王子様みたいでカッコいいって言ってた人ね!」
「ちょぉぉぉぉ!? 何を口走ってますの!?」
「だって花ちゃんが――むぐぐ」
「もう、余計なことは喋らないでください!」
エリーは母に飛び掛かると、その口を塞いだ。
流石に母は強し。
当たり前のように恥ずかしい情報を暴露されて、エリーは顔を真っ赤にしていた。
「えっと、ありがとう?」
「先生まで本気にしないでください! 母が適当なことを言ってるだけですわ!」
エリーは『王子様』発言は母の妄言だと主張。
実際にどうなのかは分からない。
エリー母がお世辞として言っているだけの可能性もある。
話半分に聞いておこう。
「あら、エリーちゃんが良いなら、お母さんが貰っちゃおうかしら」
エリー母は、エリーの拘束からするりと抜けると時雨の腕を抱き寄せた。
エリー母の大きい胸が、時雨の腕を包む。
時雨はドキリと胸が騒ぐ。
生徒に手を出すのもマズいが、人妻に手を出すのもマズい。
しかも生徒の母親ならもっとマズい。
「お母さん!? なにをやってますの!?」
「あの人が亡くなってから、もう八年も経つもの……そろそろ、新しい恋をしても良いかと思うの」
「それはお母さんの自由ですが、娘の先生に手を出さないでください!」
エリーは時雨から母を引きはがそうとする。
しかしエリー母は不動である。ピクリとも動かない。
凄い体幹だ……。
「ちょ、動かないですわ……!?」
「先生、大したおもてなしはできませんが、ぜひご飯を召し上がって行ってください」
「あ、いえ、僕はエリー――花子さんを送り届けに来ただけなので……」
断ろうとする時雨だが、双子が背中に周ってグイグイと時雨の背中を押す。
「「お母さんのご飯は美味しいんだよー」」
「まぁまぁ、ちょっとだけでも休憩していってください」
「は、はぁ……」
エリー母と双子の押しに負けて、時雨はリビングへと連れて行かれた。
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