第11話 ボコボコにしてやりますわぁ

 以降は、エリーが撮影した動画と、それに付いたコメントである。


 動画に映ったエリーは、口に手を当てながら優雅に笑う。


「おほほほほ、本日はわたくしの華麗な動画へようこそ!」


『華麗な動画……?』

『カレーな動画かもしれん』

『クッキング動画かwww』


「私の優雅なモンスター狩りをお見せいたしますわ。魔法獣ウィザード、おいでなさい」


 エリーが魔法機を構えると、頭の上から大根が飛び出してきた。


「ほあぁぁぁぁぁぁ!!」


 大根はシュタっと頭に着地すると、プロレスラーのように雄たけびを上げる。

 イチバァァァン!!

 とでも叫んでいるのだろう。


『声がうるせぇwww』

『エリーはなんで平気なんだ……頭の上で叫ばれてるのに……』

『縦ロールで防音してるんじゃね?』

『それだ!』


 魔法獣を呼び出すと、エリーはキョロキョロと周りを見渡す。


「さて、私の見せ場を引き出してくれるモンスターは……あそこに居ますわね!」


 エリーは目標を見つけると走り出す。

 ダダダダダ!!

 思い切りの良い走り方は、とてもお嬢様には見えない。陸上部にでも入ればいいのに。

 しかし、スカートで全力疾走をしているため、ちょっと危ない光景だった。


『早いな!?』

『あとちょっとで見えそう……』

『無理に決まってんだろwww見えてもカットされとるわwww』

『無慈悲な現実』


「鈍足な亀さん、逃げ場はありませんわよ!」


 エリーが見つけたのは巨大な亀だ。

 背負った甲羅の高さは人間並みに大きい。

 これは『ジャイアント・タートル』と呼ばれるモンスターだ。

 草食で他のモンスターとの争いは好まないが、襲われても硬い甲羅でガードして反撃するため弱くない。

 むしろオークなどよりも、真正面から倒すのは難しいモンスターだ。


「さぁ、私の華麗な剣技で切り伏せてあげます!」


 エリーが手をかざすと、大根――アルラウネからモサモサと植物が生え始める。

 それは頑丈そうな木の根っこ。

 エリーの手のひらに集まると、剣のような形にまとまる。

 最後は柄のあたりにバラの花が咲くと、一本の木刀が作られた。


『おぉ、良い感じやね』

『属性の武器を作って戦うのは定石やね。前衛はこれができないと立ち回れない』

『ポンコツと違って、ちゃんと戦えそう!!』


「さぁ、切り刻んであげますわ!!」


 エリーが剣を振るった。

 亀の頭を狙った攻撃だ。

 亀だって頭は弱点だ。決まれば一撃で絶命させられる。

 ……決まればね。


「獲った――あれぇ!?」


 亀はひゅっと体を頭を引っ込める。

 当然ながらエリーの攻撃は当たらないのだが、勢い余って甲羅をぶっ叩いた。


ったいですわぁぁぁぁ!?」


 ガツン!!

 思いっきり甲羅をぶん殴ったダメージは、亀ではなくエリーに帰って来る。

 手首にダメージが来たのだろう。

 エリーは手首をさすりながら、ゴロゴロと地面で悶える。


「こんの、ク〇亀ぇぇぇぇぇですわぁぁぁぁ!!」


 エリーは取ってつけたように『ですわ』と叫びながら、剣を振るってガンガンと甲羅を叩く。

 しかし、甲羅は開かない。


『ダメそうwww』

『まぁ、相手が悪いわwww』

『諦めて次に行こうwww』


「こうなったら、奥の手を出しますわ……」


 エリーは剣を放り捨てると、両手を前に突き出した。

 先ほどと同じように、マンドラゴラから根っこが伸びると両方の腕を覆っていく。

 完成したのは両腕を覆う籠手だ。


「これで、ボコボコにしてやりますわぁ!」


 ドン! ドン! ドン!

 エリーは拳を振るうと、重い一撃が亀の甲羅を叩く。


『今のお嬢様じゃなくて関西弁じゃね?』

『「ですわぁ↑」じゃなくて「ですわぁ↓」だったよな』

『おぅ! ジャパニーズヤ〇ザ!』

『お嬢様が如く』


 エリーは汗を流しながら亀の甲羅を叩く。

 とても勇ましい光景だ。

 ピシリ!

 その努力が実ったのか、亀の甲羅に亀裂が走る。


「貰いましたわぁ!」


 ズドン!!

 最後にもっとも重い一撃を食らわせると、パリンと亀の甲羅が割れた。

 同時に絶命したらしい。亀は光の粒子となって、魔石を残して消えていった。


「うおぉぉぉぉぉ!! 私の勝ちですわぁぁぁぁぁぁ!!」


 雄たけびを上げるエリーはとても勇ましい戦士の顔をしていた。

 ……お嬢様はドコへ行ってしまったのだろう?

 後で行方不明届を出しておかなければ。

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