第12話 職質

「うぅ……私はなんて醜態を……あれではお嬢様失格ですわ……」

「まぁ、動画的には面白かったと思うけど」


 エリーはお嬢様らしく無かったことに落ち込んでいるらしい。

 縦ロールがしなびてしまっていた。

 そんなエリーの様子が、唯華は面白いのかニマニマと笑っている


「おやおや、思ったような動画が撮れなかったようですね」

「いや、唯華の動画も撮りたかったのとは違うのでは?」

「ぐおぉぉぉ、そうだった。可愛くて映える動画を撮ろうとしてたのにぃ……」 


 唯華はベッドに倒れて悶絶をする。

 中学生時代の黒歴史を思い出した社会人みたいだ。

 枕に顔をうずめて、ゾンビのような鳴き声を上げている。


「……そういえば、最後は先生の番でしたわ」

「いや、今日は遅いから僕の番は良いよ。解散しよう」

「先生、そうやって動画投稿から逃げようとしていませんか?」

「……バレたか」


 上手いこと動画投稿から逃げようとしたのだがバレてしまった。

 時雨はごまかす様に『あはは……』と苦笑い。


「ちょっと、先生なのに生徒との約束を破ろうとしないでくださいよ!?」

「ごめんごめん……ちゃんとスマホで撮影して投稿するから」

「スマホで撮影って……もしかして、ダンジョン配信を舐めてます?」

「まぁ、私は先生が勝手に勝負を捨てる分には構いませんわ」

「むー。罰ゲームで泣きを見ないと良いですね!」


 唯華は頬を膨らませたが、とりあえず納得してくれたらしい。

 エリーは勝負第一。時雨が負ける分には気にしないのだろう。


(……意外と勝ち目はあると思うけど)


 時雨は勝負に関して気にしていない。

 ぶっちゃけ、編集とかが面倒なので適当に撮影して終わらせようと思っていた。

 しかし、二人の撮影を見ていて負けるとも思っていなかった。


「さて、勝負は一週間ほど続きますが……さすがに毎日撮影して投稿するのは難しいです。明日はお休みにしましょう」

「そうですわね。私も毎日のように唯華さんと顔を合わせるのは疲れますわ!」

「はっ! 私だって毎日のようにぐるぐるした縦ロールなんて見てたら目が回っちゃいますよ!」

「人の高貴な縦ロールをなんだと思っていますの!? なら、今から目を回してやりますわよ!」


 エリーは縦ロールを掴むと、唯華の前でぐるぐると回し始めた。

 傍から見ると、ぶっちゃけバカっぽい。


「なにを馬鹿なことしているんですか?」

「こいつ……!?」

「まぁまぁ、そろそろ帰ろうよ」


 ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人の首根っこと、唯華の大きな荷物を持って部屋から出た。

 もうチェックアウトの時間だ。


 エレベーターに乗ってフロントへと降りる。

 すでに料金は支払い済みだが、鍵を返さなくてはならない。

 カウンターへ向かおうとすると――


「失礼ですが、お話よろしいですか?」

「え? ……け、警察!?」


 エレベーターから降りて来る時雨たちを待っていたように、警察が待機していた。

 どうして。カウンターを見ると従業員がひそひそと時雨を見ていた。

 そうですよね! 学生とホテルに入ってたら怪しまれますよね!!


 警察はサッと唯華やエリーを、時雨から引き離す。

 完全に『パパ活』だと思われている。


「ずいぶんと若い子と一緒に居るみたいだけど、お兄さんとどんな関係?」

「あわわわわ!? ち、違うんです。僕は教師で、部活動の顧問として手伝ってるだけで!?」

「ふーん。とりあえず、調べさせてもらうね」


 時雨はわたわたと焦る。

 当然だ。ようやく得た教師の仕事を失うかもしれないのだから。

 一方で、唯華とエリーは冷静に時雨を観察していた。


「先生が過去一で慌ててますね。慌ててる先生も可愛いです……」

「いや、早く助けてあげないと可哀そうですわよ?」


 その後、時雨は桜庭高校のウェブサイトに教職員として載っていたことと、唯華たちが学生証を出したこと、さらに撮影していた動画を見せたことで『ダンジョン配信部』の顧問だと信用して貰えた。

 ホテルを出れた時には、完全に日が沈んでいた。

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